14年分の日記をAIに読ませたら「FBI交渉術」を薦められた——正論で勝てない自分を救う「代行内省」の視点
どうも、ゆきひろです。
北海道はようやく夏らしくなってきて、大通り公園のビアガーデンが楽しみで仕方ありません。さて、今回は、AIを用いたちょっと面白い実験をしてみた話から始めさせてください。
AIに、14年分の自分を読ませてみた
先日、過去14年ぶんの日記をぜんぶAIに読み込ませて、こう聞いてみました。「今の自分に、一冊おすすめの本を選ぶとしたら何?」と。
それだけだと物足りなかったので、もう一歩踏み込んで、「なんでその本なの?」と、AIに聴いてみました。
せっかく自分のことを一番よく知っている相手なのだから、やってみようという好奇心のままに聴いてみた形です。
返ってきたのが、
元FBIの人質交渉人クリス・ヴォスの『逆転交渉術(Never Split the Difference)』でした。
【本の中身は、思っていた交渉術と違った】
本書は全10章。
前半(1〜5章)は「聞く」ための技術。
・相手の言葉を繰り返すミラーリング
・感情を言葉にして映し返すラベリング
・そして「その通りだ」を引き出す要約。
後半(6〜10章)は一転して、値決めや主導権をめぐる技術。
・アンカー
・狙いを定めた質問
・段階的な譲歩の型。
副題には「ハーバード流交渉術を超える」とあります。
合理的に損得を計算して落としどころを探す、いわゆる王道の交渉術を、あえて乗り越えようとしている本のようです。
読み始める前は、交渉術自体を「駆け引きのテクニック集」だと思っていました。
けれど中身はむしろ、「とにかく話を聴く」傾聴術の本だった、というのが第一印象です。
【意外だったこと①:交渉は「0:100で勝つ」世界だった】
人質交渉というものが「0:100で勝たなければならない」世界であり、
この交渉を成し得る方法を分析しています。
これよりタフな交渉って、そうそう存在しないのではないか、とも感じます。
考えてみれば当たり前で、人質の命がかかった場面で「まぁ間を取って半分だけ解放しましょう」は、成立しないわけです。
本の原題である Never Split the Difference は、まさに「差を足して2で割るな」という意味だそうです。
妥協は一見、大人な対応に見えるけれど、双方が少しずつ損をして、誰も本当には納得していない着地でもあるのかもしれません。
0:100で勝つ、という極限の世界から逆算された技術だからこそ、日常の交渉にもそのまま効くのではないか、と感じています。
【意外だったこと②:カギは「論理」ではなく「納得感」だった】
交渉の”勝ち”は何で決まるのか。
本を通して繰り返し出てくる例題から浮かんできた"自分なりの答え"が、「納得感」でした。
ここで効いてくるのが、「論理 vs 納得感」という対立だと思っています。
論理でねじ伏せることができても(また、どれだけ客観的にみて正しいことであっても)、相手が納得していなければ、その合意は後で崩れる。
会議で「はい、わかりました」と返ってきたのに、結局誰も動かない、という場面に近いのかもしれません。
頭で理解してもらうことと、腹で納得してもらうことは、まったく別物。
腹落ちしてこそ、行動に移る機会が増えていく。
論理が正しいから、正しく皆が行動するとは限らない。そして、それは自分自身にも言えることだと思います。
交渉の本でありながら、自分を守るための防御術としても使えそうな内容でした。
【意外だったこと③:その「納得」は、外から作られることがある】
正直、一番ゾッとした部分になります。
納得感というのは、てっきり本人の内側から自然に湧いてくるものだと思っていました。
けれど実は、外から作り出せてしまう、という事実です。
たとえばアンカー効果。
最初に提示された数字が、その後の判断の基準になってしまう。
さらに、端数の悪いやたら具体的な数字を段階的に出していくと、
相手は「これはかなり譲ってもらった」と納得感を強めるそうです。
