【プロマネの生きる道】若手のモチベーションを引き出す技術
「何か質問はある?」と問いかけたとき、モニターの向こうで返ってくる「特にありません」という短く丁寧なチャット。
その無難な一言の裏側に潜む諦めのようなものを、私たちは見過ごしてしまいがちです。
「指示通りには動いてくれているけれど、どこか冷めている気がする」。そんな若手メンバーの背中に、どう声をかけていいかわからなくなることはありませんか。
スケジュールを管理し、リスクを潰し、上からの突発的な要求をいなす。それだけでPMの体力は限界に達しそうになります。けれども、実際に現場で手を動かし、泥臭い作業を形にしていくのは若手たちの情熱にほかなりません。
彼らのエンジンにどうやって火を灯せばいいのか。
マニュアルには載っていない、現場の泥臭い技術について考えてみます。
期待という名の放置、管理という名の圧迫
若手のモチベーションが落ちているとき、私たちはつい「最近の若手は積極性がない」と片付けたくなります。しかし、当事者の視点に立ってみると、まったく違う景色が見えてきます。
あるWeb開発の現場での話です。入社2年目のエンジニアに、ひたすら古いシステムのテスト項目を消化するタスクが割り当てられていました。PM側としては「まずは仕様を覚えるための配慮」だったのです。しかし本人は「自分はただの作業員で、誰でも代わりがいる仕事しかさせてもらえない」と深く落ち込んでいました。
やる気を奪う原因の多くは、タスクの重さではありません。
「なぜこれをやるのか」というストーリーが見えないことなのです。
一般のビジネス現場でも同じようなことが起きています。背景を知らされないままデータ集計を頼まれた若手は、暗闇の中で穴を掘らされているような感覚に陥ります。
「自由にやっていいよ」と投げておきながら進捗が遅いと詰めたり、逆に一から十まで細かく口を出して管理したり。そのどちらもが、彼らの誇りを削ぐことになってしまいます。
若手の熱量を引き出す「3つの手触り」
では、私たちはどうやって彼らと向き合えばいいのでしょうか。難しい理論はいりません。日々の関わり方を少しだけ変える技術があります。
一つ目は、タスクに「意味の架け橋」を架けることです。
単に「この画面のボタンの配置を変えて」と頼むのではなく、「このボタンの位置が変わると、現場のオペレーターさんの作業時間が毎日10分減るんだ」と伝える。
ITの技術者であれ、ビジネス職であれ、自分の手仕事が誰かの役に立っていると実感できたとき、人は驚くほどの粘り強さを発揮します。
二つ目は、「ガードレール」だけを決めて、ハンドルは渡すことです。
事故が起きない限界線(予算や絶対的な納期)だけを共有し、そこに至るアプローチは若手に委ねてみる。「やり方は任せるけれど、壁にぶつかったら絶対に守るから」というスタンスを見せることで、若手は安心して打席に立つことができます。
三つ目は、マニアックなこだわりを拾い上げて承認することです。
ビジネスの現場なら「この資料の図解、すごく分かりやすいね」、開発現場なら「ここのコードの書き方、すごく綺麗に共通化してくれたんだね」と声をかける。
成果そのものだけでなく、彼らが陰で払った工夫に気づいてあげること。それだけで、「このPMは自分を見てくれている」という強い信頼が生まれます。
PMが整えるべき「風通し」
こうした技術を支えるのは、PMが日頃から作っている場の空気です。
進捗確認のための1on1ばかりをやっていると、若手にとってPMは「詰めてくる存在」にしかなりません。時には進捗の話を脇に置き、いま何に興味があるのか、どんなエンジニアやビジネスパーソンになりたいのかを雑談のように聞く時間が必要です。
古代ローマの建築家は、アーチ型の橋を建てたあと、最後の一骨を抜くときに自分がその下に立ったと言われます。それと同じように、クライアントからの理不尽な仕様変更や上層部からの圧力があったとき、若手の前に立って風よけになる。そんなPMの背中を、若手は黙って見ています。
「この人が守ってくれている」と感じたとき、チームの絆は確固たるものになるのです。
不完全なままで向き合う
