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ブロジェクトにおけるリスクマネジメント - - マネジメントの道具箱

はじめに

 プロジェクトを進めるうえで、予期せぬ問題や困難に直面することは珍しくありません。
 予定していた納期が守れなかったり、予算を大きく超えてしまったり、技術的な課題が発生したりと、さまざまな「リスク」がプロジェクトを脅かします。

 こうしたリスクにどう備え、どう対応していくかを体系的に考える手法が「リスクマネジメント」です。

 ここでは、プロジェクトにおけるリスクマネジメントの考え方や実際の進め方について、分かりやすく解説していきます。


1.プロジェクトにおけるリスクマネジメントとは

1.1 PMBOKにおける定義

 PMBOK(Project Management Body of Knowledge、プロジェクトマネジメント知識体系ガイド)では、リスクマネジメントとは

 「プロジェクトの目的に影響を与える不確実性を特定、分析し、対応策を計画・実施するプロセス」

と定義されています。

 ここでのポイントは、

  「リスク=悪いこと」

ではなく、

  「まだ確実に起きていない不確実なこと全般」

を指すということです。
 つまり、うまくいけばチャンスになるようなポジティブなリスクも含まれるのです。

1.2 リスクの具体的な事例

 プロジェクトでは、さまざまな分野にリスクが潜んでいます。
 代表的な例をカテゴリー別に見てみましょう。

(1)技術的リスク
  新しい技術の導入が失敗する、システムの性能が期待に届かないなど。

(2)人的リスク
  キーパーソンの離脱、メンバー間のコミュニケーション不足。

(3)スケジュールリスク
  作業が遅延する、依存関係のあるタスクが予定通りに進まない。

(4)コストリスク
  見積もりが甘く、予算を超える。

(5)外部要因リスク
  法規制の変更、取引先のトラブル、天候など。

(6)品質リスク
  成果物の品質が基準に達しない、不具合が多発する。

2.リスクマネジメントの実際

ステップ1:リスクの特定
 最初のステップは、どんなリスクがあるのかを洗い出すことです。
 プロジェクトの過去の事例や、関係者からのヒアリングを通じて、できるだけ幅広くリスクをリストアップします。

ステップ2:リスクの評価
 次に、洗い出したリスクを「発生可能性」と「影響度」の2軸で評価します。
 たとえば、「発生しやすく、影響も大きいリスク」は最優先で対応策を検討する必要があります。

ステップ3:対応策の計画
 リスクに対してどのような対応を取るかを計画します。
 対応の基本方針には以下のようなものがあります。

 ・回避
   リスクの原因を取り除く。
   例:高リスクの技術を使わない

 ・軽減
   発生確率や影響を小さくする。
   例:検証フェーズを設ける

 ・転嫁
   リスクを他者に移す。
   例:保険、アウトソーシング

 ・受容
   あえてリスクを受け入れる。
   例:影響が小さい場合

ステップ4:監視とレビュー
 リスク対応策は立てて終わりではありません。
 プロジェクトの進行中にもリスクの状況を監視し、新たなリスクの発見や、対応策の見直しを行うことが大切です。

3.カテゴリー別の対応例と注意点

(1)技術的リスクへの対応
 ・例:新技術の採用により、開発が遅れる可能性。
 ・対応:プロトタイプの開発や、技術検証フェーズを早めに実施します。
 ・注意点:技術の信頼性だけでなく、チームの習熟度にも目を向ける必要があります。

(2)人的リスクへの対応
 ・例:プロジェクトリーダーの突然の退職。
 ・対応:後任候補の育成、ドキュメントの整備など。
 ・注意点:属人化を避け、ナレッジの共有を進めることが重要です。

(3)スケジュールリスクへの対応
 ・例:他チームの遅延により自チームの作業も遅れる。
 ・対応:バッファ期間を設定し、依存関係を明確に管理します。
 ・注意点:リスクが現実化した場合に迅速にスケジュールを再調整できる体制が必要です。

(4)コストリスクへの対応
 ・例:人件費の高騰や見積もり漏れ。
 ・対応:見積もり精度を上げる、予備費の確保。
 ・注意点:コスト削減のために品質を落とさないようバランスを取る必要があります。