本人は「自分が考えて、納得して決めた」と思っている。
でも、その納得の枠組みそのものは、相手が設計している。
ここにも、「内側から湧いた納得 vs 外から設計された納得」という対立がある気がします。
する側になれば強力な技術です。でも受け手として読むと、少し怖い。
自分が「お得だ」「これでいい」と感じるとき、その感覚が本当に内側から出たものなのか、それとも上手に用意されたものなのか、区別がつかなくなる。
だからこそ、交渉には相応の準備をして臨むものなのかもしれない、と身の引き締まる思いがしましす。
【今回のキラーフレーズ】
読み終えて一番残ったのは、この一文でした。
「交渉が本当に上手い人は、相手が交渉されていることにすら気づかせない」
ここで、昔どこかで聞いた別の言葉を思い出します。
「本当に嘘が上手い人は、"嘘をつけない人"だと思われている人だ」。
この二つ、まったく同じ構造をしているように見えます。
技術の最高到達点は、技術が見えなくなること。
上手であればあるほど、上手さそのものが消えていく。
ただ、ここで一つ引っかかりが残ります。
相手が「自分で決めた」と感じたまま、こちらの望む方向へ進んでいく。
それは、優しさなのか、それともただの操作なのか。。。
自分なりに引いた線は、「答えの出どころ」でした。
ここにも、「操作 vs 内省のお手伝い」という対立軸があるように思います。
こちらが用意したゴールへ相手を寄せていくなら、それは操作。
相手の判断力を奪ってしまう。
でも、答えが相手の内側にしかなくて、それを一緒に見つけるために自分を消すのなら、内省や判断のお手伝いに近づく。
同じように黙っていても、向いている方向が正反対なのだと思います。
家庭と職場で、恐る恐る試す
本を読みながら、この実践方式を子ども相手に試してみました。
指示する代わりに「疲れちゃった?」と気持ちを先に言葉にして、「どうしたらいいと思う?」と本人に返す。
すると、駄々をこねる時間がぐっと減り、自分で決めた通りに動く場面が増えました。
狙い通りに子どもが動いた瞬間、”こういうことか”という嬉しさと
同時に「操ってしまったのか?」と、ちょっと歯痒くなりました。
この感覚は、たぶん忘れない方がいい感覚だと思っています。
そして、これは仕事でもそのまま効いてくるのではないか、という気がしています。
普段の合意形成を進めるとき、正論で「この進め方が最適です」と押し切っても、たいてい後で止まります。
現場が腹落ちしていないと、決めたはずのタスクが動かない。
だから、いきなり結論を置くのではなく、「今の運用、どこが一番しんどいですか?」と
相手の感情や現状をラベリングしてから、「じゃあ、どう変えたら楽になりそうですか?」
と本人側に答えを返してみる。
答えがメンバーの内側から出てくると、こちらが指示したときより明らかに動きが軽くなる——そんな仮説を、いま職場で恐る恐る試してみようかと。
自分自身のことも、チームのことも俯瞰しながら、納得感のある方針やタスクを形にし続けていけたらいいな、と思っています。
おわりに
14年分の自分を読み込んだAIから、勧められた本を読んでみたというのが、なんとも今っぽくて面白い読書体験でした。
日記を全部AIに読ませて、選書の理由まで逆取材する——言ってみれば「代行内省」のような読み方は、思いのほか自分に効いた気がしています。
まだ、本書の後半の交渉技術は使いこなせていませんし、これから、さまざまな場面で試すことになりそうです。
完璧にはほど遠いですが、この読み方自体がしばらく手放せなくなりそうなので、実験は続けてみようと思います。
「正論は正しいはずなのに、なぜか話が通じない」ともどかしさを抱えている方に、
何か一つでも引っかかるものがあれば嬉しいです。
参考文献: クリス・ヴォス『逆転交渉術——まずは「ノー」を引き出せ』(原題 Never Split the Difference)
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