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決済の教科書 第9回: 資金移動業と銀行——「お金を送れる会社」の免許の地図

コード決済も、海外送金アプリも、給与のデジタル払いも——この15年で登場した決済サービスの多くは、ある一つの法改正から始まっています。2010年施行の資金決済法。今回は「お金を送る」ことを巡る免許の地図を描きます。

かつて送金は銀行の独占だった

お金を預かって送る行為——法律用語で為替取引——は、長らく銀行にしか許されていませんでした。銀行免許は取得も維持も極めて重く、自己資本規制から検査まで厳格な監督に服します。預金を預かり信用創造を担う存在だから当然ですが、結果として「送金だけやりたい」新規参入者には壁が高すぎました。

2010年、風穴が開く——資金移動業

資金決済法は、銀行でなくても登録制で送金業を営める道を開きました。これが資金移動業です。ただし銀行より軽い規制で済む代わりに、預金は受け入れられず、利用者から預かった資金は全額以上の保全(供託・銀行保証・信託)が義務づけられる。「貸せない・増やせない・でも守られている」お金です。
2021年の改正で、資金移動業は扱える金額により3つの類型に分かれました。第一種(認可制・1件100万円超の高額送金も可、ただし滞留規制が厳格)、第二種(登録制・100万円以下、従来型の中心)、第三種(少額特化・1件5万円以下、保全方法の柔軟化と引き換え)。リスクの大きさに応じて規制の重さを変える——リスクベースの階段設計です。

地図を1枚に描く

決済に関わる主な免許を、扱えることの重い順に並べるとこうなります。
銀行: 預金・貸出・為替のフルセット。信用創造の担い手。預金保険で守られる
資金移動業: 為替(送金)に特化。3類型の階段。資金は保全で守られる
前払式支払手段発行者: チャージ式の支払いに特化。原則払い戻し不可。保全は残高の2分の1以上の供託等
電子決済手段等取引業など: ステーブルコインの流通・管理を担う、2023年施行の新しい枠組み
この地図で見ると、近年のニュースが立体的に読めます。給与デジタル払いの担い手が「厳格な要件を満たした資金移動業者」とされた理由。ステーブルコインに新しい業が用意された理由。新しいお金の形が生まれるたび、この地図に新しい区画が引かれてきたのです。

設計思想を読む——規制は「壁」ではなく「階段」

私がこの制度史から学ぶべきだと思うのは、日本の決済規制が一貫して階段として設計されてきたことです。小さく始める者には軽い規制と厳しい制限を、大きく担う者には重い規制と広い権能を。この思想を理解すると、「規制があるから無理」ではなく「どの段から登るか」という戦略の問いに変わります。規制を設計の与件として最初から織り込む——本シリーズの卒業後にお話しする「Compliant by Design」の入口が、ここにあります。

次回はいよいよ最終回。すべての土台にある問い——「そもそも預金とは何か。銀行はなぜお金を創れるのか」に答えます。


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