モチベーションとは、私たちが上から注入するようなものではありません。彼らの中に最初から眠っている火種を、邪魔な湿気を取り除きながら、一緒に仰いで大きくしていく作業なのです。
完璧なガントチャートを描く必要はありません。時に迷い、泥臭く悩みながらも、目の前の若手を一人の仲間としてリクエストし続けること。
「今回のあの処理、すごく助かったよ」。
その一言を掛けるときのあなたの表情こそが、過酷な現場で若手が前を向くための、いちばんの理由になるはずです。
【徒然メモ】若手メンバーのモチベーションの実際
1. モチベーションを向上させる要件
(内発的・外発的動機)
若手が「この仕事をやろう」「成長したい」と感じるプラスの要因です。
(1)成長実感が持てる機会の提供
・自分の知識や技術(ITであれば新規技術スタックや設計手法)が身についている感覚。
・達成可能な少し高めの難易度(ストレッチゴール)の割り振り。
(2)貢献度と存在意義の可視化
・自分のタスクがプロジェクト全体や顧客、社会にどう役立っているかの接続。
・チーム内での「自分の役割」が明確であること。
(3)適度な裁量と信頼
・細かすぎる管理(マイクロマネジメント)を避け、「やり方」の一部を任せる。
・失敗してもカバーされる安心感(心理的安全性)。
2. モチベーションを低下させる要因
(阻害要因・ペインポイント)
若手がやる気を失い、離職やパフォーマンス低下につながるマイナスの要因です。
(1)目的・背景の見えないタスク(作業員化)
・「なぜこの仕様なのか」「なぜこの作業が必要なのか」の説明不足。
・ドキュメント作成やテストなど、作業の意義が感じられない放置。
(2)不透明な評価とフィードバックの不足
・頑張りがPMや上司に伝わっていない、適切に評価されない不満。
・失敗した時だけ叱責され、上手くいった時に承認されない文化。
(3)成長の停滞感(ルーチンワークの連続)
・スキルアップにつながらない単純作業のみが長期間続く状況。
3. IT技術者特有の動機付け要因
一般ビジネスマンと比べ、エンジニアやIT職種において特に顕著な傾向です。
(1)技術的興味・モダンな環境
・レガシーすぎる技術環境からの脱却、新しいライブラリやツールの導入機会。
・効率的な開発環境(CI/CDの整備、無駄な承認プロセスの削減)。
(2)技術的負債や理不尽な仕様変更へのストレス
・仕様凍結後の度重なる手戻りや、品質を無視した納期優先の指示。
(3)エンジニアとしてのキャリアパスの明確化
・フルスタックを目指すのか、スペシャリストか、将来のイメージが湧く環境。
4. 一般ビジネスマン(非IT/ビジネス職)特有の動機付け要因
ビジネス職や企画・運用側で重視されやすい傾向です。
(1)ビジネス上のインパクト・数値成果
・売上、ユーザー数、業務効率化の時間など、数字で成果が見えること。
(2)他部署や顧客との接点・評価
・エンドユーザーやステークホルダーからのダイレクトな感謝の言葉。
(3)チームワークとコミュニケーションの充実
・チーム全体で目標に向かって結束している一体感。
5. プロマネ(PM)が取るべき具体的なアプローチ・関わり方
プロマネの処方箋となるアクションプランです。
(1)1 on 1ミーティングの質の向上
・進捗確認(タスクマネジメント)ではなく、本人の悩みやキャリアを聞く場にする。
(2)小まめな承認とフィードバック(サンクスカード、チーム内称賛)
・成果だけでなく、プロセスやチャレンジした姿勢を拾い上げる。
(3)「守り」の姿勢を見せる
・外部からの理不尽な圧力をPMがブロックし、若手が仕事に集中できる環境をつくる。
【関連記事】
☆プロマネの生きる道
☆IT現場の生態系
☆プロジェクトマネジメントの小径
【書籍の紹介】
・ピープルウエア 第3版
・トム デマルコ;ティモシー リスター (著)
松原 友夫;山浦 恒央;長尾 高弘 (翻訳) 形式: Kindle版
・出版社 : 日経BP 2013/12/24
