見出し画像

【プロマネの生きる道】適性を考慮したチーム編成・プロジェクトは「人」で決まる

はじめに

 「最高のシェフを揃えたのに、なぜか料理は平凡だった」

 プロジェクトの成否は、技術力や予算、納期といったわかりやすい要素で語られがちです。しかし、実はその成否の9割は「人選」、つまり「適性を考慮したチーム編成」で決まると言っても過言ではありません。

 料理の世界で考えてみましょう。
 どんなに腕の立つ料理人でも、新鮮で質の良い「食材」がなければ、最高の料理は作れません。

 プロジェクトも同じです。
 PMの役割は、単に納期や進捗を管理する「皿洗い」でも、「調理の指示役」でもありません。
 むしろ、プロジェクトという名の「豪華なフルコース」を成功させるために、最適な食材(メンバー)を選び、その持ち味(適性)を最大限に引き出す「プロデューサー」なのです。

 今回は、この「食材選び」の難しさと奥深さについて、多角的な視点から掘り下げてみます。


1. プロジェクトメンバーの「適性」とは何か?

 多くの場合、プロジェクトメンバーの適性とは、履歴書やスキルシートに書かれた「技術スキル」や「経験年数」だけで判断されがちです。

 もちろん、
  「Javaのプログラミングができる」
  「金融システムの開発経験がある」
といった専門性は、チーム編成の土台となります。

 しかし、それは「水と小麦粉」のような必要最低限の要素でしかありません。

 真の適性とは、その人の「スキル」「人間性」「働き方」「内なる動機」という四層構造で成り立っています。

 PMには、この四層を立体的に捉えて、各要素をパズルのピースとして組み合わせる洞察力が必要なのです。


2. 編成を行う際にPMが考慮すべき「個性のパズル」

 チーム編成は、単なるリソース配置ではなく、「化学反応を設計するプロセス」です。
 PMが考慮すべき多角的な観点を、いくつかの視点に分けて見ていきます。


2.1 スキルと専門性:「シニアとジュニアの美しい不協和音」

 技術スキルと業務知識の網羅性は当然重要ですが、編成において重要なのは「バランス」です。
 経験豊富なシニアは、設計力という名の「骨格」を作り、プロジェクトを安定させる役割を担います。
 一方、経験の浅いジュニアは、最新技術への好奇心や新しい発想という名の「スパイス」を持ち込みます。

 チームの生産性が最も高まるのは、「シニアがジュニアの育成に時間を割ける」状態にある時だと言われます。
 教える側は知識の整理が促され、教わる側は成長意欲が高まる。
 PMは単なる戦力としてではなく、「教育可能性」という観点から、あえてジュニアを配置する英断も求められます。

 ・技術スキル
   プログラミング言語、設計力、テスト技術、データ分析など
 ・業務知識
   ドメイン知識(例:金融、医療、製造など)
 ・経験レベル
   シニア・ジュニアのバランス、教育可能性
 ・役割適性
   リーダー向き/フォロワー向き/専門家タイプなど

2.2 コミュニケーションと対人関係:「外交官と研究者のハーモニー」

 プロジェクトは、技術の集合体であると同時に、人間関係の集合体でもあります。

 チーム内での協調性はもちろん、特に注目したいのは「性格タイプ」の多様性です。
 例えば、外向的でコミュニケーション能力が高いメンバーは、顧客や他部署との「外交官」となり、情報を迅速に集めます。
 一方、内向的で論理的なメンバーは、深く掘り下げる「研究者」として、システムの品質や設計の堅牢性を担保します。

 もしチーム全員が同じ性格タイプ(例:皆が外向的でスピード重視)だった場合、一時的な効率は上がっても、必ずどこかで議論の深さが失われて、大きなコンフリクト(意見の衝突)に発展するリスクが高まります。
 適度な「多様性」こそが、コンフリクトを建設的に扱い、最終的にチームをより強くするのです。

 ・対人スキル
   チーム内での協調性、傾聴力、説明力
 ・性格タイプ
   外向的・内向的、論理的・感覚的など(MBTIやDiSCなども参考)
 ・コンフリクト対応力
   意見の衝突を建設的に扱えるか
 ・多様性・文化適応力
   異文化・多国籍チームへの順応性

2.3 働き方とパフォーマンススタイル:「水の流れか、堅固なダムか」

 メンバーの「仕事の進め方」は、プロジェクトの空気そのものを決定づけます。

 スピード重視型は、目に見える成果を素早く積み重ね、プロジェクトに推進力を与えます。彼らは、まるで激しい「水の流れ」のように、常に前進します。
 一方で、品質重視型は、計画を重視し、堅牢な基盤を築きます。彼らは、急流をせき止める「堅固なダム」のように、チームの信頼性を守ります。

 どちらか一方に偏っては、プロジェクトは崩壊します。
 PMには、要件定義フェーズでは品質重視型を、実装フェーズではスピード重視型を増やすなど、プロジェクトのフェーズに応じて最適なパフォーマンススタイルを持つ人材を流動的に配置する柔軟さが必要です。