(5)外部要因リスクへの対応
 ・例:主要な取引先の倒産により、必要な部品の調達が滞る。
 ・対応:代替ベンダーを事前に確保しておく、複数ルートでの調達を検討する など。
 ・注意点:外部要因は自社でコントロールできないため、情報収集や関係先との信頼関係の維持が重要です。法規制の変更や災害への備えとして、定期的なリスクレビューを行うことも効果的です。

(6)品質リスクへの対応
 ・例:納品されたソフトウェアに多数のバグがあり、顧客の期待を満たせない。
 ・対応:品質基準の明確化、テスト工程の強化、品質レビューの実施。
 ・注意点:開発スピードを優先しすぎると、品質管理が後回しになりがちです。品質はプロジェクト後半で取り戻すのが難しいため、早い段階から品質に対する意識を全員で共有しておくことが肝心です。


4.PMのやるべきリスクマネジメント

4.1 立ち上げフェーズ(Initiating)

【PMがやるべきこと】
 ・プロジェクトの背景や目的から、想定されるリスクの大まかな方向性をつかみます。
 ・ステークホルダーの特性や利害関係を整理し、「誰がどんなリスク要因になるか」を見極めます。
 ・初期リスク(法的制約、資金調達、人材不足など)を仮リストとして作成します。

【注意すべきこと】
 ・この段階では情報が少なく、リスクが見えづらいことが多くあります。「分からないこと」そのものをリスクとみなしておく姿勢が重要です。
 ・ステークホルダーの期待や要求のずれもリスクになります。初期から対話を通じた調整を始めておく必要があります。

4.2 計画フェーズ(Planning)

【PMがやるべきこと】
 ・リスクを洗い出し、発生可能性と影響度を分析します(定性的・定量的評価)。
 ・優先順位をつけ、対応方針(回避・軽減・転嫁・受容)を策定します。
 ・リスク対応計画、リスク登録簿(リスクログ)を整備し、見える化します。
 ・モニタリングと対応の体制(誰が何を監視し、どう対処するか)を設計します。

【注意すべきこと】
 ・リスク洗い出しをPM一人で行うと漏れが出やすいため、チームメンバーや関係者を巻き込んだブレインストーミングやワークショップ形式が有効です。
 ・「リスク対応のための予備費」をスケジュールやコストにきちんと組み込んでおかないと、後から対処不能になる恐れがあります。
 ・確率が低くても影響が大きい「致命的リスク」は軽視しないように注意しましょう。

4.3 実施フェーズ(Executing)

  (監視やコントロール)

【PMがやるべきこと】
 ・計画したリスク対応策をタイミングよく実行します。
 ・新たに発生したリスクや、想定外の問題を早期に把握し、計画を更新します。
 ・定期的な進捗会議やレビューで、リスクの発現状況をモニタリングします。
 ・リスクの兆候(リスクトリガー)に敏感になり、早期対応を促します。

【注意すべきこと】
 ・「当初の計画通り」であることに安心してしまい、実際の変化に気づかないままリスクを見逃すことがあります。現場の声を重視しましょう。
 ・問題が起きたときに「誰が判断し、誰が実行するのか」が曖昧だと混乱を招きます。あらかじめ責任の所在を明確にしておくことが重要です。
 ・小さな異常を軽視せず、「これはリスクになり得るのか?」と一歩踏み込んで考える姿勢がリスクの早期発見につながります。

4.4 終結フェーズ(Closing)

【PMがやるべきこと】
 ・リスク対応の効果を評価し、成功・失敗の要因をドキュメント化します。
 ・今回発生したリスクとその対応を振り返り、将来のプロジェクトに活かすために教訓としてまとめます。
 ・リスク管理に関わった関係者に感謝を伝え、経験を組織的な知見として残します。

【注意すべきこと】
 ・終わったことで安心し、リスクに関する記録や振り返りを怠ると、同じ失敗を繰り返す可能性があります。
 ・「何がリスクで、どう乗り越えたか」はチーム全体の貴重な学びとなります。PM自身の知見にとどめず、共有しましょう。
 ・次にプロジェクトを引き継ぐ人がいる場合は、潜在リスクや未解決の課題もきちんと伝えておく必要があります。

5.書籍の紹介

プロジェクトマネジメント知識体系ガイド
 (PMBOKガイド)第7版 Kindle版
 +プロジェクトマネジメント標準: PMI日本支部監訳

 プロジェクトマネジメント協会(PMI) (著)
 一般社団法人 PMI日本支部 (2023/1/6)


