民意が反映されない「金権政治」の仕組み③戦争ビジネスと緊急事態の異常さ
民意が反映されない「金権政治」の仕組み③戦争ビジネスと緊急事態の異常さ
なぜか国民の民意が反映されなくなってしまった日本政治の世界。日本社会(政治・経済)などで、何が起きて、このような事態が起きているのか?を読んだ本を参考にして、シリーズで「強欲資本主義」の正体や仕組みを探っていこうと思います。
今回は、最近大問題になっている戦争ビジネスと政府の緊急事態の異常さについてです。
第2章日本に忍びよる「ファシズムの甘い香り」

読んでいくのはこちら。堤未果さんの「政府はもう嘘をつけない」です。
第2章から抜粋していきます。
「非常事態宣言」で、政府は巨大な権力を手に入れる
無限に儲かる対テロ戦争
●「非常事態宣言」で、政府は巨大な権力を手に入れる
「知っていますか?アメリカではもう10年以上も、憲法機能が停止中なんです」
以前、洪水被害に見舞われたニューオーリンズの取材中に出会った高校教師、ハワード・ベネスの言葉だ。
2001年9月11日。
ニューヨークの世界貿易センターとワシントンDCの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)で同時多発テロが起きた時、ブッシュ大統領は「国家安全保障上の緊急事態」を宣言、それからわずか6週間のうちに、議会で「愛国者法」がスピード可決している。
「国家緊急権は冷戦時代の1982年にレーガン政権下で『核戦争時に政府が壊滅する危機に備える』ために、NPO(国家計画局)を創設したのが始まりでした。ソ連との間に核戦争が起きた時、一時的に全ての憲法を停止させて政府の指揮に従うためです。
ですがその後1948年、緊急事態の基準がいつの間にか「戦争」から「安全保障上の緊急事態」に書きかえられていた。だから9・11テロですぐこれが使われたのです」「それが憲法を停止するほどの〈緊急事態〉かどうかは、誰が判断するのですか?」
「私が危険視するのは、まさにそこなんです。(安全保障上の緊急事態〉というのは、実に曖昧な定義でしょう?それをその時の大統領が判断するというんです」
9.11でブッシュ元大統領は、それまでの【戦争】の定義を、2つの面から180度変えることに成功した。
1つ目は、停戦までの「期限」が存在しないこと。
2つ目は、世界中を戦場にできることだ。
敵がテロリストの場合、国家間で停戦合意をするなどの明確な線引きがないため、政府は「テロ撲滅」を錦の御旗に、いつまでも戦争を続けることが可能になる。その結果、ウォール街と軍需関連産業は、半永久的に利益をもたらす「打ち出の小槌」を手に入れることになるが、実はテロと戦う政府もまた「巨大な権力」を手に入れるのだ。
フランスの「非常事態宣言」
●フランスの「非常事態宣言」
「政府に巨大な権力を与える〈非常事態宣言)は、近年最も危険なものの一つです」
パリ在住の記者で、ドイツ系フランス人のルネ・シュライバーは言う。
「2015年パリで起きたテロ事件直後に、オランド大統領が発令した『非常事態宣言』には、憲法上の規定はありません。
ですが、公の秩序への重大な脅威があると判断された時、一定期間警察権限を強化したり、公共機関の閉鎖やデモ・集会の許可取り消しや国民の移動の自由を制限することが可能になるのです」
この「非常事態宣言」は、それから1週間後の111月20日に3カ月延長されたが、
その時点でフランス当局はすでに164人の国民を自宅軟禁状態におき、裁判所令状なしの家宅搜索793件と174件の武器押収を実施していた。最初の「非常事態宣言」が出されてからわずか1カ月半で、家宅捜索の件数は延長後に3000件まで急増している。
「実はパリのテロ事件の少し前から、フランス国内にはテロと治安を理由に政府権限を拡大する動きがありました。たとえば、2015年1月のシャルリーエブド襲撃事件のあとに議会でスピード可決した【テロ対策としての新たなデジタル監視権限拡大法案(ProjetdeLoiRelatifauRenseignement)】もその一つです」、
