鬼死骸Ⅷ|未送信記録
この物語は、実在の土地・史跡を基にした
フィクションであり、神話であり、記録である。
一つの語りとしての記録である。
(鬼死骸村探検隊|実在する旧鬼死骸村を舞台にした物語)
<あらすじ>
七基あるはずの塚が、なぜか六基にしか数えられない。
調査員も、業者も、記録庁の職員も、最初は同じ疑問を持つ。
それでも報告書は書き直され、記録は整合され、やがて全員が七基を「見る」ようになる。正しいことと、残ることは、別の話だ。
これは、送信されなかった報告書の記録である。受信記録は、ある。
正しいことと、残ることは、別の話だ。
七基あるはずの塚を、調査員は六基しか数えられなかった。
記録を確認した。間違いなく七基と書いてある。
現地に戻った。やはり、六基だった。
報告書を書いた。七基と書いた。
これは、送信されなかった報告書である。
受信記録は、ある。
—鬼死骸村記録—
この記録は、いくつかの断片から構成されている。
それぞれは独立しているが、互いに無関係ではない。
また、いくつかの記述には不一致がある。
ただし、その不一致が誤りであるとは限らない。
本記録は、それらを修正せず、未確定のまま残すものである。
目次
第一部|現象
7つ盛りは鳴っている
村はいつも通りだった
第二部|記録
数えられた村
整っている記録
第三部|観測
再現できない村
揺らそうとする者
インタビュー記録
第四部|未確定
最終記録(未送信)
付記
本記録において提示される内容は、
いずれも確定した事実として扱われていない。
読者がいかなる解釈を採用するかについて、本記録は関与しない。
ただし、解釈の差異が生じる可能性については、
あらかじめ想定されている。
※本記録の構成は、上記目次と必ずしも対応しない。
インタビュー記録
■鬼死骸村アーカイブ
聞き取り記録:東側の塚について(仮)
■対象
男性/70代/村内在住(生家は東側)
■記録日
2024年某日
■本文
東の方にあるやつか。ああ、あれな。
昔からあったよ。子どもの頃には、もうあった。
ただ、今みたいに見える場所じゃなかった気がするな。草も多かったし。
いくつあったかって?
……さあな。数えたことはないけど、そんなに多くはなかったと思う。
6つか、7つか……いや、もっと少なかったかもしれない。
並び?
並んでたようにも見えるし、バラバラだったようにも思う。
ああいうのは、立つ場所で変わるだろ。
南の方を向いてるって話もあるけど、
あれは誰かが言い出してから、そう見えるようになったんじゃないか。
昔は、あれに近づくなって言われてた。
理由は知らない。みんなそう言うから、そうしてただけだ。
今の人は普通に見に行くんだろ。
まあ、別に何もないと思うけどな。
■備考
対象者は塚の数・配置について明確な記憶を持たない
「立つ場所で変わる」という発言あり(観測差の可能性)
「言い出してからそう見える」という認識の変化に言及
■注記
※本記録は個人の記憶に基づくものであり、内容の正確性は保証されない
インタビュー記録(改変版)
■鬼死骸村アーカイブ
聞き取り記録:東側塚列について(再録)
■資料番号
KSH-INT-04(再編)
■出典
不明(筆写資料による)
■調査目的
当該地域における塚列配置の再現性確認
■本文
東側のやつですね。あれは、昔から一直線に並んでいたはずです。
いくつあったかははっきりしています。七つです。
小さい頃に数えましたから、間違いありません。
向きも決まっています。南西です。
あの並びは、どこから見ても変わりません。
近づくなと言われていたのは事実です。
ただ、それは危ないからというより、
むしろ“触れると崩れる”からだと聞いています。
昔はもっとはっきり見えていた。
今は、少し分かりにくくなっているかもしれません。
■備考(更新)