図解即戦力 PMBOK第7版の知識と手法がこれ1冊でしっかりわかる教科書 Kindle版
 前⽥ 和哉 (著)
  技術評論社 (2024/9/20)
 プロジェクトマネジメントの世界標準として知られるPMBOK Guide 第7版の解説書です。「プロジェクトの基本」「価値実現システム」「12の原理・原則」などプロジェクトマネジメントの基礎となる知識のほか、PMBOK第7版のメインテーマともいえる「8つのパフォーマンス領域」について、要点をくわしく解説します。プロジェクトマネジメントの勉強のほか、PMP試験対策の第一歩としてもおすすめできる1冊です。
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)


図解入門よくわかる最新PMBOK第6版の基本 Kindle版
 鈴木安而 (著)
 ‎ 秀和システム (2018/3/23)
 PMBOKガイドは、米国プロジェクトマネジメント協会により、日本語を含め世界11ヶ国語に翻訳・出版されています。翻訳されても、専門用語が多い、カタカナ用語が多いなどの理由からなかなか理解が困難です。本書は、『PIMBOKガイド第6版』の翻訳・監訳チーム・リーダーでもある著者が、本来の意味をなるべくかみ砕いて解説します。イメージしやすいよう図版を豊富に使っているので、初心者からベテランまでわかりやすくなっています。
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)
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プロジェクトマネジメントの基本がこれ1冊でしっかり身につく本 Kindle版
 前田和哉【著】
 技術評論社(2022/06)
 本書は、プロジェクトマネジメントについて基本から学ぶことのできる入門書です。プロジェクトマネジメントの基礎知識について解説した後、プロジェクトを「立ち上げ」「計画」「実行」「監視・コントロール」「完了」という5つの段階に分け、各段階において実施すべきこと、注意すべきポイントについて丁寧に解説しています。
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)


担当になったら知っておきたい「プロジェクトマネジメント」実践講座 Kindle版
 伊藤大輔 (著)
 日本実業出版社 (2017/2/1)
 本書は、プロジェクトマネジメントの具体的知識とツールを、「目標設定」「計画」「実行」という3つの視点を中心に解説。プロジェクトの進捗に沿って、豊富な図を使って説明しています。また著者の会社は、約2000名のプロジェクトマネージャーを育てた実績もあり、本書は現場の声を反映。ビジネスストーリーのケーススタディも掲載しています。多くの仕事や活動がプロジェクトである、と言っても過言ではありません。ビジネスマンをはじめ、プロジェクトを成功させたいすべての人、必読の一冊です!
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)


図解ひとめでわかるリスクマネジメント第2版
 仁木 一彦 (著)
 東洋経済新報社 (2012/1/27)
 災害、事故、粉飾などの企業不祥事がひとたび起これば、ある日突然、巨額賠償が発生し、会社が消滅することも。では企業は、生殺与奪を握るリスクにどのように備えればいいのか?「リスクマネジメントの全体像がつかめた」「実務でもそのまま使わせてもらっている」など好評を博した入門書に、表現の見直し、事例の追加、情報のアップデートを加え、東日本大震災以後その必要性が再認識された事業継続計画(BCP)に対応した章を新設した改訂第2版。総務・法務・企画担当者必読の一冊。
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)


エンジニアのためのリスクマネジメント入門単行本
 田邉 一盛 (著)
  技術評論社 (2020/2/27)
 伝統的なリスクマネジメントは、すでに体系化された分野と言えます。しかし、FinTechやIoTの普及により多様化する複雑な事業には、これまで大企業で培われた画一的なリスクマネジメントでは限界があります。このような状況の中、ITベンチャーなど企業の規模を問わず、多くの企業でリスクマネジメント資格や知識を持つエンジニアの採用ニーズが高まっています。そこで本書では、リスクマネジメントの基礎的な説明にとどまらず、ITに関連した具体的なトラブル事例からも学べる構成になっています。リスクマネジメントを学びたい、仕事にしてみたい方にお勧めです。
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)


おわりに

 リスクマネジメントは、プロジェクトの「安全運転」には欠かせない活動です。
 すべてのリスクを避けることはできませんが、「事前に考えておく」ことが、結果的にプロジェクト成功への近道となります。

 どんなに小さなプロジェクトでも、まずは「どんなリスクがあるか」を確認することから始めてみるとよいでしょう。



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