【世界のオンチェーンプロジェクト File.018】 Project Mandala
国ごとの規制を取引実行前に自動判定できるか
AML/CFTを「後で検査する仕組み」から「成立条件」へ
最終更新:2026年8月
クロスボーダー決済が遅い理由は、決済システムだけではありません。
各国で規制が違います。
制裁。
AML/CFT。
外国為替規制。
資本移動規制。
投資資格。
報告義務。
そして各金融機関が、それぞれ自分で規則を解釈し、確認します。
Project Mandalaは、このコンプライアンス処理自体を取引プロトコルの一部にできないかを検証するBIS Innovation Hubのプロジェクトです。
Mandalaの基本思想
現在は、
支払指図を作る
→ 各行が確認する
→ 問題があれば止める
という順序です。
Mandalaは、
規制チェック
→ Compliance Proof生成
→ 条件を満たした取引だけ支払指図を作る
という順序へ変えます。
つまり、
Complianceを取引の後処理ではなく、取引成立条件にする。
これがCompliance by Designです。
3つのエンジン
MandalaのPoCは、Peer-to-Peer Messaging、Rules Engine、Proof Engineという3要素から構成されます。
Rules Engineは各法域の規制要件を機械可読なルールへ変換します。
Proof Engineは必要なチェックが完了したことを証明します。
そして支払い先に顧客情報そのものをすべて渡すのではなく、
必要な規制チェックを終えた
という暗号学的証明だけを渡すことができます。
Privacyとの両立
クロスボーダーAMLでは、データを共有すればするほどよいとは限りません。
個人情報保護、銀行秘密、データローカライゼーションがあります。
MandalaではZero-Knowledge Proof、ZKPやMulti-Party Computationなどを使い、
基礎データを相手に公開せず、条件を満たしたことだけ証明する
方式を検証しています。
規制をコードが「解釈」するわけではない
ここは重要です。
Mandalaは規制当局の代わりにAIが法律を判断する仕組みではありません。
BISの最終報告も、既存の規制枠組みを維持し、金融機関自身が公的規則を解釈し適用する責任を維持するとしています。
つまり、
法律解釈 → 人間・金融機関。
解釈済みルールの機械実行 → Mandala。
という役割分担です。
Phase 2へ
2025年11月、MandalaはPhase 2へ移行しました。
RBA、Banque de France、RBI、クウェート中央銀行、Bank Negara Malaysia、フィリピン中央銀行、MASなどが参加し、より幅広いデジタル資産とユースケースへのProgrammable Complianceを検証しています。
対象はCBDCだけではありません。
Tokenized Deposits、その他デジタル資産、そして既存の決済システムにも適用可能なCompliance Layerを志向しています。
GL1との関係
GL1もProgrammable Complianceを重視しています。
GL1が「金融インフラに必要な共通規格」を作るのに対し、
Mandalaは、
実際のクロスボーダー取引に規制ルールをどう埋め込むか
を実装レベルで検証しています。
GL1がルールブックなら、Mandalaは実行エンジンに近い。
Project Mandalaが示したこと
オンチェーン金融で本当に自動化したいのは、送金だけではありません。
金融取引で最も人手が残っている、
「この取引を実行してよいか」
という判断も、可能な範囲で構造化する必要があります。
タイトルの問いへの答えは、
定量化・形式化できる規制なら、取引前に自動判定できる。
ただし法律解釈そのものをコードへ委ねるのではなく、人間が定めたポリシーを機械執行する。
です。
これはスマートコントラクト以上に、金融のオンチェーン化を左右する技術かもしれません。
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