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あの日、僕のハサミが初めてレジを鳴らした。

📝 このnoteは、「#はじめてのお金」コンテストの応募作品です。
ぼくの“お金の原点”を、正直に、まっすぐに書きました。

スタイリストとして働いたのち、
現在は美容専門学校の教員として
そして「とももち」という名前でヘアケア情報を発信しています。

SNSやnoteでの発信は、
「髪を通して、誰かの今日がちょっとよくなる」ために続けているものですが、その原点には、ひとつの忘れられない記憶があります。

はじめて「自分のハサミ」でお金をもらった、あの日のこと。
このnoteは、その日の記憶をたどる、ぼく自身の物語です。


お金を預かる手に、何も感じなかった日々。


パーマ剤のツーンとする匂いと
ドライヤーの音が混じる、あの独特な空気。

営業後、シャンプー台の床に落ちた髪をほうきで集めながら、
「いつになったら自分も切れるんだろう」って、
何度もため息をついた。

ぼくはアシスタントとして、
毎日レセプションに立っていた。

レジは、何百回も打ってきた。

「5,500円です」
「こちら領収書です」

笑顔でレジを打つ。
お釣りを渡す。
深くお辞儀をする。

「ありがとうございました」

お金は、何度も何度も手渡しした。
でも、何も感じなかった。
仕事だからと思っていた。

ただ商品を渡し、お釣りを出し、深く頭を下げる。
そこに“自分”は、いなかった。

朝は掃除から始まり、夜は練習に終わる。
帰る頃には日付が変わっているのが当たり前。

それでも自分の夢を叶えるために
自分自身の心を奮い立たせハサミを握る。

先輩たちが帰ったあとBGMも止まり、
静かな店内でウィッグを何度も何度も切り直した。

ハサミの音だけがフロアに響く。

切った髪が床に落ちるたび、
イライラと悔しさが混ざった。

「この1cm切るのに何時間かけてんだよ……」

そんなぼくを見て、「ラーメンでも行くか」。

声をかけてくれたのが当時の店長(今は地元で独立しオーナー)だった。

深夜0時、湯気の立つ味噌ラーメンを
すすりながら、こう言った。

「美容師は、ハサミで人を笑顔にする仕事だ」

当時の自分は全くピンとこなかった。

でもその言葉は、ずっと胸の奥に残り
なぜか忘れられなかった。


デビューまでの道のりは、まっすぐじゃなかった


専門学生の頃から、バイト代をコツコツ貯めて
買ったはじめての“高いシザー”。

8万もした。
メーカーさんが直接ハサミを納品で
持ってきてくれた。

ケースを開けた瞬間、
「あぁ、自分はこの道で生きていくんだ」って
変に覚悟を決めたのを覚えてる。

手汗で滑らせるのが怖くて、
最初はシザーケースから出すのも緊張した。

でも、夢だった。

「自分の手で、髪を切って、生きていく」

その想いだけで突っ走った。
だけど、現実は厳しかった。

カラーのチェックで呼ばれたとき、
薬剤の配合を間違えてオーダー通りの色味を出せず
お客様からクレームをもらった。

あのときの謝罪の声、
涙をこらえながら報告した終礼。

「なんでこの仕事選んだんだろう」って
落ち込んだ夜。


ぜんぶ、全部、覚えてる。


デビュー前夜、眠れなかった


営業終了後タオルを干しながら
何度も手が止まった。

心臓の音がうるさい。

帰る前にシザーケースを腰につけ
セット面で確認すると、いつもより重く感じた。

「ついに明日、髪を切るんだ……」

眠れなかった。
いや、眠るのが怖かった。


「今日、指名なしのカット。行けるか?」


その一言が、すべての始まりだった。
朝の全体ミーティングで店長からの一言。

血の気が引くのと同時に、
体が熱くなるのを感じた。


来店したのは、静かに笑う女性だった。

シャンプーの泡を流しながら、
「お仕事お休みだったんですか?」と尋ねる。
笑ってくれた。その笑顔に、少しだけ安心した。

カウンセリングで
「髪の毛どのぐらい切りますか?」と聞くと
彼女はこう答えた。

「ちょっと気分変えたくてね」と微笑んだ。

ドキッとした。
その笑顔が「あなたに任せるよ」と言ってる気がした。


ハサミを持つ手が、汗で湿っていた


カット中、何度も自分の息遣いが耳に響いた。

“8万円のシザー”が
まるで別物みたいに重かった。

でも、不思議と、迷いはなかった。
深夜のラーメン、クレームで凹んだ夜、悔しくて練習で泣いた日。

すべてが、この一瞬のためだったんだとわかった。
全部が、今この刹那につながっている気がした。

仕上げのブローを終え、鏡の前でクロスを外す。
毛先が軽やかに揺れた瞬間、その人はふっと笑った。

「すごく気に入った。ありがとう」


その言葉と一緒に、4,950円がレジで動いた。

レジで見た数字は、見慣れた金額。
何百回も見た金額なのに、
でもその日だけは、心臓がバクバクして止まらなかった。

お客様の手から渡されたお札の感触が
ほんのり温かかった。

「これ、自分のハサミで生まれたお金なんだ」
喉の奥が、じんわり熱くなった。


たかがカット。でも、人生が変わった。

「ありがとう」の意味が、やっとわかった。


ぼくはこの日、
「ありがとう」の重さを、初めて全身で理解した

アシスタント時代の「ありがとう」は、
補助への感謝だった。

でも、この日の「ありがとう」は違った。

技術も、言葉も、空気感も全部
自分に向けられたものだった。

僕という存在そのものへの肯定だった。

髪の長さだけじゃない。
不安や悩み事まで、
一緒に軽くしてあげられた気がした。

今までしてきたたくさんの経験。

その全部が、その人の心に届いた。
それが「ありがとう」という形になって、
4,950円に変わり、ぼくの手の中に残った。


あれから、たくさんの髪に触れてきたけれど


あのときの4,950円を、
ぼくはずっと超えられないままかもしれない。

 いまぼくは、美容学校の教員として、
「髪に触れることの意味」を伝える立場になった。

SNSでもヘアケアのことを発信している。

「とももち」という名前で、
多くの人と髪の話をしている。

でも、どれもこれも──
あのデビュー初日の4,950円が教えてくれたことだった。


あなたの「はじめてのお金」、まだ覚えていますか?


売ったのはカットの技術じゃなくて、
その人の「安心」をつくった時間。

もらったのはお金じゃなくて、
“あなたの手で変わった”という実感。

その感覚が、ぼくをここまで連れてきてくれた。


実はこの体験が今の“とももち”につながっている


あの頃のぼくは、まさか自分が
「ヘアケアオタク」としてnoteを書いてるなんて
想像もしてなかった。

でもたぶん、根っこは変わってない。

“髪を通して、誰かの背中をそっと押せたら”
そう思って、今日も言葉を書いています。

だから、ぼくは髪のことを話し続ける。
成分のことも、ドライヤーの風量のことも、
「ありがとう」に繋がると信じてるから。

あなたが、美容師じゃなくてもいい。

誰かの役に立てたとき、
そっと心が震えたあの感覚
あなたにもありますように。


最後に、そっと聞かせてください


あなたにとっての「はじめてのお金」は、どんな風景でしたか?
もしよければ、 #はじめてのお金  で教えてくださいね。

きっとそれは、誰かの記憶をノックする


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