#15 これから誰かを愛してみたいあなたへ | orange pekoe 『Organic Plastic Music』(2002)
「この曲いいよ!」くらいな軽い気持ちでアルバムを紹介しつつ、どさくさに紛れてエッセイのようなものを書いていこうと思います。
今年の3月に惜しまれながらも解散したorange pekoe。今回は、そんな彼らが2002年にリリースした大名盤『Organic Plastic Music』を紹介します。
いま誰かを愛している人へ、そして、これから誰かを愛してみたいすべての人へ贈ります。
紅茶でも飲みながら聴いてってくださいね。
あの春、オレンジペコーに恋をした
まずは聴いてみてよ、ということで一曲目はアルバムから『Happy Valley』
メジャーデビューシングルです。どうですか、このスウィンギンでソウルフルなグッドミュージック。2002年の春にリリースされました。
なんとこの曲、全国FM32局パワープレイという史上最多タイ記録(当時)を作りました。タイ記録は宇多田ヒカルの『Automatic』(1998)と、小柳ゆきの『あなたのキスを数えましょう』(1999) だそうです。
すごさがわからないって? わかりました、それでは2002年の主なFM各局のパワープレイ楽曲をみてみましょう。
キンモクセイ - 二人のアカボシ
(1月9日リリース)
元ちとせ - ワダツミの木
(2月6日リリース)
くるり - ワールズエンド・スーパーノヴァ
(2月20日リリース)
東京スカパラダイスオーケストラ - 美しく燃える森
(2月14日リリース)
RIP SLYME - 楽園ベイベー
(6月26日リリース)
EGO-WRAPPIN' - くちばしにチェリー
(7月24日リリース)
MINMI - The Perfect Vision
(8月21日リリース)
ちょっと震えるほどの名曲揃いですね。さすが音楽には一家言あるFM局といった感じです。耳の肥えたラジオマンたちが揃いも揃って32局もプッシュすることが、どれだけ異例だったか伝わりますかね。
「そんなに売れてた?知らないんだけど」という方、そうでしょうそうでしょう。華々しいデビューを飾ったオレペコですが、当時の彼らはジャケットにもMVにもテレビにも顔出しをしないという選択をしたんですよ。
平成のあの時代に、ジャズを引っさげてJ-POPのヒットチャートに殴り込んだかと思えば顔出しもせず、その後はブラジル音楽に傾倒して行ったりと、曲のキャッチーさとは裏腹にアバンギャルドな活動で爆進していきます。
デビューから24年(インディーからは25年)経ったいま、こうして彼らの活動や作品たちを振り返れば、彼らがいかにオルタナティブだったかがわかりますね。オレペコの新譜を聴くときは心の準備が必要だったのもいい思い出です。
ちなみにですがオレンジペコー(通称オレペコ)はVo.ナガシマトモコとGt.藤本一馬のデュオユニットです。ライブの時はビッグバンド編成であったりバンド編成であったり、ふたりだけであったりと様々でした。
なにはともあれ、2002年に当時高校生になったばかりの私が、近所の個人経営のCD屋さんでなんとなくジャケ買いしたのがこの『Organic Plastic Music』でした。あの春、私もオレペコに恋をしたんだと思います。
あの夏、オレンジペコーと旅に出た
さて、ここで2曲目です。アルバムから『太陽のかけら』
ラストライブ本編の最後はこの曲でしたね。ボーカルのナガシマトモコさんが「心を込めて歌うね」と噛みしめるように言ってからこの曲が始まった時はちょっとだけ泣いちゃいましたよね。ちょっとだけね。
ここで少し補足が必要なんですが、私の言う「ラストライブ」は2026年3月1日にKT Zepp Yokohamaで行われたライブのことです。当初このライブがラストライブだったはずなんですが、ラストライブの追加公演が決定しましてね。
関西のオレペコファンの熱い要望により、急遽翌週の3月8日にオレペコふたりの母校である関学でのライブが決定しました。そちらが正真正銘最後のライブです。最後まで他人に説明しにくいバンド、オレペコって感じです。
私はラストライブのカウント方式として、ブランキージェットシティ方式を採用することを勝手に決めさせてもらいましたので、あくまで表向きのラストライブはKT Zepp Yokohamaとさせていただきます。ぺこり
さてさてこの曲の紹介です。今回の記事のメインはあくまでアルバム紹介ですからね。どうでしょうこの夏のエネルギーを凝縮したかのようなグッドミュージック。太陽と土の香りがしてきませんか。
