おひさまマヨネーズ🧠のブレイクタイム 〜『陽介を、お願いします!①』
新人三人が「おひさまマヨネーズ」に入社して、三か月が経った。
商品研修、電話応対、伝票の処理。
ひと通りの仕事を教わった三人は、少しずつ先輩の営業に同行するようになっていた。
最初に結果を出したのは、荻原くんだった。
話し方が自然で、相手の反応を見ながら説明できる。
先輩に同行しただけのはずが、帰り際には取引先から、
「次も荻原くん、連れてきてよ」
と名指しされていた。
三山さんも負けてはいない。
分からないことは素直に質問し、教えてもらったことはすぐにメモする。
明るくて愛想もいいため、取引先の女性担当者から、
「今度の試食販売、三山さんにお願いできませんか?」
と仕事を任された。
そして、筋山陽介。
初めて営業へ同行した日。
筋山は会議室の椅子から立ち上がり、練習どおりに名刺を差し出した。
「おひさまマヨネーズの、筋山と申します」
ここまでは完璧だった。
「本日は……」
取引先の担当者が、筋山の次の言葉を待つ。
「本日は……」
筋山は、もう一度言った。
しかし、その先が出てこない。
代わりに、口角だけが、きゅっと上がった。
筋山スマイルである。
担当者も、つられて微笑んだ。
筋山も、さらに微笑んだ。
担当者の笑顔が、少し困った形になった。
筋山の笑顔は、まったく崩れなかった。
そのまま、十秒が経過した。
「あの……本日は、新商品のご案内に伺いまして」
たまらず先輩が引き取った。
筋山は静かに着席した。
その顔には、なおも筋山スマイルが浮かんでいた。
本人としては、最後まで笑顔を絶やさなかったつもりである。
その日の帰り道、先輩は筋山を励ました。
「最初はみんな緊張するから。次はもう少し、自分から話せるようにしような」
「はい!」
筋山は元気よく答えた。
しかし、その夜。
同期のグループチャットには、荻原くんから、
《来週、今日の取引先にまた行くことになった》
と報告が入った。
続いて三山さんも、
《私も試食販売を任せてもらえました~!》
と書き込んだ。
筋山は、スマホの画面を見つめた。
荻原くんは、名指しされた。
三山さんも、名指しされた。
自分だけ、誰からも指名されていない。
さすがの筋山も、焦った。
