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風に吹かれて - - 音楽の遊悠エッセイ

風に吹かれて
ボブ・ディラン

 ボブ・ディランの「風に吹かれて(Blowin’ in the Wind)」という歌を知っていますか。
 たとえ曲名を知らなくても、

  The answer, my friend, is blowin’ in the wind,
  The answer is blowin’ in the wind.

  友よ、答えは風の中に、
   答えは風の中に吹かれている

 というフレーズに、どこか聞き覚えがある方も多いかもしれませんね。

 この曲が世に出たのは、1963年、ディランのセカンド・アルバム『フリーホイーリン・ボブ・ディラン(The Freewheelin’ Bob Dylan)』に収録されたときのことでした。

 その頃は、アメリカでは公民権運動が大きなうねりとなり、黒人差別への抗議、自由と平等を求める声が国中に広がっていました。
 音楽の世界でも、フォークソングが爆発的な人気を博し、特に「プロテスト・ソング」と呼ばれる、社会や政治に対する鋭いメッセージを込めた歌が数多く生まれた時代だったのです。

 そんな時代の空気をまとって、この「風に吹かれて」も生まれました。

 しかし、ディラン自身はこの曲について、「プロテスト・ソング」と単純に分類されることをあまり好まなかったようです。
 彼が二十歳の頃、こう語っています。

  「ただ答えは風の中で吹かれているということだ。
   風の中にあるんだ、しかも風に吹かれちまっている」

と。なんとも詩的で、はかない響きのコメントですね。

 曲の中でディランは問いかけます。

 How many roads must a man walk down
 Before you call him a man?

 ひとりの人間が「男」と呼ばれるようになるまで、
  いったいどれほどの道を歩かなければならないのか?

 How many years can a mountain exist
 Before it’s washed to the sea?

 ひとつの山が海に流されて消えるまで、
  どれほどの年月がかかるのか?

 次々と繰り出される問いは、どれも簡単に答えが出るものではありません。

 人間の成長、社会の不条理、平和への道のり。
 それらは、明快な答えがないまま、それでも私たちの心を揺さぶり続けるのです。

 そしてディランは繰り返します。

 The answer, my friend, is blowin’ in the wind,
 The answer is blowin’ in the wind.

 友よ、答えは風の中に、
  答えは風の中に吹かれている

 この一節に込められているのは、決して絶望ではないのだと思います。

 確かに、答えはすぐには手に入らないかもしれない。でも、風の中を探せば、どこかにあるかもしれない。
 あるいは、答えそのものが、私たちの目の前をそっと通り過ぎていくのかもしれない。
 そんな希望とあきらめの入り混じった、柔らかな余韻を感じます。

 この歌は、ディランのオリジナルももちろん素晴らしいのですが、ピーター・ポール&マリー(PPM)がカバーした曲もまた味わい深いものです。
 このバージョンが世界的なヒットとなり、より多くの人々に知られることになりました。
 澄んだハーモニーで歌われる「風に吹かれて」は、また違った優しさと力強さを持っていて、今聴いても胸に響きます。

 いま、私たちが生きるこの時代もまた、かつてと同じように、不安や混乱に満ちています。

 世界では戦争や分断が絶えず、気候変動や経済格差といった大きな問題も、私たちの暮らしにじわじわと影を落としています。

 SNSで飛び交う言葉たちは、しばしば答えよりも怒りや焦りをあおり、真実はますます見えにくくなっているようにも思えます。

 そんな今だからこそ、ディランの「風に吹かれて」をあらためて聴いてみたくなるのです。

 簡単な答えに飛びつくのではなく、答えが見つからないまま、それでも問い続けること。
 風に耳を澄ませ、見えないものを感じ取り、静かに歩き続けること。
 それが、混沌とした時代を生き抜くための、ひとつの知恵なのではないかと思うのです。

 答えは、誰かが用意してくれるものではありません。

 それぞれの胸の中に、静かに吹いている小さな風の中に、見つかるものなのでしょう。

 The answer, my friend, is blowin’ in the wind,
  The answer is blowin’ in the wind.

 ディランのあの歌声が、いまも変わらず、そう語りかけてくるように思えてなりません。

 「風に吹かれて」は、時代を超えて、国を越えて、今も私たちに静かに問いかけてきます。

 あなたは、どんな風の中を歩いていきますか?



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