原記録との間に複数の相違が認められる
特に「数」「方向」「配置」に関して一致しない
本資料は要約ではなく“再構成”の可能性あり
なお、本件に関する記述は他資料においても同様の傾向が確認される
■注記(更新)
※本記録は複数の資料を基に再編された可能性がある
※原記録の所在は確認されていない
※当該箇所については意図的な改変の可能性は低いと考えられる
断片記録(漏出)
■鬼死骸村アーカイブ外資料
出所不明メモ(分類外)
■資料番号
KSH-FRAG-02
■状態
断片(紙片/筆記具不明)
■本文
東の塚の並びのことだが、
あれは並んでいるのではなく、揃えられている。
昔、掘った者の話では、
土の下にもう一つ、列のようなものがあったらしい。
石ではない。木でもない。
形がはっきりしないが、
同じ間隔で何かが続いていたと言っていた。
それを見たあと、
上の塚を数え直したら、数が合わなくなったという。
六つだったはずが、七つになったのか、
七つだったのが六つになったのか、
そこははっきりしない。
その話は、(ここで途切れている)
■備考
同筆跡と思われる断片が他に数点確認されている
内容の一部が既存記録と一致しない
特に「下層構造」に関する記述は他資料に見られない
原記録断章(未編集断片)
■鬼死骸村アーカイブ外資料
未整理音声書き起こし(部分)
■資料番号
KSH-RAW-01
■状態
音声起こし(途中)/ノイズ混入あり/発話者不明
■本文
……東の、あの並んでるやつ、あるでしょう。
あれね、昔はただの土盛りだと思ってたんだけど、
いや、違うな、違うっていうか、
一回だけ掘ったやつがいてさ、昔。
そしたら、その下に、なんていうか、
同じ間隔で、こう、続いてるものがあって――
石じゃないんだよ。木でもないし、
もっとこう、崩れないやつで、形が、はっきりしないっていうか……
(ノイズ)
……で、それ見たあとで、上を数えたら、
「あれ?」ってなったって言ってたな。
六つだったか、七つだったか、
いや、最初から七つだったのかもしれないけど、
でもその時は、
「増えた」って言ってたんだよな。
(中略)
……だから近づくなって言われてたのは、
危ないからじゃなくて、たぶん――
(記録中断)
■備考
音声の一部に意図的な欠落の可能性あり
同一内容の編集済記録(KSH-INT-05等)との乖離が大きい
特に「下層構造」および「数量変化」に関する記述が削除されている可能性がある
編集ログ断片(内部記録)
■鬼死骸村アーカイブ
内部処理記録(断片)
■資料番号
KSH-LOG-01
■状態
断片/出力形式不明/記録媒体不詳
■本文
KSH-INT-05再編処理済
問題なし
整合性維持
当該箇所(下層構造に関する言及)は削除
理由:
・証言の一貫性を欠く
・既存構造との不整合が大きい
・再現性なし
KSH-FRAG系資料参照
不適切
理由:
・出所不明
・記述が具体的すぎる
・他資料への影響が大きい
補足:
「数が増えた」という表現について
→記録対象外とする
理由:
・誤認の可能性が高い
・解釈の分岐を誘発する
・管理不能
判断:
塚列は七基で固定
変動要素は排除
備考:
当該領域は不安定
局所的な修正では対応困難
(ここから下は欠落)
否定文書(過剰補正)
■鬼死骸村アーカイブ
補遺報告:東側塚列に関する異説の整理
■資料番号
KSH-SUP-03
■出典
既存資料群の再検討
■作成目的
流布している不確定情報の整理および誤認の是正
■本文
近時、一部資料において、東側塚列の下層に別種の構造が存在するとの記述が散見される。
しかしながら、これらの記述はいずれも出所不明の断片的資料に基づくものであり、一次的な裏付けを欠いている。
当該塚列については、従来の調査により、単一の埋設構造として理解されており、これと異なる構造の存在を示す合理的根拠は確認されていない。