この曲と、次に紹介する曲は、実はインディーズ時代に『Happy Valley』に先駆けてシングルリリースされた曲になります。この頃のオレペコは音楽への初期衝動が、まさに真夏の太陽のように燃え滾っていたんでしょうね。
このアルバムを初めて聴くという方は、ぜひ夏に聴くことをおすすめします。私も大学時代に友人や好きな子とドライブに行くときは、オレンジペコーのこのアルバムを必ずと言っていいほど流していました。
その時の女の子が実は今の妻で…なんてことは私の人生には起きませんでしたが、オレンジペコーを流しながら毎日のように友人たちと海へ山へドライブをしたあの日々は本当に大切な思い出です。
いまでも夏になると毎年必ずこのアルバムを聴きます。私もいろんな音楽を聴く方だとは思うのですが、結局振り返ってみたら人生で一番聴いたアルバムは『Organic Plastic Music』になるんじゃないかなと思います。
オレペコと出会ってから24年。私の人生にはいつも欠かさずオレンジペコーの音楽が鳴っていました。これからもきっとオレペコの音楽と一緒に、人生という旅を続けるでしょう。
あの秋、オレンジペコーと待ち焦がれていた
さて、ここでアルバムから3曲目、みんな大好き『やわらかな夜』
何度聴いてもうっとりしますね。ヴィブラフォンの音色が美しい本格ジャズナンバーです。シーボン化粧品やアサヒカクテルパートナーのCMソングで聴いたことある人もいるんじゃないでしょうか。
ヴィブラフォンいいですよね。私も20代前半くらいでレッド・ノーボやライオネル・ハンプトンやカル・ジェイダーにどハマりするんですが、思い起こせばオレペコですでに惚れてたんですね、ヴィブラフォンの音色に。
余談ですが、この曲が発売された2002年はノラ・ジョーンズが鮮烈なデビューをした年でもありました。カフェブームなんかもありましたね。チルアウトなライフスタイルが一般に浸透しはじめた頃と言えるでしょう。
音楽にはその時代が求めるサウンドがあると思っていますが、オレペコもまたあの時代に強く求められていたんでしょう。流行りといえばそれまでですが、もっとこうカラダが渇望するようなムーブメントだったと思います。
当時はスマホはもちろんSNSやYouTubeもなく、ようやく携帯電話が普及しきったくらいでしたね。誰かと繋がることの難しさに悩んだりしながら、ひとりの時間の孤独と豊かさを持て余していたような、そんな時代でした。
本題に戻りましょう。この曲の登場人物は、愛する恋人と会える明日を待ち焦がれていたのか、まだ見ぬ未来の恋人を待ち焦がれていたのかはわかりませんが、私の場合は彼女がいなかったのでバリバリ後者の気持ちで聴いてました。笑
どうせみなさんにもあるんでしょう?若い頃に「自分はどんな人と付き合うんだろう」とか「自分を愛してくれる人なんているのだろうか」とか、おセンチな気持ちで考えたりしたことが。もちろん現在進行形の人もいるでしょう。
昔イケメンに「モテ期いつだった?」って聞いたら「ずっとモテてるからわからない」と返されて憤死しかけたことがあるんですが、彼以外のほとんどの方は経験があるんじゃないでしょうか。いや、彼にもこんな夜があったのかも。
何が言いたいかというと、この記事を読んでくれてるまだパートナーのいないそこのあなた。スマホを置いて、こんな曲でも聴きながらまだ見ぬ未来の恋人を待ち焦がれてみるのはいかがですか?というお話でした。
SNSで流れてくる恋愛の条件やテクニックにばかり気をとられて、誰かを愛するパワーが枯渇気味なんじゃないですか?祈ったり、待ち焦がれたりすることで充電されるエネルギーが愛には欠かせないんじゃないかと思うんですが、どうでしょう。
あの冬、オレンジペコーとすべての季節をめぐり終えて
さて、ここで4曲目です。アルバムから『12ヶ月』
このアルバム、オーセンティックなジャズの印象が目立ちますが、ニュージャズ的なクラブミュージックや、ボサノバやサンバなどブラジル音楽のリファレンスがふんだんに混ざり合っています。
私もオレペコをきっかけにブラジル音楽に興味を持ったんですが、これがもう魔境でね。ボサノバやサンバだけじゃなく、MPB、ショーロ、フォホー、バイオンなど、スタバのカスタマイズかってくらい種類があるんですよ。
おっと、キレのないバシャウマみたいになってしまいました。ブラジル音楽に対するツンデレ話はジルベルト・ジルあたりのアルバム紹介の時にとっておくとして…とにかく私はオレペコに多くの音楽的な田起こしをしてもらったと思います。