 ・仕事の進め方
   スピード重視/品質重視/計画型/柔軟型
 ・時間管理スキル
   納期意識、自己管理能力
 ・リモート適性
   オンライン環境での自律性・発信力
 ・ストレス耐性
   プレッシャー下での安定性

2.4モチベーションとキャリア志向:「内なるエンジンへの給油」

 メンバーの「内発的動機づけ」こそが、プロジェクトを成功に導く最強のエンジンです。

 「やらされ感」ではなく、「このプロジェクトを通じて成長したい」「新しい技術を習得したい」という本人の情熱が、困難を乗り越える燃料となります。

 PMは、メンバーのキャリア目標(例:将来リーダーを目指したい、特定の技術の専門家になりたい)を事前にヒアリングし、その目標達成がプロジェクト成功に不可逆的に結びつくように役割をアサインすべきです。
 個人の夢とプロジェクトの成功とを重ね合わせる。これこそが、PMの最も人間的な、そして最も難しい仕事の一つなのです。

 ・動機タイプ
   成果重視・成長志向・安定志向・貢献志向など
 ・キャリア目標
   リーダーを目指す/専門家として極めたい など
 ・興味・関心領域
   本人が情熱を持てる領域かどうか
 ・内発的動機づけ
   やらされ感ではなく自発的な動機か

2.5 チームバランスと構成面:「化学反応を生む生態系の設計」

 チーム編成は、個々のピースを見るだけではなく、全体としての「生態系」を設計する視点が必要です。

役割バランス
  リーダー、実行者、調整役、そして「クリエイター」(誰も考えつかないアイデアを出す人)がバランス良く分布しているか。

相性・信頼関係
  ここで役立つのが「過去の協働経験」です。以前、難関を乗り越えた経験を持つ者同士を再配置すれば、彼らの間に築かれた「信頼の貯金」は、プロジェクト開始直後から高いパフォーマンスを発揮することを可能にします。

 ・役割バランス
   リーダー、実行者、調整役、クリエイターなどの分布
 ・多様性の確保
   性別、年齢、バックグラウンドの違いによる補完効果
 ・相性・信頼関係
   過去の協働経験や相性の良し悪し
 ・チームサイズ・階層構造
   適正人数、報告ライン、意思決定の速さ

2.6 プロジェクト要件との整合性:「船のサイズと荒波」

 短期で成果を出すことが求められるプロジェクト(短納期プロジェクト)には、未知の領域に挑む柔軟型よりも、過去の経験を活かして着実に進める「計画型」のメンバーを配置するのが鉄則です。

 プロジェクトの特性(新規開発か、既存システムの保守か)やリスクレベルに応じて、必要なスキルの網羅性を確認し、トラブル時にリソースを柔軟に再配置できる余白(リスク対応力)も設計に組み込む必要があります。

 ・プロジェクト特性
   新規開発/保守運用/短納期プロジェクトなど
 ・フェーズ別最適化
   要件定義フェーズと実装フェーズでの適性の違い
 ・スキルマップとの整合
   プロジェクト要件を満たすスキルの網羅性
 ・リスク対応力
   トラブル時の柔軟なリソース再配置のしやすさ

2.7 組織・環境要因:「上層部との通訳」

 最後に忘れてはならないのが、チームの外部環境です。

 組織や顧客との関係性を適切に維持できるメンバーを選び、特にPMと上層部・顧客との間の「通訳」役として機能できるコミュニケーション窓口を適任者に任せることが重要なのです。
 また、この編成が将来のリーダー育成という組織全体の目標とどう連動しているか、という長期的な視点もPMには求められます。

 ・上層部や顧客との関係性
   信頼関係やコミュニケーション窓口の適性
 ・人材育成観点
   将来のリーダー育成を意識した配置
 ・組織文化との整合性
   社風・チーム文化への適応力
 ・評価制度との連動
   成果を正しく評価・還元できる体制

3. PMが「適性を見抜く」ために心がけること

 では、PMはどうすれば、スキルシートの行間に隠された「真の適性」を見抜くことができるのでしょうか。

 PMは、メンバーを「資源(リソース)」として捉えるのではなく、「人間(ヒューマン)」として捉えることを心がけるべきなのです。

(1)傾聴の姿勢を持つ
  メンバーの「やりたいこと」「不安なこと」「譲れないこと」を丁寧に聞く時間を持つことです。

(2)過去の行動を観察する
  「私はチームをまとめるのが得意です」という言葉よりも、「過去に、意見が対立した際にどのように振る舞ったか」という具体的なエピソードにこそ、その人のコンフリクト対応力や真の適性が表れます。

(3)役割を「試す場」を提供する
  最初から固定するのではなく、短期間、新しい役割を試してもらう場を設けて、その「適性」を検証する柔軟な姿勢も大切です。

 スキルは、一時的に組織から借り受けるものかもしれません。
 しかし、「個性」や「動機」はその人が持っている普遍的な価値です。
 PMの生きる道とは、その普遍的な価値を見出して、プロジェクトという舞台の上で最も輝ける場所を提供することに尽きるのです。