同法は、あらゆる諜報行為の実行をインターネットのプロバイダーに強要できる権限を政府に与える内容だ。
SNSやメールなどの通信データの盗聴と収集が可能になるが、テロ容疑の定義も曖昧な上、諜報活動の中身については、執行諮問機関の委員9人のうち半数以上が反対しない限りは司法の介入もできず、フリーハンドとなる。
政府が国民を監視する権限を拡大するこの法案が議会に出された時、多くのフランス国民は激しく反発し、10万人を超える反対署名が集まった。
「我々フランス国民は、デジタル警察国家に暮らすのは断固拒否する」
しかしその声は届かず、この法案は上下院をあっさりと通過した。
ルネを含むフランス人ジャーナリスト180人はこの動きに危機感を抱き、「ジャーナリストの自由と権利を侵害する法律だ」として、欧州人権裁判所に訴える原告団を結成したという。
だが、大統領の勢いは、その後もとどまるどころかますます加速してゆく。
2016年1月23日。
オランド大統領は「非常事態宣言」をさらに3カ月延長する方針を決定した。
「無期限が特徴である(テロとの戦い〉を続ける限り、それを理由に国をずっと緊急事態下においておけるのです。時の為政者にとって、これほど甘い誘惑があるでしょうか?
フランスにはすでに『緊急事態法』という法律があるのですが、オランド大統領は今回この仕組みを一気に強化するために、今度は『憲法』まで改正しようとしています」
「どの部分の改正ですか?」
「憲法35条(戒厳状態)と、16条(大統領への権力集中)の2つです」
日本にも緊急事態条項を入れたがる人々
●日本にも緊急事態条項を入れたがる人々
2016年4月14日、21時26分。
熊本県でマグニチュード6.5の地震が発生し、同県で震度7が観測された。
その後も揺れは止まらず、5月11日までに熊本県と大分県の両地域では震度1以上の地震が1390回発生、今も収まる気配がない。
5月10日の時点で文化庁や自治体が発表した文化財破損は364件、熊本県内だけで13万7000棟の住宅が被害を受け、被災した人々は今も苦しい生活を強いられている。そんな中、この地震をきっかけに、自民党憲法改正草案の中のある条項が浮上してきていた。
地震翌日の4月15日。
自民党の菅官房長官は記者会見で、緊急時に政府の権限を拡大する「緊急事態条項」を憲法に加える必要性について、こう強調した。
「今回のような大規模災害が発生したような緊急時に、国民の安全を守るために国家や国民自らがどのような役割を果たすべきかを憲法にどう位置づけるかは、極めて重く大切な課題だと思っています」
それから4日後の4月19日。
この発言に反発した憲法学者の樋口陽一、東京大学名誉教授をはじめとする<立憲政治を取り戻す国民運動委員会>は、すぐに怒りの声明文を発表。
「熊本地震をきっかけに、憲法に(緊急事態条項)を導入しようとすることは、惨事便乗型全体主義だ。絶対に許されない」
さらに1週間後の4月26日。
ジャーナリストの櫻井よしこ氏など早期の憲法改正を求めるグループが記者会見を開き、その中で櫻井氏が、「熊本地震で現行憲法が災害対応の妨げになった」として「緊急事態条項」の早急な設置を主張する。
「緊急事態条項があったら、最初から国が前面に出て、必要な自衛隊、警察、消防隊を含めて、事態に対処することができただろうと思われます」
永久に一党独裁が可能になる
●永久に一党独裁が可能になる
これは奇妙な話だった。
なぜなら日本には、すでに5つの災害対策法(災害対策基本法、大規模地震対策特別措置法、原子力災害対策特別措置法、首都直下地震対策特別措置法、南海トラフ地震対策特別措置法)があるからだ。
櫻井氏の言う「緊急事態条項」は、総理大臣が「地方自治体の長に対して必要な指示をする」ことができ、国民は「国その他公の機関の指示に従わなければならない」と義務づけている。
現行の災害対策基本法でも、〈緊急事態宣言〉を出せば政府は一時的に国民の権利を制限することが可能なのだ。
では、いったい何のために、この条項の創設を急ぐのか?