ブラジル音楽に限らず、ジャズやニューソウルやファンクなんかに自然とハマっていけたのも、オレペコのおかげだったんだなと。本当に好きすぎてオレペコの第一弾としてどのアルバムを取り上げようかめっちゃ迷いました。
そんなこんなで選べずにいたら解散が発表されてしまいまして。それならやっぱり、二人の音楽性や表現力がマニアックに進化しすぎてなくて音楽への愛と初期衝動が詰まった、このアルバムしかないと思ったわけです。
そもそもオレンジペコって元々紅茶の用語なんですが、茶葉の等級(グレード)を指す言葉なんですって。主に若葉(新芽から2番目)の大きな茶葉で、渋みが少なく爽やかな風味になるんだそうです。
つまり、このアルバムはまさにオレンジペコーにとってのオレンジペコやでぇ!ということです。そしてオレンジペコは、基本的にはじっくりと時間をかけて抽出するものらしいですが、このアルバムもじっくりと聴いてみてください。
世の中に「名盤」と呼ばれるアルバムはたくさんありますが、私が自分の人生の時間を使って実証済みの「大名盤」です。きっと人生の季節がめぐり終わるころでも私はこのアルバムを聴いて「名盤だな~」と言ってるでしょう。
おわりに
さてさて、解散にあたってリリースされたオールタイムベストのタイトルが『orange pekoe All Time Best 2001-2025 春夏秋冬、日々詠歌』だったので、春夏秋冬になぞらえた章立てにしてみたのですがいかがでしたでしょうか。
カンバラクニエさんによるジャケットや、ジャズトランペット奏者の黒田卓也さんもちょこっと参加してることなど、話したいことはたくさんあるんですが文字数が多くなりすぎたので今回は泣く泣くカットです。すみません。
あと、ご本人たちは敢えて「解散」という言葉は使わず「活動満了」と表現してました。この記事のコンセプトが「まだオレペコを知らない人に紹介するとしたら」なので、わかりやすく「解散」という言い方にしてしまいました。
そうなんですよ。ご本人たちの認識としては「解散」でも「終了」でもなく「満了」なんです。サービス終了というより、オレペコとして残せる資産の積立が完了しましたって感じでしょうか。とにかくふたりはやりきったのです。
活動満了にあたってナガシマトモコさんは「orange pekoeとしてのお役目は終わったのかなって」と話されていました。これはオレペコの音楽と、時代に必要とされる音楽の距離が離れてきてしまったことを感じてだそうです。
私も最近の、特に日本の音楽シーンのトレンドは「シリアス(切実さ)」であると感じています。ヒットチャートをみても切実な現実への言及が増え、孤独や愛をどこか呪いのように歌っている曲が多く目につくようになりました。
もしかしたら、今を生きる人々にとってはオレペコが歌う愛の歌が楽観的で無責任に聞こえてしまう、なんてこともあるのかもしれません。愛し方を間違えると、それは呪いとなり誰かを傷つけてしまいますもんね。
でもね、私にはこんな確信もあるんです。それは「どんなに時代が変わっても、人は誰かを愛さずにはいられない」ということです。そして愛の歌は誰かを愛する人がいる限り、時代を超えて何度でもよみがえることも。
アーティストとして表現したいこと/すべきことが変わったとしても、時代には求められなくなったとしても、きっとオレペコの音楽は時代を超えてどこかの誰かを勇気づけていることでしょう。
この記事を読んでくれている2026年を生きてるみなさん、そしてもしかしたら未来のどこかでこの記事を見つけてくれたみなさん。あなたが生きているいまに必要なのは、ひょっとしたらこんな曲かもしれませんよ。
いま誰かを愛している人へ、そして、これから誰かを愛してみたいすべての人へエールを込めて。アルバムから初期の大名曲『LOVE LIFE』です。よろしければフルでどうぞ。
おまけ~そしてはじまりに~
ってオレペコ公式の『LOVE LIFE』の音源って、もしかしてYouTube上にこれしかない? ちょっとちょっと、オレペコさんおよびソニーミュージックさんよお。いやわかりますよ、いろんな意向・事情があるんでしょうとも。
私はいいんですよ、CDも全部持ってるしLPも買ったしSpotifyも課金してますから。でもね、オレンジペコーの音楽が遠い未来まで届く可能性が少しでも上がるように、YouTubeでも全曲解禁してもらえないでしょうか…