また、塚の数が変動する、あるいは観測によって異なるとする証言についても、いずれも記憶の混同、もしくは視覚的錯誤に起因するものと考えられる。
特に、「下に列状の何かが存在する」とする説は、物理的にも成立し難く、仮に存在したとしても、現在確認されている塚列の配置および数量に影響を与えるものではない。
以上のことから、当該塚列は従来通り、七基から成る単純な配置構造として扱うことが適当である。
——ただし、本判断に用いた原資料の一部は現時点で確認できない。
■備考
異説の多くは近年になって記録されたものである
出所の明確な資料との整合性は認められない
解釈の統一が望まれる
■注記
※出所不明資料の取り扱いには十分な注意を要する
※現時点で、当該異説を支持する資料は確認されていない
※本報告は暫定的な整理であるが、現時点では結論に変更の余地は少ない
最終記録(完全一致報告)
■鬼死骸村アーカイブ
最終報告:東側塚列(確定版・完全一致)
■資料番号
KSH-FNL-01
■作成者
記載なし(該当情報は確認できない)
■本文
本記録は、既存資料間に見られた軽微な不一致を解消し、統一的記述を確立する目的で再編を行ったものである。
対象とした資料は、調査記録、聞き取り記録、過去の報告書、ならびに地図・図面等であり、いずれも相互に参照可能な形で整理した。
当初、複数の項目において数値および記述の差異が確認された。特に、「数」に関する記述については、資料ごとに揺れが見られたため、優先順位を設定し、整合性を保つよう調整を行った。
調整は以下の手順により実施した。
一、出現頻度の高い記述を基準とする
二、記録年代の新しいものを優先する
三、矛盾が解消されない場合は、記述の簡略化を行う
上記手順に基づき再編を進めた結果、大部分の不一致は解消された。
なお、一部の記録において、同一対象に対し異なる数量が付されている例が確認されたが、これらは記録時の状況差、もしくは観測条件の違いによるものと判断し、最終的な記述には採用しなかった。
再編の過程において、特定の記述が繰り返し現れる傾向が見られたため、これを基準値として統一を図った。
当該記述は、複数資料にまたがって確認されており、信頼性は高いと考えられる。
なお、この記述のみが、他のすべての不一致を解消した。
七つ。
以上の基準に従い、すべての該当項目は同一の記述へと整理された。
再編後の記録において、数値の揺れは確認されていない。
すべて一致している。
各資料間の参照関係も整理され、矛盾は存在しない。
確認は複数回実施した。
問題はない。
七つである。
七つに統一されている。
すべての記録は一致している。
完全に一致している。
■追記
再確認の過程において、当初記録されていた一部の数値が参照できなくなっていることが確認されたが、統一後の整合性に影響はないため、問題とはしない。
■補記
本記録は最終版であり、以降の修正は不要である。
修正の必要はない。
修正すべき差異は、存在しない。
ずれはない。
最初から、なかった。
七つである。
七つでなければならない。
現地確認記録(逸脱報告)
■鬼死骸村アーカイブ
現地確認報告:東側塚列(確定版照合)
■資料番号
KSH-FLD-02
■調査者
記載なし
■調査目的
KSH-FIX-01(確定版)との一致確認
■本文
当該塚列について、確定版記録に基づき現地照合を実施した。
確認は複数回、同一条件下で実施された。
まず、塚の数は七基であることを前提に確認を行ったが、
初回観測においては六基のみが確認された。
見落としの可能性を考慮し、視点を変えて再確認を行ったところ、
七基すべてを確認することができた。
このため、初回観測は不完全であったと判断した。
その後、各塚の位置関係を記録し、再度照合を試みたが、
