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夏の湯治⑥【珠玉の温湯巡り 長野県丸子温泉郷 後編】

 <前回はこちら>

 温泉地で散見される光景。
高級感漂う大型旅館に近代的な造りの日帰り施設。ガイドブックのメインを飾り多くの観光客が入って行く。一方、その少し外れにひっそりと佇む年季の入ったボロい共同浴場。
 地域最安値で、洗面用具を持参する地元民たちが次々と吸い込まれて行く。

 さて、どちらに入るか。
私は迷うことなく後者を選ぶ。では、地元民もなぜ後者を選ぶのか。
節約のため?観光客が騒がしいから?そのどちらも違う。そこには割と単純明快なロジックが存在するのだ。


 丸子温泉郷最大規模の鹿教湯(かけゆ)温泉。その昔、鹿に化けた文殊菩薩が猟師に湯を教えたことからその名が付けられたとされる。
 名湯には「鹿の湯(那須塩原)」「鶴の湯(乳頭温泉)」「熊の湯ホテル(志賀高原)」「鷺の湯(さぎの湯温泉)」など、動物による開湯伝説を起源に持つものも多い。

 人類よりも生体本能が旺盛な動物は、人間よりも源泉の探知機能に優れていたのだろう。鹿教湯温泉は街の中心にリハビリ病院があり、自炊棟を持つ湯治宿あり、そして朝一が文化として根付いている歴史ある温泉街だ。
 
 一方で巨大なホテルも林立しており、どの温泉地でも見られる某有名ホテルチェーンの看板もある。このような場合、源泉の湯元を探し当てる眼力が非常に重要になってくる。

 以前この地を訪れた時のこと。私はまだ小童同然だった。観光案内にもデカデカと掲載されている施設、ここなら良い湯に入れると信じスライドドアを開けた。消毒液臭が鼻腔を襲い、塩素剤独特の肌触りに耐え切れず5分で退館する羽目に。眉唾物の温泉ファンの多くが同様に踏爆する。

 湯の使用方法については、ホームページ上でも判断が難しく、特にネット検索で上位に来ている湯に安易にダイブすると痛い目に合う。源泉100%かけ流しと掲示があるのに、蓋を開ければ見事な循環風呂だったりする。

 私が鹿教湯に行って必ず入る湯、それは例によってオンボロの共同浴場「町・高梨共同浴場」。

 温泉街の中心からは徒歩で10分ほど離れた場所にあり、観光案内や鹿教湯温泉旅館協同組合のHPにも記載がない。知らなければまず見つけられないだろう。住宅街の中の裏路地を進むとドン突き、コンクリート外壁にアルミ扉、中学時代の野球部の部室を思い出す襤褸小屋が。

 主に地元民しか利用しないというこの湯だが、一般客も200円を箱に投金すれば入ることができる。5人程が入れる小さい浴槽には、ライオンの口の形をした湯口からドバドバ源泉が流れる。これは鹿教湯の混合源泉。間違いなく、かけ流しだ。

 石膏臭・硫黄臭がほんのり漂う源泉はアルカリ性単純温泉。ツルツルとした肌触りは鹿教湯温泉本来のもの。少し熱めなので15分程度でサッと効かせ退湯。何度でも来たくなる鄙び系温泉の代表だ。


 ああ、そうしているうちにも観光客達が、、ガイドブックを見ながら吸い込まれて行く。そこは、循環風呂なのに。。


 専門家ではないので多言は避けるが、温泉は数十年前の雨水が地層を這い上がり、地表の割目から湧出したもの。大地の中で豊富な成分を吸収する。それらは決して人工的には作り出せないものだ。
 ボーリングや掘削技術の発展により、日本全国どこでも温泉が出るようになった。だが本来湧くはずのない場所を掘り、無理に動力でポンプアップ。
 
 そこまでは許容できるが、温泉を観光資源にと雨後の筍の様に建立された旅館群。最大収容人数分を賄えるほどの湯量が出ていれば話は別だが、ほとんどの温泉街で湯量不足が指摘されているのが現状。

 建物が豪華になればなるほど巨額投資の回収のため、当然価格は上がる。浴槽が大きくなるほど清掃が大変。レジオネラ菌が繫殖したら営業停止だ。そうなると登場するのは塩素消毒剤。湯を環水清掃せず何日も・・・

 こうして、見事に仕上がったプール同然の循環風呂。日帰り入浴1,000円也。隣の共同浴場は、源泉かけ流しで200円なのに。。

 良い湯に入るための鉄則、まずはその温泉地で最も古く、最安値の共同浴場を狙うことだ。少し入り辛い雰囲気はあるが、入ってしまえばそこは極楽。
 かねてより自然の力で湧き出ていた、そして地元民が大切に守ってきた源泉がある。神の天与と温泉神社が建立され、宿場街が形成される。人が集まり、お土産屋や射的場など娯楽施設が周りに出来るのも、その「源泉」あってこそ。

 日本を代表する温泉地にも、未だ存在する無料共同浴場。
「野沢温泉」、「草津温泉」、「湯宿温泉」、「湯田中渋温泉」などなど。
 また、施設管理維持費として、気持ち程度100円~200円の募金箱スタイルの共同浴場は、決まって泉質はその街で最も良い。
 地元民たちは、節約目的ではなく一番良い湯に入っているのだ。

 本旅立ち寄った丸子温泉郷~青木村の温泉群。価格は以下の通り。

 田沢温泉 有乳湯  200円
 沓掛温泉 小倉の湯  200円
 霊泉寺温泉 共同浴場  200円
 霊泉寺温泉 和泉屋旅館  500円
 大塩温泉  共同浴場  200円
 鹿教湯温泉 町高梨共同浴場  200円

 別に予算の都合でケチっているわけではない。身体を治したい、良い源泉に入りたい、その宿願を果たそうと思うほど「安い」「小さい」湯に辿り着く。

 一度入れば極楽の共同浴場。それを説明するには、最適なのが青木村~丸子温泉郷。温湯の宝庫、熱い夏こそオススメ。
 
 母も、何となく理解してくれたようだ。


                           令和3年6月20日

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