若い世代とかつての価値観
「最近の若者には、何か指摘するとパワハラだと言われかねない」
「厳しく指摘すると直ぐに辞めてしまう」
「会社の行事や飲み会にも参加せず、指導の仕方が分からない」
このように、若い世代の社員との接し方にお困りの経営者の方、多いのではないでしょうか。
今回は「若い世代とかつての価値観」というテーマで、組織運営について考えてみたいと思います。
かつての価値観の喪失について
私は以前、東北地方に住んでいました。
私がかつて住んでいた東北地方、福島県には「日新館」という会津藩の藩校がありました。
白虎隊や2013年大河ドラマ「八重の桜」の主人公、新島八重と関わりのある学校です。
江戸時代も200年が過ぎ、太平の世になってくると、今までの風習が変化し武士の気もゆるみ始め、道徳の退廃も顕著になってきました。天明2(1782)年から数年間続いた天明の大飢饉をはさんで、会津藩内でも様々な問題が出てきます。その諸問題を解決すべく、5代藩主 松平容頌の時、家老 田中玄宰は藩政の改革をするよう進言し、その中心に「教育の振興」をあげ、このことが日新館創設のきっかけとなりました。
藩政改革の中心を「教育の振興」にあげ、創設された日新館。
この日新館には、幼い子どもたちが自らを律する「什の掟」というものがあったと言います。
一、年長者(としうえのひと)の言ふことに背いてはなりませぬ
一、年長者にはお辞儀をしなければなりませぬ
一、嘘言(うそ)を言ふことはなりませぬ
一、卑怯な振舞をしてはなりませぬ
一、弱い者をいぢめてはなりませぬ
一、戸外で物を食べてはなりませぬ
一、戸外で婦人(おんな)と言葉を交へてはなりませぬ
ならぬことはならぬものです
同じ町に住む六歳から九歳までの藩士の子供たちは、十人前後で集まりをつくっていました。この集まりのことを会津藩では「什 (じゅう)」と呼び、そのうちの年長者が一人什長(座長)となりました。
毎日順番に、什の仲間のいずれかの家に集まり、什長が次のような「お話」を一つひとつみんなに申し聞かせ、すべてのお話が終わると、昨日から今日にかけて「お話」に背いた者がいなかったかどうかの反省会を行いました。
https://nisshinkan.jp/about/juu
当時の会津藩では小さい頃からこの掟をもとに、「会津武士はどうあるべきか」を互いに約束し、組織人としてのあるべき姿の認識を深めていきました。
若い世代の価値観で言えば、このような発言をする社長は、パワハラ社長に該当しそうですし、「ならぬことはならぬものです」の一言も、独善的かつ思考停止を引き起こす言葉として、問題発言として取り上げられる可能性があります。
今の日本で、「年長者の言うことに絶対に背いてはいけない」と公式に言える社長はいないでしょう。
このような価値観は、良い悪いは別にして、かつての日本では程度の差こそあれ、当たり前のこととして受け入れられ、この価値観の下で、企業運営がなされていました。
かつての価値観と日本型雇用制度
上記のような日本に以前からあった儒教的価値観は、個人主義、能力主義、男女平等、多様性重視等の考え方によって、揺らいできています。
そして、上記の価値観と方向性を同じくする年功序列、終身雇用といった日本型雇用制度についても、雇用流動化、ジョブ型雇用、45歳定年制、副業推奨等、新たな人事制度が打ち出されることによって、揺らいできています。
環境が変化する中、価値観が変わったから制度維持が困難となっているのか、制度維持が困難になるに従って価値観も変わっていくのか、因果関係は不明瞭ですが、価値観も雇用制度も従来型のものが通用しない、正解のない時代になっているのが現代です。
社長の役割は会社の価値観を言葉にすること
同じ価値観を共有できていない時代、正解のない時代、若い世代の人は働き方について迷うことも多いでしょう。
若い世代の人だけでなく、働く人、皆、一様に迷っています。
社員一人一人、「普通」「当たり前」「常識」が異なるという前提の中で、社長は、会社を運営していかざるを得ない時代です。
このような迷い多き時代、社長が社員に対して行うべきことは、自社の価値観を明確にし、価値観に共有する社員とともに働くことです。
「価値観を明確にする」とはどういうことかと言えば、先程上げた「什の掟」における「ならぬことはならぬものです」を明確に定め、言葉にして社員に知らしめることです。
会社の「ならぬこと」、社員が自らを律するために最低限守るべき掟は何なのか、そして、掟を守ることを通じて「私たちは何者なのか」これを明確に決めて、言葉にすることが、第一に社長に求められることになります。
その上で、
「うちの会社は、このような考え方を持って社員に働いて貰っている。この考え方に賛同できるのであれば、是非、入社願いたい」
採用段階で求職者に伝えることで、価値観のズレをなくしていくことが求められるのです。
掟とゴールを明確にする
様々な価値観を持つ人が増えたからこそ、会社は、自社の価値観を「掟」として明確に打ち出していくことが求められます。
そしてもう一つ、社員を迷わせないために必要なことは、求めるゴールを明確にしていくことです。
会社には、目的があり、目的にたどり着くため、目標を設定しています。
そして、組織が目標にたどり着くためには、社員各人が自分の目標を理解している必要があります。
この「ゴールを明確にする」という考えも、社長は社員によってズレることを認識下さい。
例えば、「この商品で売上100万円を今月上げてください」というゴールで迷わず動ける社員もいれば、同じゴール設定でも、「そもそも誰に売ればいいのか分からない、どのように売ればいいのか分からない、売れるかどうかも分からない」と、迷ってしまう社員もいます。
人はこれまでいた環境や得てきた経験の中、価値観も異なれば、ゴールへの道筋を判断する能力にも差があります。
その社員にとって明確なゴールが設定できているか、「掟」ともう一つその社員にとって「明確なゴール」を設定していくことが、迷い多きこの時代に社長に求められていることです。
働く人を迷わせないこと
日新館が創設された時代背景(前述抜粋参照:『江戸時代も200年が過ぎ、太平の世になってくると、今までの風習が変化し武士の気もゆるみ始め、道徳の退廃も顕著になってきました。天明2(1782)年から数年間続いた天明の大飢饉をはさんで、会津藩内でも様々な問題が出てきます。』)は、戦後70年を経過し、働く人の気もゆるみ、道徳の退廃、経済環境の悪化と、現代の状況と重なることも多くあると考えます。
日新館が中心に掲げた「教育の振興」とは、「組織人としてのあるべき姿を若者に浸透させること」だったのではないでしょうか。
残念ながら、現代の学校教育では、多様な価値観を許容せざるを得ないが故に、各会社に即した教育を行うことは困難です。
企業が教育機関をしての役割を果たさざるを得ないのであれば、社長はあらためて自社の「掟」から、作り上げて下さい。
今の時代は、多様な価値観の中で、迷うことが多い時代です。
社員を迷わせないことが社長の役割です。
「うちの会社では、これが掟です。この掟を破ることはあってはなりません。この考えに賛同いただけるのであれば、この掟の下で、一緒に会社の目的に向かって働いて頂けますか」
このような掟を会社の価値観の根本に置き、その上で、「あなたに求めているゴールは、いついつまでに、〇〇の状態を作ることです」と明確に伝えること、これが社員を迷わせない社長がすべき対応となります。
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