記録した配置と再観測時の配置が一致しなかった。
特に中央付近の塚について、位置が変動しているように見受けられた。
視線を外した瞬間に位置を見失う。
確定版では一直線とされているが、
現地においては直線として認識できない場合がある。
ただし、一定の位置関係を前提に見ると、
直線であるようにも見える。
下層構造については、確認を試みたが、
地表からは明確な痕跡を認識することはできなかった。
しかし、特定の位置に立った際、
地面の下に同様の配置が存在するような感覚を覚えた。
これは視覚によるものではなく、
説明困難な知覚によるものである。
なお、この時点で再度塚の数を確認したところ、
当初確認した配置と一致しなかった。
記録を試みたが、数を確定することができなかった。
以上の理由により、本報告は確定版との完全な一致を確認するに至らなかった。
■備考
観測結果は安定しない
視点によって認識が変化することが確認された
下層構造に関する知覚的異常が報告された
■注記
※本報告は暫定的なものである
※確定版との不一致は観測条件に起因する可能性がある
※追加調査が必要である
閲覧記録(所感付)
■鬼死骸村アーカイブ
閲覧記録:KSH-FNL-01(最終報告)
■閲覧者
N(外部調査協力者)
■閲覧目的
現地調査前の事前確認
■記録形式
逐次所感付記
■本文
KSH-FNL-01を確認。
内容は明快であり、特段の問題は見受けられない。
塚は七基、南西方向に直線配置。
過去の不一致はすべて解消済みとされている。
ここまでは理解できる。
ただし、「すべての観測結果は完全に一致した」とあるが、
その過程が記述されていない点がやや気になる。
通常であれば、再現性の確保について、
何らかの手順や条件が付記されるはずである。
しかし、本記録にはそれがない。
とはいえ、最終報告という性質上、詳細を省略している可能性もある。
この時点では問題とは言えない。
次に、「下層構造も完全に一致」との記述について。
これは前段の資料では未確定であったはずだが、本報告では断定されている。
確認手段の記述はない。
掘削等を行った記録も見当たらない。
にもかかわらず「構造的にも同一」とされている点は、
やや飛躍があるように思われる。
ただし、何らかの非公開資料に基づく可能性もあるため、
現時点で否定はできない。
読み進める。
「変動することはない」との一文。
ここで少し引っかかる。
通常、観測対象について「変動しない」と断定する場合、
長期的な観測結果が必要になる。
しかし、その期間についての言及はない。
また、「変動しないこと」がどの範囲を指すのかも不明確である。
とはいえ、文脈上は
「観測範囲において安定している」という意味とも解釈できる。
問題ない、と判断する。
最後に、「過去の不一致報告はすべて無効」との記述。
これはやや強い表現である。
通常であれば、「再検討の結果、修正された」とするのが一般的であり、
“無効”と断定するのは異例である。
ただし、誤記録の排除という意味であれば理解可能である。
ここまで読了。
全体として、整合性は取れている。
特段の問題はない。
……いや。
一点だけ、気になることがある。
この記録は「完全に一致した」としているが、
それを確認した主体が明記されていない。
調査者名がない。
観測条件もない。
確認手順もない。
にもかかわらず、結果だけが存在している。
通常、この形式の報告は成立しない。
……いや。
成立しているのかもしれない。
そういう形式なのか。
だが、それは形式の問題であり、
内容の正否とは別である。
現地で確認すれば済む話だ。
問題はない。
(ここでページを閉じた)
閉じたはずなのに、
塚の配置が頭の中に残っている。
七基。
南西方向。
一直線。
いや、
一直線だったか?
