出演アーティストのLAでの再生数が2.4倍に。日本音楽海外フェス「Zipangu」のインパクト
ロサンゼルスで開催された日本の音楽をテーマにした音楽フェス「Zipangu」の開催から1週間が経ちましたが、非常に興味深い反響になっているのをご存じでしょうか?
この音楽フェス「Zipangu」は、Adoを擁する音楽芸能事務所であるクラウドナインが企画した音楽フェスで、日本から8組のアーティストが参加し約2万人の動員に成功。
日本の音楽をテーマにした海外のフェスとして、最大規模の開催に成功したことで注目されているものです。
「Zipangu」の開催自体は、日本のテレビのニュース番組でも報道され、様々な音楽メディアでも記事化されていますので、御覧になった方も多いと思いますが、今回のイベントの成否は、当然日本で話題になったかどうかではなく、開催地であるアメリカで話題になったかどうかと言う点です。
実は、すでに「Zipangu」開催によるインパクトは数値に明らかに出ているようですので、ご紹介したいと思います。
出演アーティスト8組の再生数は平均2.4倍に増加
今回の「Zipangu」開催の反響を見る上で最も注目すべきは、ビルボードが発表したロサンゼルスにおける出演アーティストの再生数の増加でしょう。
ビルボードの記事によると、出演アーティスト8組の開催当日のロサンゼルスでのストリーミング数(オーディオ+ビデオ)は、前週同曜日比で平均2.4倍に増加したそうです。
しかも、最も増加が顕著だったのは10-FEETで、約5.3倍の再生数を記録し、その前にパフォーマンスをおこなったHANAも約3.4倍の再生数を記録したようですから、大きなインパクトがあったことが良く分かります。
もちろん、この3組は今回の出演者の中ではアメリカでの再生数が他のアーティストに比べるとまだ少ないアーティストだったため、今回のライブがきっかけで大きく増加する結果になったことは間違いありません。
実際に、現時点で最もアメリカでの再生数が多いAdoさんは1.3倍の増加だったそうですから、Adoさんのファンが他のアーティストの楽曲も聞くようになったという面は間違いなくあるでしょう。
イベント当日に倍増した再生数
ただ、ここで注目したいのは、このビルボードの調査結果が「開催当日」のロサンゼルスでのストリーミング数と、前の週の再生数を比較したものであるという点です。
実は「Zipangu」は15時半に開場し、ヘッドライナーのAdoさんのパフォーマンスは22時40分まで続くという夕方〜深夜まで続くフェスでした。
会場となったRose Bowlはパサデナというロサンゼルスの郊外にあり、来場者がホテルや家に着いた頃には日付が変わっていた人も多かったはずです。
そんな中で、ロサンゼルス全体における出演アーティストの再生数が2.4倍にも増えているというのは非常に珍しい現象と言えます。
なにしろロサンゼルスエリアには1000万人近い人がいますから、仮に「Zipangu」に参加した2万人が会場の往復時に急に聞いても、そこまでの増加にはならないでしょう。
実際、日本で2万人動員と言えばアリーナクラスのライブになりますが、ドームやスタジアムクラスのライブが開催されても、その日にそのアーティストの音楽の再生数が倍増するということは日本ではなかなかおこらないはずです。
ファンによる動画や写真が、来場者以外にもJ-POPを広げる
では、なぜ「Zipangu」はロサンゼルスにおける日本人アーティストの再生数を倍以上に増やすことができたのか。
それは当日参加した2万人の日本音楽ファンの多くが、自らのSNSに、「Zipangu」でのアーティストのパフォーマンスの様子を投稿したからだと考えられるわけです。
実は「Zipangu」では、顔出しをされていないAdoさんとMAN WITH A MISSIONをのぞいて、通常の海外フェスと同様に参加者がスマートフォンで写真や動画を撮影してSNSにアップすることが許容されていたのです。

実際にZipanguでSNSを検索していただくと、参加者が撮影した大量の写真や動画がアップされているのが分かると思います。
こうした参加者の撮影した写真や動画を見て、参加者の友人やフォロワーが気になって出演アーティストの音楽を検索して聞いた結果、ロサンゼルス全体での出演アーティストの再生数がイベント当日に倍増するという結果になったと考えられるわけです。
生のパフォーマンスだけがもらたす感動
日本ではこれまでライブは撮影禁止というのが常識でしたので、ライブ中の撮影を良しとしないファンもアーティストも、まだまだ少なくないのが現状でしょう。
ただ、今回のデータに見られるように、アーティストの生のパフォーマンスを撮影した動画には、ミュージックビデオとは違う影響力が秘められています。
当然スマートフォンで撮った写真や動画は、プロの撮った写真や動画に比べればクオリティは低いですが、その分周りの観客の歓声や熱気など、ライブの臨場感がそのまま伝わりやすいとも言えるわけです。
