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『望郷太郎』——500年後の世界を歩く「人間」への問い

文明が滅びた未来で、たったひとり目覚めた男。
彼の「帰りたい」という想いが、500年の時を越えて問いかけてくる。
『望郷太郎』(山田芳裕 作)を読んで感じたことを綴ります。


500年後の世界で、ひとり目覚める

物語の主人公・太郎は、かつて大企業の社長として成功を収めていた人物です。
しかし、突如訪れた寒冷化により人類は滅亡の危機に瀕し、太郎は家族とともにイラクのバスラにある企業の冷凍睡眠シェルターでコールドスリープへ。
そして500年後、彼だけが目覚めます。

目の前に広がっていたのは、かつての文明が跡形もなく消えた世界。
電気も、文字も、国境もない。
太郎はひとり凍てついた大地を歩き始めます。


文明がなくなっても、人は人なのか

ここから少しネタバレを含みます。
この漫画は何も知識なく読むのが一番面白いので、ここまでで何かを感じた方は是非一巻をお読みください。


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太郎が出会う人々は、彼の言葉も文化も理解しません。
文明を失った彼らの暮らしは、太郎の知る「人間社会」とはまったく違う。
けれどその中にも、家族を思う気持ち、食を分け合う優しさ、そして恐れや欲望が確かに存在していました。

最初は彼らを「原始的な存在」と見ていた太郎が、次第にその価値観に心を動かされていく。
この変化がとても丁寧に描かれています。
読んでいるうちに、自分が当たり前と思っていた「文明」とは何だったのかと考えさせられました。


生きることは、失うことの連続

印象的だったのは、太郎がかつての“象徴”ともいえるものを、旅の途中で手放す場面です。
それは彼にとって文明そのもの、過去の自分の誇りでした。
しかし、過酷な自然の中ではそれはただの荷物でしかなく、
太郎は生き延びるために、自分の中の「文明人」を少しずつ削ぎ落としていきます。

その姿に、人間が生きるために本当に必要なものはなにか、という問いが隠れているように思いました。


望郷とは、帰る場所を探すこと

『望郷太郎』というタイトルには、「故郷を思う」という意味が込められています。
けれど、太郎が探しているのは単なる「場所」ではなく、
“人として生きる意味”そのもののように思えます。

文明が滅んでも、人は人を求め、誰かと生きようとする。
どんな時代でも、そこに“望郷”がある。
この静かなメッセージが、読み終えたあともしばらく胸に残りました。


さいごに

『望郷太郎』は、派手な展開やテクノロジーで驚かせるタイプのSFではありません。
むしろ、沈黙の中にある人間の強さと弱さを描いた作品です。
太郎の旅路は、現代を生きる私たちにも通じる「再出発の物語」。

文明が進みすぎた時代にこそ、この静けさが沁みます。
もし読んだことがなければ、ぜひ1巻から手に取ってみてください。
太郎の旅を追ううちに、自分の中にも“帰りたい場所”が浮かび上がってくるかもしれません。


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