中央の一つが、
少しずれていた気がする。
いや、違う。
記録では一直線だ。
……そう書いてあった。
(以降、記録なし)
現地訪問記録(N)
■鬼死骸村アーカイブ
現地訪問記録:東側塚列/食堂
■記録者
N
■訪問目的
KSH-FNL-01確認
■本文
村に入った時点では、特に違和感はなかった。
地図と記録に基づき、東側の塚列へ向かう。
位置は一致している。
問題はない。
塚列を確認。
……六つしかない。
見落としの可能性を考え、周囲を一周する。
やはり六つ。
いや、違う。
七つのはずだ。
もう一度数える。
一、二、三、四、五、六。
……六つだ。
少し離れて見る。
視点を変える。
七つ、ある。
……ある、ように見える。
中央の一つが曖昧になる。
位置が定まらない。
一直線ではない。
いや、
一直線に見える。
記録では一直線だ。
……そうだ。
(記録中断)
再開。
これ以上の確認は困難と判断。
一度、村内で情報を収集する。
食堂を発見。
営業中。
入る。
店内には数人。
特に変わった様子はない。
カウンターに座る。
店主(女性)に確認。
「東の塚、いくつありますか」
「七つだよ」
即答。
「一直線ですか」
「そう見えるね」
“そう見える”
「六つに見えることはありませんか」
少し間。
「あるよ」
「でも、七つでしょ」
……断定。
「どうやって数えているんですか」
「数えないよ」
「そこにあるから」
理解できない。
「ずれて見えることは」
「見え方でしょ」
「変わるよ」
「でも、なくならない」
……なくならない。
「一直線ですか」
「立つ場所によるね」
「でも、まっすぐだよ」
矛盾している。
いや、
していないのか。
(ここで沈黙)
食事を注文。
内容は記録していない。
食事中、
塚の配置を思い出そうとする。
七つ。
一直線。
……中央がずれている。
いや、
ずれていない。
(記録の書き直しを試みるが中断)
■追記
現地において、
記録と完全に一致する状態を維持することは困難である。
ただし、
一致していると認識することは可能である。
どちらが正しいかは、現時点では判断できない。
(ここで筆跡が乱れる)
七つ。
(以降、記録なし)
外部報告統合記録|東側塚列整備事業(報告・回答・内部記録)
■事業名
東側塚列周辺整備工事
■資料番号
KSH-CIV-07
■提出区分
外部報告書/回答書(統合)
■作成者
記載なし
■概要
本記録は、東側塚列周辺整備工事に関する施工業者からの報告、ならびに当該報告に対する建設課の回答内容を整理し、統合したものである。
当該工事は、既存地形の維持を前提とし、周辺環境への影響を最小限に抑えることを目的として実施された。
■施工業者報告(要約)
工事対象区域において、地表下約30〜50cmの範囲に複数の石造物を確認した。これらは一定の間隔で配置されており、直線的な並びを形成しているように見受けられた。
配置数については、作業工程において確認の都度変動が見られたため、最終的な確定には至っていない。
同一地点において、確認結果が一致しない例があった。
なお、施工の進行に支障はなく、すべて計画通り完了している。
■建設課回答(抜粋)
当該報告における「配置数の変動」については、測定位置および確認手順の差異によるものと考えられる。
本事業においては、既存資料に基づき、対象構造物は七基であると認識している。
よって、報告内容については七基として整理し、記録上の統一を図るものとする。
施工結果については、特段の問題は認められない。
■補足記録
施工業者による再確認においても、同様の結果が得られている。
確認の結果、すべての配置は一致していると判断される。
七基である。
■記録整理
本件に関するすべての記録は、上記の通り統合され、整合性が確認された。
数値の揺れは、記録過程における一時的なものであり、最終的な記録には影響しない。
すべて一致している。
問題はない。
(内部メモ:未提出)
・初回報告では「五」または「六」と記録されていた箇所あり
・写真記録において、対象物の位置関係が一致しないものがある
・「七」とした場合のみ、全記録の整合が取れる
・理由は特定できないが、七でなければ揃わない
・整合を優先する
・本判断は暫定的なものとする
→ 修正済
(追記)
上記内部記録については、正式文書には含めないこと。
記録は統合済である。
差異は存在しない。
七基である。
