【短編】ピザカッター殺◯事件
ある年のクリスマスイブ。
東京のある警察署にて。
「今日が当直なんて、最悪!」
新人刑事の【ユキ】は頬を膨らませて机で文句を言っていた。それを先輩刑事の【マッシュルーム】が慰める。
「まぁまぁ。くじ引きだし。おかげで年末年始は休めるでしょ」
「だって、クリスマスイブですよ!?私だって…」
「あれ、ユキ彼氏いたっけ?」
「ぐ…!マッシュルームさん、それセクハラです」
「ふふふ、ごめんごめん」
そのとき、スマホに着信があった。
「マッシュルームです。…はい、はい。現場は?…わかりました、向かいます」
スマホを切り、マッシュルームはダウンを着て言った。
「ユキ、事件だよ。よかったね、暇じゃなくなって気が紛れるよ」
「またそんなこと言って!待ってくださーい!」
ユキも慌ててコートを握りしめ、マッシュルームを追った。
🍄
現場はマンションの一室のレンタルスペース。
ごはんと海苔と明太子が飛び散り、多数の缶ビールの空き缶やワインの瓶が並ぶ凄惨な現場だった。殺◯事件だ。
「被害者は【ハス】氏のお◯ぎり。◯亡推定時刻は3時間前の午後5時ですね」
鑑識の【チョン】が、聞いてもいないのに教えてくれた。駄菓子菓子、誰も聞いていない。不憫だ。
第一発見者はこの部屋の借主であるハス氏。ハス氏はフードライターの第一人者で特におに◯りの取扱いを得意とする。
「今日ここでライター忘年会だったんです。まさかこんなことになるなんて!うぅ…」
ハス氏によると、呼ばれたライターは【モス】、【ミクマ】、【ハル】、【ユニ】、【リィニア】、【ハギレ】、【グミ】の7人。大事なおにぎ◯を部屋に残して参加メンバーを見送って部屋に戻ると、この光景だったとのことだ。
自作自演は全くの無意味なので考えにくい。参加者の中に犯人がいそうだ。
「ハーレムじゃないか…なぜ俺を呼ばないんだ?」
マッシュルームがつぶやく。
そんな呟きなど聞こえもしないユキが、何かに気づいた。
「こ、これは!」
ユキが目を輝かせる。
『PizzaMight』のクリスマス限定、『オールマイトピザジャンボ』の箱だ。中身はすでに食べられた後でないが、箱のサイズが圧巻だった。それもそのはず、クリスマス限定の直径50cmスペシャルサイズで、数ヶ月前のウェブ予約開始では人気アイドルコンサート並のサーバー負荷がかかるという。
「いいなぁ、オールマイトピザジャンボ…大きいのにどこを食べても違う味で毎年人気なのよね。一度食べてみたいわ」
どうでもいいか、という顔でマッシュルームが呆れる。
「ユキ、見るのはそこじゃない。この中よ」
マッシュルームが指差すのは箱の中についた線だった。
「放射状の線に混じった不自然な縦線と横線。そして多数の缶ビールとワイン。紙皿に紙コップ、割り箸に唐揚げ、フライドポテト、お◯ぎりの具は…明太子。腹が減ってきたな」
「え、線?そんなに不思議ですか?」
またもマッシュルームの話をよく聞かないユキは首をかしげてのぞき込むが、何も思い当たるフシはない。駄菓子菓子、マッシュルームの頭の中で点が線に繋がった。
犯人は…きっと「あの人」だ。
いざ行かん、彼の地へ。…おっと、その前に。
「ハスさん、あなた…」
🍄🟫
翌日。
ふたりの刑事の姿は博多にあった。
クリスマスの今日、博多駅前では著名ライター【ッシー】主催の限定文学フリマがキッチンカーを伴って行われるという。
「私の勘が確かなら、犯人はここに現れるはず」
陣取ったのは地ビールの飲み比べのできるキッチンカーの近くだった。
「確かに、具は博多っぽい明太子で空のビール缶が転がってましたけど、一体なんのはなしですか?」
ユキは訳がわからない。ただマッシュルームと寒空で辺りを見回すのだった。
そのとき。
マッシュルームの目が光った。
地ビール全種類を手に入れてご機嫌なリュックの淑女に声をかける。
「突然で失礼します。私、『路地裏警察庁』の刑事、マッシュルームと申します。少しお話をお聞かせいただけませんか?」
想定外出来事に淑女の動きが止まる。そして我に返ったような顔をして応えた。
「え、ええ。よくてよ。じゃあ、あちらに」
淑女の名前は【ハギレ】。この界隈では酒飲みフードライターとして有名で、2日目の明日、イベント目玉の講演で登壇予定だった。
「単刀直入に伺います。昨日、あなたは東京にいらっしゃいましたね?」
「…なんのはなしですか?証拠でもありまして?私は今朝から博多駅におりましてよ?」
遠目で主催のッシーをはじめ、参加者が何事かと目線を向ける。マッシュルームが続ける。
「ええ、あなたは昨日のうちに博多へ戻ったんです。『凶器』を持ったまま、ね」
「え、凶器を持ったまま昨日のうちにぃ?」
ユキがしれっと地ビールとポテトを注文して一杯やっている。完全に観光モードだ。マッシュルームは『私がいないとダメね』とため息をつく。
「そ、そんなこと無理よ。凶器を持って東京ー福岡を移動なんて」
「いや、できるんです。『新幹線の終電』ならね。新幹線なら手荷物検査がない。そして今あなたは凶器を…
ピザカッターを持っている!」
「!」
ハギレの表情が曇る。ほろ酔いのユキが思い出したかのように言った。
「あー、そういえばピザカッターなかったなーアハハ。でもぉ、あの縦線横線は何だったのぉ?」
ハギレはピザカッターを差し出し、話し出した。
「お見事ね、刑事さん。でも動機がないわ。なぜ私が犯行を?」
「それはあのピザの箱の線でわかりました。あのピザ、事前に十字にカットされていたのでは?その理由はこうだ。ハスさんがピザを事前に井の形に切り、切れた中央部分を先に食べた後に中央に寄せた。これで証拠隠滅だ。しかし、グルメなハギレさんは気づき、嫉妬した。腹いせにパーティーの後ひとり部屋に戻り、ハスさんのおに◯りをピザカッターで切り刻んだ。違いますか?」
マッシュルームの推理にハギレは観念した。
「…私の負けよ、刑事さん。見事な推理だわ。そう、あの男が私が楽しみに楽しみにしていたピザをつまみ食いしていたの!みんなで楽しみにしてたのに!そんなの許せない!ビールも進んで酔っていたから、気づいたらピザカッターを持って東京駅へ走っていたわ」
「ハギレさん。罪を償いましょう。ハスさんには昨日のうちに真相を突きつけ、罰金として「なんのはなしです珈」購入で話をつけました。あなたはどうなさいますか?」
ハギレはしばらく考えた後、SUZURIで何かを注文した。
「そうね…私は『変態道Tシャツ』を着て、明日の講演に臨むことにするわ」
「そうですか。それもフフフですね。これにて一件落着!」
マッシュルームが高々に笑う中、ユキはすっかりできあがって、最後に一言呟いた。
「これで、いいのだ」
(了)
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