改札窓口のキミ(ナルさん企画)
『落とし物のご連絡を申し上げます。鳴瀬亮様、鳴瀬亮様。定期券のお届けがございます。至急改札窓口までお越し下さい』
麗しい女性のアナウンスが駅にこだまする。
しまった!
今度は定期券か。
俺は2週連続の失態に落胆した。先週は保険証の入ったカードケースを拾ってもらったばかりだ。
だが、ということは。
また、あの駅員さんに会える。
落胆の中で、俺の心はときめいた。
すぐに改札窓口へ急いだ。
3分後、あの笑顔に会える。
自然と口もとが緩む。
いかんいいかん、俺は落とし物をしたんだった。
申し訳なさそうに、いかないとな。
改札窓口には、やはり彼女がいた。
ネームタグを見ると『丹生』とある。前のおばあちゃんへの応対に、どことなくぎこちなさが残る。まだ新人のようだが、それもかわいい。
嗚呼、今週も丹生さんと話せるなんて、俺はなんて幸せな男なんだ。
妄想が最高潮に達したそのとき、声をかけられた。
「後ろの方、こちらへどうぞ」
丹生さんと違って明らかに憂鬱で野太い声だ。
見上げるとワイシャツに蛇柄のネクタイでネームタグに『小西』とあった。
「えーと、ご要件は?」
「あ、あの、定期券を…」
「ああ、鳴瀬さんですね。困るんですよ。2週連続で落とし物とか。こちらに一筆いただけますか?」
なんてことだ。
丹生さんと会話できるチャンスが。
この不思議な雰囲気の男に代わってしまった。
「…ったく、あの指。ゴツくて甘美じゃないし」
「え、なんのはなしですか?」
「は?書き終わったんですか?」
慌てて俺はペンを進めた。
サインした受領証を受け取ると、小西さんは気だるそうに言った。
「いいですね、金輪際落とし物しないよう、対策して下さいね」
「はぁ、すみません」
窓口にはすでに、丹生さんの姿はなかった。
(了)