会話記録(宿泊施設にて)
■記録区分
非公式記録(音声書き起こし)
■記録対象
外部業者(東北基盤工業・測量担当)
村内宿泊施設管理人
■記録日時
不明(夜間)
■本文
業者:
「すみません、ちょっといいですか」
管理人:
「はい」
業者:
「この辺りの塚って、いくつありましたっけ」
管理人:
「七つだよ」
業者:
「……ですよね」
(間)
業者:
「いや、その……現地で見ると、六つに見えるんですよ」
管理人:
「うん」
業者:
「測っても六で出るし、位置も一つ足りなくて」
管理人:
「そういうときもあるね」
業者:
「……あるんですか」
管理人:
「あるよ」
(間)
業者:
「でも、図面は七なんですよ」
管理人:
「そうだね」
業者:
「写真も、七に見えるときがあって」
管理人:
「うん」
業者:
「これ、どっちが正しいんですかね」
(少し間)
管理人:
「七だよ」
業者:
「……」
管理人:
「困るのは、六のほうでしょ」
業者:
「……そうですね」
管理人:
「七のほうが、収まりがいい」
業者:
「収まり……」
管理人:
「道も引きやすいしね」
(間)
業者:
「でも、現地は……」
管理人:
「明日、もう一回見てみな」
業者:
「はい」
管理人:
「たぶん、七に見えるから」
(長い間)
業者:
「……そうなるといいんですけど」
管理人:
「前にも同じ話、聞いたことあるから」
(間)
管理人:
「なるよ」
初期記録(断片)
■鬼死骸村記録庫
分類不明資料(断片)
■資料番号
KSH-ORIGIN-01(暫定)
■状態
一部欠損/書き換え痕あり
■本文
東の方、低き丘の並びあり。
土を盛りしもの、
数は――
(抹消)
――六つ、確認す。
(追記)
いや、七つとするのが正しい。
中央の一つ、位置定まらず。
ただし、並びとしては欠くべからず。
(中略)
直線にあらず。
わずかにずれあり。
(追記)
直線として扱う。
そのほうが、収まりよし。
(中略)
下に何かある様子なし。
掘るも変化なし。
(追記)
下層に構造ありと見るべき。
見えざるのみ。
(中略)
以上より、
東側の塚列は七基、
南西に向け直線配置とする。
(欄外書き込み)
誰が最初に七と言ったか、
思い出せない。
ただ、
六では、うまくいかなかった。
(何が、とは記されていない)
現地観測記録(個人)
■現地観測記録(私的)
発見場所:村外持ち出し資料内
■記録者
不明(外部研究者と推定)
■状態
未提出/一部破損
■本文
対象:東側塚列
結論から書く。
六基である。
繰り返し観測したが、
結果は一貫している。
時間帯、天候、角度を変えても変化なし。
中央に該当するはずの位置には、
構造物は存在しない。
地表、地中ともに確認済み。
写真、測量データ、すべて一致する。
それでも、
周囲の人間は七基として扱っている。
理由は説明されない。
(中略)
本日、宿泊施設の管理人に確認。
「七つだよ」との返答。
六であることを示したが、
理解されない。
理解されない、というより、
理解する必要がないように見える。
(中略)
違和感があるのは、私のほうか。
写真を見返す。
六である。
ただ、
数分見ていると、七に見える瞬間がある。
錯覚の一種と考える。
拡大して確認。
該当箇所には何もない。
(中略)
記録庫の資料を確認。
七基と明記されている。
初期記録に書き換え痕あり。
六→七。
ここで仮説を立てる。
①認識の誘導が発生している
②記録が優先され、現実が補正される
③長期的には認識が統一される
私は③に至っていない。
(中略)
本日、現地で再確認。
やはり六である。
問題はここからだ。
報告書を提出する必要がある。
七と書くべきか。
六と書くべきか。
どちらを書いても、
結果は変わらない可能性がある。
(中略)
仮に七と書いた場合、
私はそれを“知っている状態”で記録することになる。
それは、何かを壊す行為ではないか。
(中略)
逆に、六と書いた場合。
この記録は、
どこにも採用されない可能性が高い。
存在しないものと同じ扱いになる。
(中略)
どちらが正しいか、ではない。
どちらが“残るか”だ。
再編記録(N・後期)
■鬼死骸村アーカイブ
再編記録:東側塚列(統合版)
■資料番号
KSH-REV-03
■作成者
N
■本文
東側塚列は七基で構成される。
各塚は南西方向に向けて一直線に配置されており、
その位置関係は安定している。
