泣いている人も笑顔に。5つ星ホテル出身のシェフが作る「魔法のケーキ」おいしさのひみつは…?
生きていくために、「甘いもの」は必ずしも必要ないのかもしれない。
けれど、ひと口のスイーツで、泣いている人や喧嘩したカップルも笑顔になる…。――そんな魔法のようなケーキを作り続けるシェフがいます。
『キカ洋菓子店』のオーナーシェフ諸戸さんは、パティシエ歴20年以上。名だたるレストランで経験を積み、東京都新宿の「外資系5つ星ホテル」で世界のVIPやセレブまでも魅了してきました。
トップクラスのシェフはなぜ都心を離れ、多摩市に移住したのか?パティシエを志したきっかけ、開店までのドラマのような物語。人気のケーキのおいしさのひみつまで、たっぷりお聞きします。
諸戸清貴(もろと きよたか)さん
1976年生まれ、三重県出身。大学卒業後、製菓の専門学校へ進学。卒業後は、都内の大手パティスリーにて修業を重ね、レストランパティシエの道へ。その後、外資系5つ星ホテルの「エグゼクティブペストリーシェフ」に就任。2024年4月 東京都多摩市に『キカ洋菓子店』をオープン。
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理系の大学を卒業後、製菓の専門学校へ進学。家族の理解を得てパティシエになるまで

――諸戸さんは、5つ星ホテル出身という華やかなご経歴をお持ちですが、昔からパティシエを目指されていたのですか?パティシエになるまでの経緯を教えてください。
諸戸さん:
もともと「もの作り」が大好きな子どもで、調理の仕事にも興味を持っていました。しかし高校卒業後は周囲の勧めもあり、大学へ進学することに。
転機は、大学4年生のときです。周りが電機メーカーやIT企業へ進むなか、私はどうしても就職先を決め切れず…。悩んだ末に「食の道へ進もう!」と決心しました。
調理師とも迷いましたが、お菓子のほうがひとつひとつを芸術作品みたいに「細部まで作り込める」と直感して、パティシエを選びました。当時まだ「ケーキ職人」と呼ばれる時代でしたが。
―― 理系の大学を卒業されているんですね…!専門学校へ進む決断をしたとき、家族の反対はありませんでしたか?
諸戸さん:
すぐには納得してもらえませんでしたね。
実は、大学1年生のときにも両親に「中退して、ケーキ職人になりたい」と相談していたのですが、「まず卒業して、まだやりたい気持ちがあるなら、専門学校に進めばいいんじゃないか」と説得されて。
でも、私の気持ちは変わりませんでした。卒業後、製菓の専門学校の入学手続きをすべて済ませて、家族に報告したんです。親は当時、私の前で感情を出しませんでしたが、何年も経って「あのころ相当カンカンに怒っていた」と聞きました…。
――当時の覚悟が伝わるお話ですね。専門学校を卒業し、実際にパティシエの仕事に就いてみて、どうでしたか?
諸戸さん:
パティシエの仕事はとにかく楽しいです!お店を構えた今でも「勉強することが無限にある!」と思うほど、新鮮な学びにあふれています。
専門学校卒業後は、都内の「大手パティスリー」で修行を積みました。伝統的なフランス菓子をはじめ、さまざまな洋菓子のコンクールにも積極的に挑戦しましたね。コンクールで賞をいただいた経験だけでなく、理系の大学で学んだ数式や化学の知識も、すべてが今の仕事に活きています。
名店のレストランパティシエを経て「5つ星ホテル」の「過酷な採用試験」に挑む

