「記憶の画廊」 毎週ショートショートnote | 額に入った夕暮れ
その画廊は煉瓦造りの建物の地下にあった。
灯りの漏れている硝子張りの扉を開き、高齢の女が入っていく。客はいない。いるのは画廊の主らしき白髪頭の男だけ。
「いらっしゃい」
「こちらではいろんな方の記憶を飾っていると聞いたのですが」
「はい。剥がれ落ちた記憶を額装して飾っております」
壁には額装された風景写真が並んでいる。
「ある夕暮れの風景を探しています」
「それでしたら、ちょうど新しく入ったところです」
夕暮れのベンチで肩を寄せ合う男女の影が細長く伸びている。
「ああ、これを探していたのです。懐かしいわ……。これはどなたの」
「私の記憶です」
「まあ、あなたの」
「剥がれてしまったのでその時のことは思い出せないのですが」
「……そうですよね」
女は寂しげな笑みを浮かべ、出口へと向かう。
男は慌てて駆け寄り、女に声をかけた。
「待ってください。……あの、また来てくれますか?」
女は目を潤ませて頷いた。
画廊からの灯りで二人の影が細長く伸びていた。
(410文字)
【毎週ショートショートnote】参加作品です。