これまで報告されていた観測上の差異は、
観測条件および視点の影響によるものであり、
対象そのものの変動を示すものではない。
したがって、当該塚列は一貫した構造を持つものと判断される。
配置については、いかなる観測条件においても、
直線として認識可能である。
一部において位置の揺らぎが指摘されていたが、
これは観測上の誤差として整理される。
下層構造については、上層と同一の配置を持つ構造が存在する。
この構造は直接的な視認には至らないが、
位置的対応および複数の観測結果の一致から、
その存在は確定的である。
また、当該構造は上層と構造的にも同一であると判断される。
以上より、当該塚列は以下の性質を持つ。
七基で構成される
南西方向への直線配置である
上下二層の同一構造を有する
変動は認められない
本記録は、既存資料および現地観測結果を統合したものであり、
当該塚列の構造を最も適切に表現するものである。
■備考
(記載なし)
■注記
※本記録により、当該塚列に関する整理は完了した
最終記録(N版)
■鬼死骸村アーカイブ
最終報告:東側塚列(確定版)
■資料番号
KSH-FNL-02
■作成者
記載なし
■本文
当該塚列について、すべての観測結果は確定版記録と完全に一致した。
塚の数は七基であり、配置は南西方向への一直線である。
各塚は等間隔に存在し、その位置関係に変動はない。
これまで観測ごとに報告されていた差異は、
いずれも観測条件および認識の不備に起因するものであり、
本調査においてすべて解消された。
下層構造についても、上層と完全に一致する配置として確認された。
この一致は空間的な位置関係にとどまらず、
構造的にも同一であると判断される。
なお、当該構造は常に同一の状態で存在しており、
変動することはない。
本記録をもって、当該塚列に関するすべての調査は終了とする。
■備考
観測の再現性は完全に確保された
記録と現実の差異は存在しない
すべての情報は統合済みである
■注記
※本件に関する追加調査は不要である
※過去の不一致報告はすべて無効とする
※本報告の作成者は特定されていない
(以下、余白に手書きの追記)
中央の一基が、わずかにずれている。
(追記ここまで)
最終記録(未送信)
■報告書(未送信)
発見場所:外部研究機関送信待機フォルダ
■記録者
外部調査員(再訪者)
■本文
本報告は、提出されていない。
理由は単純である。
どの形式で記述しても、
正確にならないため。
対象:東側塚列
観測結果は以下の通り。
・六基として安定して観測される
・条件によって七基として構造が成立する
・両者は排他的ではない
この記述は、
既存の記録形式に適合しない。
(中略)
前任者は六を選んだ。
村は七を採用している。
どちらも間違いではない。
ただし、
どちらも完全ではない。
(中略)
本来であれば、
ここで結論を提示すべきである。
しかし、この対象は
結論によって性質が固定される可能性がある。
すなわち、
記述された内容が、
そのまま“状態”として残る。
(中略)
このため、本報告は提出しない。
未確定のまま保持する。
(中略)
ただし、記録として何も残さないことは、
それ自体が一つの選択となる。
それは、おそらく望ましくない。
(中略)
したがって、本記録は
送信されない状態で保存する。
誰かがこれを読む可能性を残す。
(中略)
最後に、個人的な所見を記す。
本対象は、
「数」の問題ではない。
また、観測の問題でもない。
むしろ、
“どの状態を採用するか”
という問題である。
(中略)
そしてもう一つ。
本日、現地を離れる直前に、
最後の確認を行った。
結果は、六基であった。
ただし、
帰路の途中で撮影した写真には、
七基が写っている。
この差異については、
現時点で説明できない。
(中略)
この記録に、送信履歴はない。
受信記録は残っている。
誰が、受信したのかは記されていない。
同一本文、再受信。
受信ログ:空白。
以上。
この物語は、実在する岩手県一関市・旧鬼死骸村を舞台にした、
記録・神話・現代が織りなす物語の一編です。
この村には、フィクションでは作れない地形と歴史があります。
鬼死骸村の全体像は、【鬼死骸村探検隊】(ポータルページ)にて。
地図・動画・神話・怪異記録が重なっています。
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