・開発プロジェクトで技術よりも何よりも大事なもの――それは「人」。一人一人の人格の尊重、頭を使う人間にふさわしいオフィス、人材の選び方・育て方、結束したチームがもたらす効果、仕事は楽しくあるべきもの、仕事を生み出す組織づくり、という6つの視点から「人」を中心としたプロジェクト開発の大切をユーモラスに語っている。
1987年の初版発行以来、多くのソフトウエア・エンジニアの共感を呼んだ名著の改訂第3版。第3版では、時代の変化に対応し、以下の章が追加された。「リーダーシップについて話そう」、「他者とうまくやっていく」、「幼年期の終わり」、「リスクとダンスを」、「会議、ひとりごと、対話」、「E(悪い)メール」。
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)
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・プロジェクトマネジメントの基本がこれ1冊でしっかり身につく本 Kindle版
前田和哉【著】
技術評論社(2022/06)
本書は、プロジェクトマネジメントについて基本から学ぶことのできる入門書です。プロジェクトマネジメントの基礎知識について解説した後、プロジェクトを「立ち上げ」「計画」「実行」「監視・コントロール」「完了」という5つの段階に分け、各段階において実施すべきこと、注意すべきポイントについて丁寧に解説しています。
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・担当になったら知っておきたい「プロジェクトマネジメント」実践講座 Kindle版
伊藤大輔 (著)
日本実業出版社 (2017/2/1)
本書は、プロジェクトマネジメントの具体的知識とツールを、「目標設定」「計画」「実行」という3つの視点を中心に解説。プロジェクトの進捗に沿って、豊富な図を使って説明しています。多くの仕事や活動がプロジェクトである、と言っても過言ではありません。ビジネスマンをはじめ、プロジェクトを成功させたいすべての人、必読の一冊です!
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・プロジェクトマネジメント知識体系ガイド
(PMBOKガイド)第7版 Kindle版
+プロジェクトマネジメント標準: PMI日本支部 監訳
プロジェクトマネジメント協会(PMI) (著)
一般社団法人 PMI日本支部 (2023/1/6)
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)
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・図解即戦力 PMBOK第7版の知識と手法がこれ1冊でしっかりわかる教科書 Kindle版
前⽥ 和哉 (著)
技術評論社 (2024/9/20)
プロジェクトマネジメントの世界標準として知られるPMBOK Guide 第7版の解説書です。「プロジェクトの基本」「価値実現システム」「12の原理・原則」などプロジェクトマネジメントの基礎となる知識のほか、PMBOK第7版のメインテーマともいえる「8つのパフォーマンス領域」について、要点をくわしく解説します。プロジェクトマネジメントの勉強のほか、PMP試験対策の第一歩としてもおすすめできる1冊です。
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・図解入門よくわかる 最新PMBOK第6版の基本 Kindle版
鈴木安而 (著)
秀和システム (2018/3/23)
PMBOKガイドは、米国プロジェクトマネジメント協会により、日本語を含め世界11ヶ国語に翻訳・出版されています。翻訳されても、専門用語が多い、カタカナ用語が多いなどの理由からなかなか理解が困難です。本書は、『PIMBOKガイド第6版』の翻訳・監訳チーム・リーダーでもある著者が、本来の意味をなるべくかみ砕いて解説します。イメージしやすいよう図版を豊富に使っているので、初心者からベテランまでわかりやすくなっています。
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