人生の砂時計 ショートショートを書いてみた
目の前に、ひとつの砂時計があります。
さらさらと、小さな砂の粒が
音もなく落ちていく。
まるで、私たちの人生そのもののようです。
この砂時計の真ん中、
今、砂が落ちているところが「現在」。
下の方にこんもりと溜まっている砂は「過去」。
あなたが積み重ねてきた経験、
出会った人々、笑ったこと、泣いたこと。
すべてが、ここに確かに存在しています。
上の方にある砂は何でしょう?
そう、「未来」の砂です。
でも、残念ながら、この未来の砂は
ガラスのくもりで見えません。
あとどれくらいの砂が残っているのか、
私たちには知る由もないのです。
あなたは生まれたばかりの赤ん坊でした。
小さなベッドに寝かされて、
ただ空を見つめていました。
その時、砂時計のいちばん上には、
未来の砂がいっぱい詰まっていたはずです。
気がつけば、あなたは小学生。
夏休みの宿題に追われ、
セミの鳴き声が降り注ぐ中、
泥だらけになって遊んでいましたね。
あの頃の砂は、どんな色をしていたのでしょう。
やがて学生になり、
恋に悩んだり、
友と夢を語り合ったり。
部活動に明け暮れたり、
テスト勉強にうんざりしたり。
それでも、
砂は容赦なく落ちていきました。
社会人一年生になった時、
希望と不安で胸がいっぱいでしたね。
満員電車に揺られ、
初めての仕事に戸惑いながらも、
必死に食らいついていました。
あの頃のあなたは、
砂時計のどのあたりにいたのでしょう。
そして、あっという間に定年退職。
肩の荷が下りたような、
寂しいような、
複雑な気持ちでした。
振り返れば、
ずいぶんとたくさんの砂が
下に落ちていました。
ある日、あなたはベッドに
横たわっていました。
もう、ほとんど砂は残っていません。
どこかで時計の音だけが、
やけに大きく聞こえます。
人生の旅も、
もうすぐ終わりのようです。
突然、見慣れない天井が
目に飛び込んできました。
「おぎゃあ! おぎゃあ!」
手足は小さく、指もこんなに短い。
隣には、優しい顔のお母さん。
あなたは、
生まれたばかりの
赤ん坊になっていました。
「誰だぁ〜、
砂時計をひっくり返したのは!」
もしかしたら、
人生の砂時計は、
誰かのいたずらで、
何度でも
ひっくり返されるのかもしれません。
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