特に海外では、ライブが撮影されファンカムがSNSにアップされるのが普通のため、ライブに参加できなかったファンがSNSで動画が上がってくるのを待っていることが少なくありません。
筆者も当日参加して撮影した動画をYouTubeにアップしてみていますが、動画をアップしてしばらくして、すぐにアメリカ人から感謝のコメントが投稿されるのが非常に印象的でした。
ファンが撮影した動画が100万再生超え
特に、16時という早い時間帯でのパフォーマンスとなったHANAは、「Zipangu」の受付が手荷物検査で大混雑になった関係で、まだ大行列をしていたほとんどの観客が会場には入れていない結果になってしまっていました。
つまりHANAのタイミングでは観客は2万人どころか数千人しかいなかったわけです。
それにもかかわらず、HANAの楽曲の再生数がロサンゼルスで3倍以上もの増加を記録することができたのは、間違いなく参加者の撮影したファンカム動画の拡がりが話題になったためと考えられます。
象徴的なのは「Asian Pop Footage!」というYouTubeチャンネルがアップしているファンカム動画は、なんと100万再生を突破している点です。
もちろん、この再生数の多くは日本のHANAファンが占めている可能性は高いと考えられますが、ファンが撮影した動画が100万を超えるほど視聴されるところに、スマホで撮影しても伝わるHANAの生のライブパフォーマンスの素晴らしさと、それを視聴したいというファンのニーズが滲み出ていると言えるわけです。
ライブやフェスのパフォーマンスをどう世界に可視化するか
こうしたファンカムの拡がりが国境を越えてアーティストのファンを増やすのに有効であることは、基本的にすべてのライブやフェスでのパフォーマンスを撮影OKにしてきたXGの世界での成功で証明されているとも言えます。
また、コーチェラが3日間で10万円を超えるチケット代にもかかわらず、YouTubeで無料配信を行い、参加者のファンカム撮影を許容することで、逆に出演アーティストがコーチェラを世界にファンを増やす機会として活用するようになっているのも象徴的です。
日本の音楽フェスの多くは撮影禁止ポリシーを堅持していますが、実はこの撮影禁止ポリシーが、日本のアーティストの魅力が海外のファンに知られることが少なかった要因の一つではないかと考えることもできるわけです。
最近は「LuckyFes」や「CENTRAL」など日本でも、アーティスト別に撮影OKと撮影禁止が明記される音楽フェスが増えてきましたが、世界展開をのぞむアーティストにとっては、そうした柔軟な対応も必要な時代になってきていると言えるかもしれません。
撮影禁止でも公式動画をアップすることが代わりに
一方で、必ずしもライブやフェスでの撮影をOKにしなくても、世界のファンを増やすことができることは、AdoさんやMAN WITH A MISSIONが証明してくれているのも事実です。
ただ、AdoさんもMAN WITH A MISSIONも撮影禁止にする代わりに、積極的にSNSやYouTubeにライブパフォーマンスの公式動画をアップしているのがポイントと考えられます。
今回のZipanguでもAdoさんが「うっせぇわ」のパフォーマンス動画を早速Xに公開しているのが象徴と言えるでしょう。
Ado - うっせぇわ (Usseewa) @zipangu_cn
— Ado Staff (@ado_staff) May 24, 2026
Zipangu at Brookside at The Rose Bowl, LA pic.twitter.com/RaTnBoakjq
ファンのファンカム撮影を禁止しても、公式のパフォーマンス動画を公開することで、ファンが拡散する動画を提供することができれば、同じようにファンがアーティストの生のパフォーマンスの魅力を伝えてくれる効果があると考えられるわけです。
いずれにしても今回の「Zipangu」によるロサンゼルスでの再生数の倍増は、日本のアーティストが海外のファンを増やす上で、ファンによるクチコミや話題化がいかに重要で効果があるかを示してくれたように思います。
これからこの成功を、日本のアーティストや日本の音楽レーベルや芸能事務所、そして日本の音楽フェスが、どのように参考にしていくのかも引き続きウォッチしたいと思います。
この記事は2026年5月25日Yahoo!ニュース寄稿記事の全文転載です。
なお、水曜日21時の雑談部屋「エンタメのミライ」では、皆さんとこのあたりの雑談もできればと考えています。
タイミングが合う方は是非ご参加下さい。
水曜日のテーマは「日本の音楽の世界への広がりとか、Zipanguの感想とか」です。
— 徳力 基彦|エンタメビジネスウォッチャー (@tokuriki) May 25, 2026
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