4. おわりに:船出の後に見える景色

 「適性を考慮したチーム編成」とは、決してメンバー全員にとって居心地の良い環境を作ることではありません。
 それは、時に厳しい荒波を乗り越えるために、「最高の機能性」と「最高のレジリエンス(回復力)」とを備えた船を造り上げることなのです。

 優秀なPMが作ったチームは、単に成果を出すだけではなく、そのプロジェクトを通じてメンバー一人ひとりを成長させ、次の旅路(プロジェクト)へ向かう活力を与えます。

 船長であるPMが、羅針盤(適性)を手に、多様な才能という名の帆を張り、船出の号令をかけたときに、初めて、単なる技術の集合体では見えなかった、美しい成功の景色が見えてくるのです。



【関連記事】

プロマネの生きる道

IT現場の生態系

プロジェクトマネジメントの小径

実践・プロジェクトマネジメント[概要編] - - マネジメントの道具箱



【書籍の紹介】

チーム・ジャーニー 逆境を越える、変化に強いチームをつくりあげるまで Kindle版
 市谷 聡啓 (著)
 「ともに考え、ともにつくる」――スクラムやアジャイルを導入した現場で直面する開発チーム・マネジメントの問題に立ち向かうすべ、チームづくりの要点をストーリーで学ぼう!
 【本書の特徴】
 ・現場のストーリーから、考え方とプラクティスを一緒に学べる
 ・単一チーム、複数チームなど、様々なチーム・マネジメントの問題を扱う
 ・日本の現場を前提にしているので、実践しやすい
 ・アジャイルをこれから始める人だけでなく、もっとうまく実践したい人にも最適
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

人を動かす 改訂文庫版 Kindle版
 D・カーネギー (著), 山口 博 (翻訳)
 創元社 (2023/9/6)
 日本唯一の公式本『人を動かす』が、1936年初版、1981年改訂版を経て、約40年ぶりに大改訂。
 人が生きていく上で身につけるべき「人間関係の30原則」を、長年集めた実話と、成人教育の現場で磨き上げた実践例を交え、説得力豊かに解き明かす。深い人間洞察とヒューマニズムを根底に据え、人の心を突き動かすための行動と自己変革を促す感動の書。あらゆる自己啓発書の原点となった不朽の名著にして歴史的ベストセラー。
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

プロジェクトマネジメントの基本がこれ1冊でしっかり身につく本 Kindle版
 前田和哉【著】
 技術評論社(2022/06)
 本書は、プロジェクトマネジメントについて基本から学ぶことのできる入門書です。プロジェクトマネジメントの基礎知識について解説した後、プロジェクトを「立ち上げ」「計画」「実行」「監視・コントロール」「完了」という5つの段階に分け、各段階において実施すべきこと、注意すべきポイントについて丁寧に解説しています。
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

担当になったら知っておきたい「プロジェクトマネジメント」実践講座 Kindle版
 伊藤大輔 (著)
 日本実業出版社 (2017/2/1)
 本書は、プロジェクトマネジメントの具体的知識とツールを、「目標設定」「計画」「実行」という3つの視点を中心に解説。プロジェクトの進捗に沿って、豊富な図を使って説明しています。多くの仕事や活動がプロジェクトである、と言っても過言ではありません。ビジネスマンをはじめ、プロジェクトを成功させたいすべての人、必読の一冊です!
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

プロジェクトマネジメント知識体系ガイド
 (PMBOKガイド)第7版 Kindle版
 +プロジェクトマネジメント標準: PMI日本支部 監訳
 プロジェクトマネジメント協会(PMI) (著)
 一般社団法人 PMI日本支部 (2023/1/6)
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

図解即戦力 PMBOK第7版の知識と手法がこれ1冊でしっかりわかる教科書 Kindle版
 前⽥ 和哉 (著)
  技術評論社 (2024/9/20)
 プロジェクトマネジメントの世界標準として知られるPMBOK Guide 第7版の解説書です。「プロジェクトの基本」「価値実現システム」「12の原理・原則」などプロジェクトマネジメントの基礎となる知識のほか、PMBOK第7版のメインテーマともいえる「8つのパフォーマンス領域」について、要点をくわしく解説します。プロジェクトマネジメントの勉強のほか、PMP試験対策の第一歩としてもおすすめできる1冊です。
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

図解入門よくわかる 最新PMBOK第6版の基本 Kindle版
 鈴木安而 (著)
 ‎ 秀和システム (2018/3/23)
 PMBOKガイドは、米国プロジェクトマネジメント協会により、日本語を含め世界11ヶ国語に翻訳・出版されています。翻訳されても、専門用語が多い、カタカナ用語が多いなどの理由からなかなか理解が困難です。本書は、『PIMBOKガイド第6版』の翻訳・監訳チーム・リーダーでもある著者が、本来の意味をなるべくかみ砕いて解説します。イメージしやすいよう図版を豊富に使っているので、初心者からベテランまでわかりやすくなっています。
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



いいなと思ったら応援しよう!

Tom.Msn よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!