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倉知淳『猫の耳に甘い唄を』、久住四季『神様の次くらいに 人の死なない謎解きミステリ集』…紙魚の手帖vol.21(2025年2月号)書評 宇田川拓也[国内ミステリ]その2

【編集部から:この記事は東京創元社の文芸誌〈紙魚の手帖〉vol.21(2025年2月号)掲載の記事を転載したものです】


「その企みに、三度驚く」「読み飛ばし厳禁」といった惹句じゃっく(初版帯より)が挑発的に躍る、倉知くらちじゅん『猫の耳に甘い唄を』(祥伝社 一七〇〇円+税)は、さらに冒頭に掲げられた注意書きに目が釘付けになる。一部を抜粋すると、「この小説には〈犯人の書いた文書〉が登場する」「ただし内容が真実であるとは限らない」「注意深くお読みいただくことをお勧めする」とある。なるほど〝読み飛ばし厳禁〞とは、そういうことか――。

 主人公の冷泉れいぜん彰成あきなりは、新人賞の佳作入選をきっかけにデビューするも、いまなお鳴かず飛ばずの覆面ミステリ作家。ひょんなことから冷泉の弟子となった作家志望の久高くだかとおるに、創作についてのレクチャーをしながら日々を過ごしている。ある日、冷泉のもとに二通の手紙が届く。ひとつは女性読者からのファンレター。もうひとつはファンレターのようだが、冷泉の作品が広く受け入れられない世間へのいきどおりに加え、にわか読者を手に掛けて粛清しゅくせいしたことがつづられた、なんとも不穏な内容のものだった。趣味の悪いいたずらかと思っていると、数日後、刑事が訪ねてくる。捜査中の殺人事件の被害女性が、冷泉にファンレターを送っており、直接会う約束までしていたと周囲に話していたのだという。だが、冷泉には心当たりがまったくない。すると、またしても冷泉作品の愛読者が殺される事件が発生し、さらに不穏で気味の悪いファンレターが届き……。

〝三度驚く〞の言葉に偽りなし。それぞれに驚きの質が異なるサプライズが後半に待ち構えており、物語の全容の巧妙な隠し方にうなり、三つ目に用意された驚きに思わず破顔した。倉知作品らしさ全開の愛すべき一冊だ。

 久住くずみ四季しき『神様の次くらいに 人の死なない謎解きミステリ集』(創元推理文庫 七八〇円+税)は、副題のとおり〈日常の謎〉に特化した作品集。

 生徒たちの間で起こったもめごとの解決に乗り出した小学校教師コンビの奮闘と予想外の真相を描いた「さくらが丘小学校 四年三組の来週の目標」。文化祭を控えた高校の男子サッカー部の部室からノートパソコンが消
えた謎に挑む「ライオンの噓」。猫よけに置いていた水入りペットボトルを皮切りに、公園からなにかがひとつずつ消えていく理由に迫る「小さいものから消えよ」。誕生日パーティーで参加者が持ち寄ったプレゼントが、気が付くとひとつ増えていた謎を解き明かす「デイヴィッド・グロウ、サプライズパーティーを開く」。いずれも初心者からマニアまでたのしめる、〈日常の謎〉を扱った短編のお手本にふさわしい上質な作品ばかりだが、なんといっても白眉はくびは表題作。同じゼミに所属する意中の先輩をデートに誘ったつもりが、なぜか一緒に家電量販店の開店セールに並ぶ羽目になった男子学生のちょっぴり残念なエピソードが、思わぬ形でミステリに昇華。ひとのやさしさと青春の尊い一ページを、読む者の心に温かくさわやかに刻み付けてみせる筆致が素晴らしい。いつか同じコンセプトの二冊目が刊行される日が訪れますように。


■宇田川拓也(うだがわ・たくや)
書店員。1975年千葉県生まれ。ときわ書房本店勤務。文芸書、文庫、ノベルス担当。本の雑誌「ミステリー春夏冬中」ほか、書評や文庫解説を執筆。