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ROA(後編)の重要性。現場に必要な資本効率思考とは?【ビジネス解体新書 / 戸田成人】

前編のコラムでは、デュポン展開を用いて「ROEの化粧(罠)」を暴き、企業の本質的な戦闘力を測る「ROA(総資産利益率)」の重要性について解剖しました。

後編となる今回のコラムでは、この経営トップが持つべき「資本と資産の視点」を、いかにして現場の組織にインストールし、筋肉質な事業構造へと生まれ変わらせるのか。

その具体的な組織マネジメントの手法について深く紐解いていきます。

限定合理性の罠
なぜ現場はPLしか見ないのか

「うちの社員は売上のことしか考えていない。資産効率への意識が低すぎる」

経営者の皆さんからよく聞かれる嘆きですが、これは社員の能力が低いからではありません。

ノーベル経済学賞を受賞したハーバート・サイモンが提唱した「限定合理性(Bounded Rationality)」という概念で説明がつきます。

人間は、与えられた情報と評価基準の範囲内でしか合理的な判断を下せません

現場の社員がPL(売上や利益)しか見ないのは、経営陣がBS(貸借対照表)の情報を現場に降ろしておらず、かつ「売上」でしか彼らを評価していないからなのではないでしょうか。

彼らは決められたルールの下で、極めて合理的に「売上至上主義」という行動を選択しているに過ぎず、本人の個別の能力とはまた別なのです。

ROA思考の原石が、
現場の違和感を拾う

しかし、現場で泥臭く戦っている従業員の中には、財務諸表など読めなくても、無意識にこのROA(資産効率)の視点を持って動いている稀有な人材が存在します。役割もありますが、まさに、次世代経営層の卵かもしれません。

例えば、倉庫に眠っている滞留在庫を見て、こう発言する若手営業担当です。

「この在庫、原価を割ってでも今すぐセールで現金化しましょう。ここにモノとして資産が寝ている状態は死に金です。早く現金に換えて、次のヒット商品の仕入れに回した方が絶対に利益が出ます」

彼はROAやCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)という会計用語を知らないかもしれません。

しかし、会社のアセット(在庫)が滞留していることの無駄を憎み、それをどう回転させれば最も効率よくリターンを生むかを本能的に理解しています。

あるいは、稼働していないオフィスの空きスペースを見て「ここを別事業に貸し出せないか」と考える総務の担当者。彼らもまた、遊休資産の収益化を目論む未来の経営幹部候補です。

経営トップは、こうした現場の無意識の資本効率思考を決して見逃してはいけないはずです。

資産効率思考の人材をつくる、
3つのアクション

では、こうした「未来の経営幹部」を偶然の産物にせず、組織のOSとして意図的かつ量産的に増やしていくためには、経営陣はどのようなアクションを起こすべきでしょうか。

私は次の3つのステップの実装が不可欠だと考えています。

① BS(貸借対照表)の民主化と、コストの可視化

在庫が1日滞留することで発生する保管コスト、オフィスの平米あたりの賃料、使われていないシステムの維持費。

これら「見えないBSの重み」を現場の日常業務の言語に翻訳し、透明性を持って公開することからすべては始まります。「資本にはコストがかかっている」という事実を、現場の共通言語にするのです。

② 評価指標(KPI)を「額」から、「回転スピード」へ

いくら口で効率を説いても、人事評価が売上至上主義のままでは人は動きません。営業部門の評価に「在庫回転日数」の短縮を組み込む。あるいは、新規プロジェクトの評価に「投下した資本が何ヶ月で回収できたか」という視点を持たせる。

PLの額面だけでなく、BSの軽さやお金の回転スピードを評価システムに直結させることで、組織のカルチャーは確実に変容します。

③ 擬似的な「BS責任」を持たせる権限移譲

各部門のリーダーに単なる予算消化の権限を与えるのではなく、「遊休資産の処分権」や「予算枠内での投資の再配分権」を与えます。

滞留在庫を独自の判断で損切りし、そのキャッシュで新しい施策を打つ自由を与えるのです。自らの判断でアセットを流動化させ、リターンを生み出すという「小さな経営体験」を積ませることこそが、ROA思考を鍛える最強のトレーニングになります。

究極の指標「ROIC」の導入と、
真の事業変革

これらのアクションが組織に浸透した先に、経営トップが見据えるべきもう一つの指標があります。

それが「ROIC(投下資本利益率)」です。

事業活動のために実際に投下した資本(有利子負債+株主資本)に対して、どれだけのリターン(税引後営業利益)を生み出したかを測る指標であり、ROAから事業に無関係な余剰資産を省いた、より厳格で実践的なマネジメント指標です。

このROICが、銀行や株主から要求される調達コストである「WACC(加重平均資本コスト)」を上回っていなければ、その事業は存続する意味がありません。

オムロンや花王といった先進企業は、このROICツリーを現場のKPIにまで細分化して落とし込むことで、強靭な組織を創り上げているそうです。

会社のお金とアセットを、いかに効率よく、正しい未来へと投資するか。

ROEとROAという指標の本質を理解し、表面上の数字の化粧に騙されず、現場の原石を拾い上げ、育てるシステムを実装する。

単なる売上拡大のゲームから脱却し、強靭で筋肉質な組織へと自社のOSを書き換えること。この冷徹な資本の視点を持つことこそが、これからの不確実な時代を生き抜くための、真のReBusinessへの第一歩だといえるのではないでしょうか。

資本効率という名の羅針盤を組織に実装する覚悟がおありなら、いつでも私たちにご相談ください。共に次代の高収益フォーマットを創り上げましょう。

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