「緊急事態条項」が総理の権限を強化するのは、〈自然災害の時〉だけではない。
自民党の作成した憲法改正草案第9章の、98条と99条にあるこの条項を見てみよう。
ざっと要点をまとめると、ポイントは4つある。
① 衆議院を解散しなくてもよい
②法律と同じ効力を有する政令を制定することができる
③総理や議員の任期などを延ばすことができる
④国民は公的機関の命令に従わなければならない
前述したドイツ系フランス人ジャーナリストのルネと、この条項の内容について話した時、彼はこれがフランスの「非常事態宣言」よりも、はるかに大きな危険を含んでいると指摘した。
「フランスの非常事態宣言は、基本的に12日間のみ有効で、それ以上延長するには国会決議が必要です。オランド大統領が延長宣言をした時、3ヵ月なら『非常事態』ではなく『常態』ではないかという非難の声が野党議員から上がりました。だが、日本のこの緊急事態条項の有効期間は・・・・・・」
それよりさらに長い、<最低100日>だ。
この宣言を出す時には、事前または事後の国会承認が必要だと書いてある。
だが、承認が得られなかった場合、どうやって政府にブレーキをかけるのかの記載がどこにもない。そして、この間「衆議院解散」は行われないため、たとえ政府が暴走しても、内閣も国会も、国民の手(選挙)では変えられなくなる。
アメリカのように、テロとの戦いに終わりがないのをいいことに、いつまでも国を「緊急事態下」にしておけば、かつて長期政権が続いた「55年体制」第二弾の幕開けも可能になるだろう。
ナチスドイツと全く同じ自民党の「緊急事態条項」
●ナチスドイツと全く同じ自民党の「緊急事態条項」
「うーん、日本は東日本大震災のような大規模災害にあったばかりだし、そういう長期の非常事態を想定しているなら100日というのもやむを得ないのかもしれませんが・・・・」
とルネは考えこむように言った。
「現行の憲法では対応できないのですか?」
繰り返すようだが、フランスに「緊急事態法」が存在するように、日本にも緊急災害に備えた「災害対策基本法」がすでにある。
自然災害のために、わざわざ憲法を改正する必要はないのだ。
「それにしてもこの99条第1項、これをヨーロッパの人々が見たら烈火のごとく怒るでしょうね」
そう言ってルネが指した、自民党憲法改正草案の99条第1項はこうだ。
<緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる>
「これは、1933年にナチスが成立させた【全権委任法】第1条の、
『ドイツ国の法律は、憲法に規定されている手続き以外にドイツ政府によっても制定されうる』と、ほとんど同じ内容ですよ」
近代史上最も優れた憲法としてドイツが誇る<ワイマール憲法>第48条には、国家緊急権の規定があった。
【全権委任法】の導入によってこの憲法が乱用され、あらゆる人権侵害のかぎりを尽くし、ヨーロッパの歴史上最大の汚点となったナチスドイツの独裁政権。
現在ドイツはフリーハンドで政府に権限を与えないし、憲法裁判所がストッパーになる仕組み
●現在ドイツはフリーハンドで政府に権限を与えないし、憲法裁判所がストッパーになる仕組み
「ドイツと日本は全然違う。ましてやナチスと比べるなんて大げさだ」という声もある。
では、自民党の憲法改正草案で、私たちの人権は守られるだろうか?
