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立冬の信越、源泉と美食を味わう⑥【遂に出会う 今年最高の源泉】

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 「民宿みよしや」には男女別の小さい内湯が二つのみ。この日は客は私一人しかいなかったので貸切状態だった。

 脱衣所に入っただけで鼻腔を貫く油臭。海水を混ぜたような独特な香りで不快感はない。戸を開け浴室に入った瞬間、一層増した香りと眼前に現れた源泉に衝撃を受ける。
 
 カエルの親子のモニュメントの湯口。この小さい浴場にしては贅沢過ぎるほどの湯量がドバドバと。そして何よりも、この湯は間違いなく「無色透明」だ。

 私が以前入浴した松之山温泉の源泉は、確かに湯は薄緑の褐色を帯びていた。共同湯的な役割を負う「鷹の湯」は、濾過循環消毒液投入あり。また、とあるハイグレードな旅館であり、かけ流しを謳う湯にも色付きがあったと記憶している。
 

 だが無色透明のこの湯こそが、正真正銘の松之山の源泉。
一般的に、湯が濁るのは源泉が酸化(劣化)したことを意味する。湯口からは透明の源泉が出ていても、浴槽に張られている湯は色付きがあったりするのはその影響を受けたものだ。
 
 
 みよしやの浴槽に濁りがないのは、湯が劣化しておらず、十分に新湯が注がれていることを意味する。そして、洗い場にもそうそうお目にかかれない珍品を目にする。


 井戸の息抜きのように、床から塩ビ管がひょこっと顔を出す。
湯底付近から床下を這うように、L字型に貫通された管からは、新湯の圧力により湯底に溜まった湯が押し上げられるように排水溝へ。

 「サイフォン式」だ。


 かけ流し浴槽の弱点として、湯底に古い湯が滞留してしまう点があげられる。物理的に表層部に注がれた新湯がオーバーフローし、底に溜まった湯は入れ替わることなく劣化してしまう。

 湯底から源泉が湧き出る「足元湧出泉」が究極の理想ではあるが、全国に数十件しか存在しない奇勝物。
 
 限られた配湯方法で、最もフレッシュな湯遣いを実現するための工夫がサイフォン式だ。

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 香り高く、そして海水の様な塩辛さ。超濃厚な源泉は肌から浸透し、確実に身体の内側まで効き始めた。凄まじい湯力だ。
 季節に寄るところも大きいので、一概に湯に順番を付けるのは難しい。だが間違いなく今年入浴した湯の中でも、泉質に限って言えば最良だ。


 やはりあった。ここ松之山温泉にも。
その温泉街で最も安く、小さい。そしてボロく、少々不案内な湯治場で。最高の源泉に出会ったーー


 脱衣所で止めどなく噴き出る汗を何とか押さえ、部屋に戻り畳の上に大の字になる。閉眼し、今年最も美しきダイブの余韻を愉しむ。身体に纏わりついた油臭は、これまで湯治場を回った勲章にも感じられた。



 松之山温泉街では飲食には困らない。定食屋に中華屋、居酒屋まで一通り揃っている。温泉街入り口にもコンビニがあり、湯治生活で必要なものは現地で全て揃いそうだ。

 夕刻時はかなりの冷え込みとなっており、私が飛び込んだのは宿から徒歩10秒の「日の出家」。おふくろの味を大切にするという中華屋で「名物アゴだしラーメン」と看板にある。一人でも入りやすい雰囲気、このような店の存在は有難い。

 
 中に入ると客は誰もいない。入口すぐ横に観光地の定番、石塚さんとおかみさんのツーショット写真が額にかかっていた。

 湯巡りをしていると発汗するからだろうか、やたらとラーメンが食べたくなる。名物の「アゴだしラーメン(750円)」を注文。

 10分待たずに着丼。スープの色は薄め、白髪ネギが中央に大量に盛られていた。終始他の客は来ず、私と女将さん2人の空間。テレビに映る夕方の報道番組を見ながら無言の時間が流れる。ちょうど中東の貧困問題を取り上げた特集をやっていた。


女将 「うちも他人事じゃないのよ。今年は原油が高くて、融雪費が大変よ」
私  「そうですか」

 
 女将さんと話したのはこの一言だけだった。

 麺はちょっと緩いか、魚介の出汁が良く出ていてスープは美味かった。特段印象に残る味ではなかったが、居心地がよく恐らくまた松之山に来る時はこちらで食事をする。

 
 塩分チャージ完了。宿に戻りまた源泉へ。
Wi-Fiも弱ければテレビもまともに映らない。「民宿みよしや」はある意味療養には最適な空間だった。

 入浴時間は22時まで。翌朝は5時からとなる。
いつ入っても湯はどこまでも新鮮で、温熱効果が出始めたためか、長年苦しめられてきた関節痛がかなり治っていた。
 

 翌朝、10時ギリギリにチェックアウト。

 支払いは4,300円ほどだった。公式サイトには3,850円〜とあるが、恐らく石油ストーブの燃料代が加算されたものと思われる。
 
 今年も師走に迫りし折、凄い宿に出会った。この宿は来年必ず長期滞在で湯治をする。

 延泊も考えたが、当日キャンセルもバツが悪いので予定通り野沢温泉へと向かう。ここでもまた、白眉の名宿と出会うことになる。

                          令和3年11月25日

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