――その後のキャリアについても、詳しく教えてください。
諸戸さん:
大手パティスリーを退職したあとは、レストランパティシエの道に進み、都内の「ジャズレストラン」と「インターナショナルレストラン」に、計13年ほど勤めました。
今でも「自分はレストランパティシエだ!」という気持ちが強いですが、このときのキャリアが根っこにあるんです。
どちらのレストランもスタッフやお客さまの国籍がとても豊かで。英語やスペイン語の飛び交う「日本の中の外国」のようでした。私はコミュニケーションに苦手意識があるのですが、英語を勉強して話しかけ、伝わる方法を模索しましたね。
国籍もジェンダーも関係ない「多様性」の感覚、シェフとして大切なコミュニケーションの基盤もここで自然と身につきました。
――そこからさらに、ホテルのシェフへとキャリアが広がったそうですね。
諸戸さん:
そうなんです。ありがたいことに、東京の中心にある「外資系5つ星ホテル」からお声がけをいただいて。
ただもちろん、すんなり採用とはいきませんでした。スイーツの総責任者「エグゼクティブペストリーシェフ」の審査は、想像以上に厳しく…。実際にホテルのキッチンの片隅を借りて、「トライアル(実技テスト)」を受けることになったんです。
――3つ星フレンチの世界を描くテレビドラマ『グランメゾン東京』でも描かれている、トップクラスのシェフの採用テストですね…!?
諸戸さん:
まさにそんな感じです(笑)!
トライアルは、リクエストをもとに素材の手配から製造までを3日間かけ、すべてひとりでこなすという超過酷なものでした。
ホールケーキ2種、カットケーキ4種、パン5種、さらにデザートを2種――まるでひとりでパーティーを開くかのようなボリュームで…。レストラン時代の過酷な厨房、単身での出張経験を活かし、無事に合格できました。
「キカ洋菓子店」オープン。おいしいものを求めた結果、出会うのは「国産食材」

――ホテルで約3年半ご活躍され、パティシエ歴は20年以上…!コロナ禍を機に独立へ動かれたそうですね。開店の経緯を教えてください。
諸戸さん:
パティシエを20年以上続けてきて、「立ち止まれば、あっという間に置いていかれる」厳しい業界の現実をずっと肌で感じていました。
経験を積めば積むほど、自分のお店を持つことの大変さも痛感しましたね。でも「足を止めたら、後退してしまう…」そんな危機感が、前に進む原動力となり、『キカ洋菓子店』の開店を後押したのだと思います。
――店名の「キカ」にはどのような想いがありますか?
諸戸さん:
『キカ洋菓子店』には「季節の果実」「季節の菓子」「季節の香り」3つの「キカ」の意味を込めています。
せわしない現代だからこそ、スイーツの味や香りから季節の移ろいを感じて、それがお客さまの思い出につながるようなスイーツを作りたいという想いからです。
――すてきです!果物もクリームも繊細なおいしさで、感動するのですが、仕入れのこだわりも教えていただけますか?
諸戸さん:
実家は農家で、採れたての野菜を食べて育ち、素材そのもののおいしさが体に染み込んでいるんです。
「いい素材を使う」のはごく自然なこと。「生産地の国や地域がどこなのか?」という情報だけで先入観を持つことはありませが、おいしいものを吟味して、「国産食材」を使うことが多いですね。
今はSNSやネットのおかげで、個人でも農家さんと直接出会えるようになりました。あらゆる手段を駆使して、「最高の素材」を見つけることにいつも全力です。素材との出会いから、新しいケーキ作りのインスピレーションも湧いてきます。
要望や予算に上限なく。歴20年以上の技術で作り出す「ラグジュアリーなオーダーケーキ」

――お店では、フルオーダーできるホールケーキも人気です!SNSに投稿される作品を拝見しているだけで私も、楽しく幸せな気持ちになります。
諸戸さん:
ありがとうございます!オーダーケーキを作る時間を、私も心から楽しんでいます。
お客さまからのリクエストに自分のエッセンスを入れてお作りするのが、私のスタイルです。InstagramのDMからご注文いただけるのですが、お店で直接ご相談いただくと、お客さまの人柄や表情も見えて、よりその人にぴったりなものをイメージできます。
レストランやホテル時代も、さまざまなラグジュアリーなデザートを作ってきました。その経験を活かして、要望や予算に上限なくできうる限りの対応をさせていただきます。
スイーツは心の栄養。「涙を流すほどの体験価値」を多摩センターで味わってほしい