99条第3項には「基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければいけない」とあるが、最大限尊重されたかどうかを審査する方法も、それが国によって侵害された時、個人が異議を申し立てる権利やその手続きについても、書かれていない。
「今のドイツの憲法に、〈緊急事態条項〉に代わるものはありますか?」
「ええ。多くの先進国と同じようにね。ただし、ドイツ人はナチスの苦い教訓から、政府にフリーハンドを与えることの恐ろしさを身にしみて知っている。だから緊急事態だと認められる条件や、その時に政府が持てる権限についてはかなりうるさいのです。さらに、緊急事態下で通常より大きな権力を手にした政府が暴走しないよう、〈憲法裁判所)が目を光らせています。
少しでもおかしなことをしたら、たとえ緊急事態下であってもすぐに裁判所が
『違憲だ』
として政府にブレーキをかけられる。
〈緊急事態条項〉というのはどこの国でも、それくらい劇薬になりえるものですからね」
だが今の日本には、ドイツのような「憲法裁判所」すらない。
多くの憲法学者が、内容の矛盾と危険性を指摘、野党議員からも厳しく追及されているが、2016年夏の参議院選挙で与党が過半数を取れば、この「緊急事態条項」は確実に閣議決定されてしまう。
<数の力=正義>である今の日本の政策決定プロセスは、いまかつてないほどに総理と与党自民党にとって、魔法の杖だからだ。
ルネは、しばらく考えてからこう言った。
「2016年の夏は、日本人にとっていろいろな意味で、最後の民主的選挙になるかもしれませんね」
「緊急事態条項」で、安倍総理はアメリカ大統領より強くなる!?
●「緊急事態条項」で、安倍総理はアメリカ大統領より強くなる!?
ファシスト国家まっしぐらで国民監視体制が強化された
9.11をきっかけに、「テロとの戦い」という新しい概念で「冷戦」を上書きし、緊急事態下に置きながら次々に大統領や政府、警察などが権限を強化していったアメリカ。
フランスだけでなく日本もまた、今まさにその後を追っている。
シカゴ在住の元タイム誌記者、ラリー・ピーターソンは、
アメリカでは9・11以降のプッシュ・オバマの両政権下で、急速に大統領権限の拡大や情報の一元化、国民監視体制が進んだと言う。
「ネット監視だけじゃない、当局が国内を監視する
「愛国者法」(=日本でいう「特定秘密保護法」)「サイバー監視法」「国防授権法」「食品安全近代化法」が次々に可決される一連の法律を見ていると、まるでどこかのファシスト国家まっしぐらだ」
「今日本でも、緊急時に総理権限を大きく拡大させる<緊急事態条項>に対する、批判の声が高まっています」
熊本地震の際に自民党が導入をせかした「緊急事態条項」について説明すると、ラリーは目を見開いて驚いた。
「こりゃあすごいな。アメリカにも〈エクゼキュティブ・オーダー〉といって、議会を介さなくても通せる大統領命令があるけど、さすがに、予算や法律を一人で作る立法権は持ってない。加えて軍と行政の指揮権と、議会の解散権まで手にするのか・・・・・・。今世界でそれだけの権力を持っているのは、北朝鮮のトップくらいじゃないか?
この条項が成立したら、日本の総理はある意味間違いなく、オバマ大統領よりも強くなるだろうな」
「この憲法改正に反対する人々の中には、安倍総理をヒットラーに見立てて批判する声まで出ています」
「ヒットラーねえ・・・・・どうだろう?アメリカでも、本当に国を動かす権力を手にしているのは大統領ではなく、彼をカネでバックアップしている1%の大企業やウォール街の連中だからなあ。
じゃぶじゃぶ献金して、回転ドアから政界に自分たちの仲間を送り込んで、自分たちの業界に都合のいい法律を作らせるんだ。大統領は絶対に彼らに逆らえない。今じゃ、ほとんど、連中が作った法案を成立させるために、最後に一筆署名する役だよ」
伊丹万作「騙されることの責任」
もちろん、「騙す方が100%悪い」のは紛れもない事実である。
その上で更に「騙されることの責任」を考えよう。

もう一つ別の見方から考えると、いくら騙す者がいても誰1人騙される者がなかったとしたら今度のような戦争は成り立たなかったに違いないのである。
つまり、騙す者だけでは戦争は起らない。騙す者と騙される者とがそろわなければ戦争は起らない。一度騙されたら、二度と騙されまいとする真剣な自己反省と努力がなければ人間が進歩するわけはない。騙されたとさえいえば、一切の責任から解放され、無条件で正義派になれるように勘違いしている人は、もう一度よく顔を洗い直さなければならぬ。
伊丹万作「戦争責任者の問題」より