アーティストの活動に意見するファンなんて私も大嫌いなんですが、こればっかりはネットの片隅で声をあげておきます。関係者の方、もしこの記事を見ておられましたら生意気いって本当にすみません。
エリス・レジーナのトリビュートアルバム出しちゃう日本人アーティストなんてもう出てこないんじゃないですか。彼らが残したものは「流行ったよね」だけで済まされるほど軽いものじゃないと思うんです。
なにとぞ、オレペコを未来に繋げるアーカイブを切に望みます…
さて、『LOVE LIFE』のアルバム版の公式フル音源がなくて、モノ言う消費者みたいなことを書いてしまいました。でも、ちょうどよかったかのかもしれません。最後の最後はお二人のこれからに思いを馳せて終わるつもりでした。
「活動満了」は本当にびっくりしましたね。前年にBLUE NOTE TOKYOでのライブを観にいったときには「年末に新曲出すでぇ(意訳)」なんてMCしつつ、シングルのデジタルリリースが続いていたので油断してました。
びっくりはしましたが、こうして振り返るとライブ盤等を除けば最後のアルバム『Oriental Jazz Mode(2013)』から12年も経っていたんですね。それだけの間、アルバムが出ていなかったことに改めて驚きと少しの納得がありました。
個人的には『CRYSTALISMO(2009)』から『Tribute to Elis Regina(2012)』までの期間や、『Oriental Jazz Mode(2013)』から2018年の活動再開発表までの期間の方がもっともっと長かった気がしたんですけどね。
ソロ活動では、ミナス派よろしくな藤本一馬さんと、ネオソウルよろしくなナガシマトモコ(Nia、Tomoko Nia名義)さんといった具合だったので、次のオレペコのアルバムはすごいことになるかも、と楽しみにしてたんですけどね。
一見、親和性が高そうな内省的で美しいサウンドを追求していたふたりでしたが、よくよく考えれば大分違うグルーヴの世界にどっぷりだったわけで。新曲で二人の落としどころが見つからなかったというのもわかるような気もします。
まあグルーヴうんぬんというのは私が勝手に思っているだけなんですけどね。ふたりがオレンジペコーと、オレンジペコーのファンを大切に思うがゆえの決断だったことはわかるので、解散理由がどうのこうのは野暮でしたね。
これは本当についでの余談なんですけど、ラストライブで面白かったのは、客のクラップが “アフタービート的な裏ノリ” と “オンビート(+シンコペーション)的な表ノリ” を曲ごとに行ったり来たりするんですよ。みんな器用だなと。
バックビートとオンビート(+シンコペーション)のグルーヴって、本来致命的なぐらいファン層を分断すると思っているんですが、そういった意味でもオレペコは全てが奇跡的なバランスで成り立っていたんだなと思いました。
なにはともあれ、私の左後ろや右後ろで「オレペコの有終の美にタルんだクラップは許さん」と言わんばかりのリードクラップをされていた紳士淑女の先輩方をはじめ、アンコールで走らない手拍子をかましていたオレペコファンたち。
そんなグルーヴの鬼のようなファンたちが、これからの二人のソロ活動を応援していくんだろうなと思うと、なんだかソロ活動も面白いことになっていきそうだな!と思わずにはいられませんでした。というおまけのお話でした。
さあさあ、これで本当にラストです。このアルバムは本当に大名曲揃いなんですが、その中でも私が偏愛している曲が実はありまして。このオーラスのために最後までとっておいたんですよ。
それはズバリこのアルバムの一曲目『Introduction』です。藤本一馬さん作曲のギターインストです。もうね、この『Introduction』がこの世に存在するすべてのIntroductionのなかで一番好きかもしれません。
オレンジペコーは活動を満了しましたが、オレンジペコーの音楽はこれからもずっと私たちのそばにありつづけます。今年も夏になれば、私の車ではこんなイントロダクションが聴こえてくるでしょう。
オレペコのおふたりや、オレペコのファンのみなさまにとっても、素敵な夏が訪れますように。そしてそれが、オレペコ満了後にそれぞれの場所で始まる日々の素晴らしいイントロダクションとなりますように。
そんな祈りを込めて。orange pekoe で 『Introduction』
(この曲もフルで紹介したかったよ~関係者さま~なにとぞ~泣)
2026年3月 オレンジペコー満了後の、春の午後に
以上!
それではまた次回!