――ここまでのお話で、諸戸さんのようなトップクラスのシェフのケーキが多摩市で味わえるのは、すごく贅沢だと思いました…!でも、そもそも開業のときに、多摩市を選んだのはどんな理由があったんでしょう?
諸戸さん:
三重県ののどかな田舎で育った私にとって、多摩市の広々した環境が魅力的でしたね。
以前は新宿や青山など職場の近くで忙しく暮らしていたのですが。初めて多摩市を訪れたときに、豊かな緑と広大な空間に圧倒され「なんて贅沢な場所なんだ…」と、すっかり心を奪われてしまって。
都市の利便性を保ちつつ、暮らしにゆとりを求めていた私にとって、まさにぴったりの街でした。
――都会のよさと自然が共存する多摩市、私も大好きです!そんな多摩市で、これからどんなことをしていきたいですか?
諸戸さん:
冬は心まで温まるホットチョコレート、夏は店内でクールダウンできるかき氷やパフェ…。これからもお客さまを笑顔にする、季節折々の商品を考えていきたいです。
今年もすでに夜パフェの営業を始めたり、体験型のスイーツワークショップを企画したりと、新しいことに挑戦しています。
――私も実はお店のファンなのですが、そのとき心が欲しているものを、タイムリーに届けてくださるんですよね。仕事や育児でへとへとなときも、ひと口で笑顔になれます!
諸戸さん:
ありがとうございます。スイーツは「心の栄養」でもありますよね。
これまでも、ひと口で涙を流すほど感動してくださる姿や、喧嘩していたカップルがふっと仲直りする瞬間、泣いている人や怒っている人が笑顔になる瞬間に、何度も立ち会ってきました。
3食の食事さえあれば、甘いものはなくても人は生きていけるかもしれません。けれど、人生を豊かにするために必要とされる、心に残るスイーツをこれからも届けていきたいです。
―― 最後に、お店が気になっている方へ向けて、メッセージをお願いします。
諸戸さん:
私もそうなのですが、初めて訪れるお店の扉を開ける瞬間って緊張しますよね(笑)。でも、「何も買わずに帰ったら失礼だ」なんて心配はいりません。
まずはショーケースに並ぶケーキやプリンを目で見て楽しんでいただき、もしお時間があれば、私とお話ししてくださるだけでも大変うれしく思っております。
スイーツの口どけや香りの余韻まで、「最高の時間」と「体験価値」をお届けします。作りたてを味わえるイートインスペースもぜひ、ご利用いただけたら。

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取材に訪れたのは6月中旬の昼下がり。お客さんが次々と来店し、思い思いにアイスコーヒーや冷たいスイーツを楽しんでいました。
「扉を開けるのに緊張する」「敷居が高いかも…」なんて心配は要りません。諸戸シェフが心を込めて作るスイーツには、ひと口で悩みごともふわっと軽くなるような、やさしさに満ちています。
子育てや仕事でちょっと心が疲れたとき、大切な人の笑顔が見たいとき。心動かす「魔法のケーキ」が、ここにあります。
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キカ洋菓子店 / KIKA SWEETS LABOLATORY
住所:東京都多摩市豊ヶ丘1-61-16 コーポ唐沢102
最寄り駅:多摩センター駅、小田急多摩センター駅、京王多摩センター駅
営業日:月曜定休、 11:00〜19:30(店休日前日は~19:00)
駐車場: 2台有り
お問い合わせ:InstagramのDMへ
オーダーケーキ:ご予約は3日前まで
ネットショップ(焼菓子・冷凍ケーキ)はこちら
おいしい素材を求め、「国産国消」も取り入れている『キカ洋菓子店』。ロスを最小限にとの想いで、ショーケースの並べ方にも細やかな気配りが行き届いています。
さまざまなカルチャーに触れてきたからこそ、どんなお客さまも温かく迎えてくれる、諸戸シェフ。お店にはイートインスペースもあります。季節限定のパフェやかき氷は、注文を受けてから仕上げるレストランスタイル。気さくなシェフとの会話を楽しみながら味わうスイーツは、また格別です。
多摩センターにお立ち寄りの際はぜひ、『キカ洋菓子店』の扉を開けてみてください。
〈取材・撮影・文=小嶋絵美〉
