【実務家ノート 第10号】 トークン化預金の海外実例総覧
Kinexys・Citi・Partior・Fnalityは何が同じで、何が違うのか
発行者・法的債務者・台帳・銀行間決済を4つの実装パターンで読む
日本でトークン化預金(TD)を語ると、まだ「これからの話」という印象が残っています。しかし海外では、運用実績、対象通貨、参加銀行、台帳の選択、銀行間決済の方法を比較できる段階に入りました。
Kinexys by J.P. Morganは、現行の公式ページで累計取扱高3兆ドル超、平均日次取扱高70億ドル超を掲げています。ただし、これは預金移動だけでなくKinexys全体の指標であり、他社が公表する「決済額」や「処理件数」と単純比較してはいけません。
2026年には、さらに重要な変化が起きました。Kinexysはブロックチェーン預金口座を8通貨へ拡大し、日本円ではJERA Global Marketsがグループ内資金管理に利用しました。Citiは、銀行内のトークン化預金を既存の24/7ドル清算へ接続し、Siam Commercial Bankを最初の外部金融機関顧客として実取引を開始しました。Partiorでは中東の銀行が商用利用を開始し、米国ではThe Clearing Houseが銀行業界共通のオンチェーンマネー清算・決済構想を公表しました。
したがって、現在問うべきは「TDが実用化したか」ではありません。問うべきなのは、
· 誰の負債をオンチェーンで表現しているのか
· 自行内で使うのか、銀行をまたいで使うのか
· 銀行間レッグを何で最終決済するのか
· 私設台帳・共同台帳・公開チェーンのどこへ配置するのか
最初に結論——同じところ、違うところ
4つの事例群に共通するのは、リテール向けの匿名マネーではなく、規制された金融機関と本人確認済みの法人・機関投資家を対象に、24時間365日の資金移動、条件付き執行、既存システムとの接続を実現しようとしている点です。
一方、違いはより本質的です。法的債務者、決済資産、参加者の範囲、台帳の公開性、ファイナリティの根拠が異なります。FnalityをTD発行体と呼ぶことも、Partiorを単一の銀行預金トークンと呼ぶことも正確ではありません。

この4つは排他的な分類ではありません。Kinexysは、私設台帳上のBlockchain Deposit Accountsと、公開L2上の預金トークンJPMDを併用しています。Citiは銀行内TDを既存の多銀行清算網へ接続し、パターンAからBへ境界を広げています。したがって「類型」よりも、組み合わせ可能な「実装パターン」として理解する方が実態に合います。
比較の基準——10の軸
1.法的債務者 保有者は、どの銀行またはどの制度に対する請求権を持つのか。
2.価値の表現 預金口座のデジタル記録か、移転可能なトークンか、銀行間決済専用資産か。
3.利用者 同一銀行の顧客だけか、複数銀行か、機関投資家か。
4.台帳 私設許可型、共同許可型、公開チェーンのどれか。
5.銀行間レッグ 不要、既存清算網、共同台帳、中央銀行準備連動のどれか。
6.ファイナリティ 銀行内記帳、ネットワーク規約、中央銀行マネー、法的指定の何に依拠するか。
7.保有モデル 顧客がトークンやウォレットを保有するのか、銀行が裏側で処理するのか。
8.既存レールとの関係 置換するのか、接続するのか、バックアップとして残すのか。
9.実用化段階 構想、PoC、限定運用、商用稼働、規模拡大のどこにあるか。
10.公表数字の定義 決済額、全基盤の取扱高、残高、件数を混同していないか。
パターンA|銀行内オンチェーン預金——Kinexys・Citi・HSBC・BNY
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