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民意が反映されない「金権政治」の仕組み⑧恐怖の「TPPとTTIP、TISA」

民意が反映されない「金権政治」の仕組み⑧恐怖の「TPPとTTIP、TISA」

なぜか国民の民意が反映されなくなってしまった日本政治の世界。日本社会(政治・経済)などで、何が起きて、このような事態が起きているのか?を読んだ本を参考にして、シリーズで「強欲資本主義」の正体や仕組みを探っていこうと思います。

「強欲な1%」が「TPPとTTIP、TISAの3セット」で何を狙っているのか?
どんな未来にすることを望んでいるのか?について、触れていきます。

堤未果「政府はもう嘘をつけない」


堤未果「政府はもう嘘をつけない」

読んでいくのはこちら。堤未果さんの「政府はもう嘘をつけない」です。
第3章から抜粋していきます。


ギリシャ破綻で笑いが止まらないメルケル首相

福祉を削って軍事費だけ拡大するのは日本とそっくり
自壺党🏺の政策と瓜二つ
ギリシャ🇬🇷破綻
借金の半分以上を占める防衛費については触れず、福祉ばかり問題視するメディア
EU最大規模の軍事費
アリ地獄への入り口

●ギリシャ破綻で笑いが止まらないメルケル首相

アメリカやフランスの例からもわかるように、大規模な軍事行動など巨額の予算が動くニュースは、その結果「誰が得をするのか」を見ると、全体像が浮かび上がってくる。

2015年7月5日。
IMF(国際通貨基金)への返済が出来ず、事実上債務不履行に陥ったギリシャは、EUからの要望である緊縮策の賛否を問う国民投票を実施した。

財政赤字が膨れ上がった原因は、高すぎる年金、公務員優遇などと報道されているが、なぜか触れられないもう一つの重要要素についてはあまり知られていない。債務の半分以上を占を占めるといわれる、防衛予算だ。

NATO同盟国28カ国の中で、ギリシャの軍事支出はトップのアメリカに次いで2位と突出している。金融危機から5年たち、まだGDPの175%という巨額の財政赤字を抱えているにもかかわらず、ギリシャは軍事費を前年より1%増やし、GDP比2.4%というEU最大規模を維持しているのだ。
奇妙なことに、ギリシャが危機に陥ってからずっと、「国内の支出をギリギリまで切りつめてさっさと借金を返せ」と迫っているIMFやEU、ECB(欧州中央銀行)、債権国のフランスやドイツは、何故か<軍事費削減>だけは口にしない

この矛盾について問われた欧州外交政策財団のサノス・ドコス所長は、ガーディアン紙のインタビューでこう答えている。
「1300車両という、イギリスの2倍以上の数の戦車が本当に必要なのかどうかは議論が分かれるところだろうが、トルコの軍事的脅威に対しバランスを取るために、これはやむを得ない措置なのだ」

トルコの脅威。だが、本当にそれだけだろうか?

ギリシャへの財政支援条件として、最も強く緊縮財政を要求していた債権国のドイツも同様だ。
<現実を見据えた、国家予算の組み替えが必要です。今すぐ、EUで最大の軍事予算を半分に減らして下さい。ギリシャが、ドイツと同じように軍事費をGDPの1%台に抑えれば、IMFへの当座の借金をすぐに支払え、それだけ早く国内の立て直しにかかれるでしょう>
こんな真っ当なセリフがメルケル首相の口から出ることは、もちろん、ない。
彼女にとっての<現実>とは、借金返済のしわ寄せで国民生活の水準が急激に下がっている哀れなギリシャの立て直しとは、別のところにあったからだ。

メルケル首相はギリシャ政府に対し、軍事費削減どころかIMFが融資した<救済金>の大半を、国内経済の立て直しでなく軍事予算に使うよう、圧力をかけた。

彼女がとったこの行動も、資金の流れを追ってみると、その背景が腑に落ちる。

武器輸入大国ギリシャとの商売で、アメリカに次いで最も恩恵を受けている国の一つは、他ならぬドイツなのだ。
ちなみに3位は、こちらもドイツ同様、長年ギリシャ政府に軍事費を増やすよう政治的圧力をかけてきたフランスだ。

両国は2010年から2014年までの5年間、ドイツは5億5100万ドル(約551億円)、フランスは1億3600万ドル(約136億円)相当の武器を、それぞれギリシャに売っている。
振り返ると、国が破綻した当初、金融支援を受ける条件としてギリシャ政府が課された20%もの最低賃金引き下げや公務員の給与凍結は、ギリシャという国家をじわじわと引きずりこんでゆく、アリ地獄への入り口だった。

IMFやECB、債権国であるドイツやフランスからの要求リストはこうだ。
2015年までに公務員2万人分の職を含む、10万人の解雇、
全公共部門の新規雇用廃止、
国営事業に就く労働者の給与と年金の削減、
国営電話会社の従業員と船員の年金削減、
公営企業65部門の閉鎖、
灯油とタバコ、酒への増税、
教育費削減、
障害者の自己負担増、
医師数の大幅減、病院の閉鎖。
港湾や市営水道などの国有資産はIMFの指示で次々に民営化され、「出血大セール」の値札がつけられて、ドイツやアメリカ、フランスなどのグローバル企業に最安値で買収されていった。


その結果、失業者は100万人を超え、ホームレス人口は急増し、若者の2人に1人が職を失い、20万人もの国民が国外へ逃げ、貧困層の間で感染症が拡大している。

2015年11月27日。
ロンドン・タイムズ紙は、医療や社会保障の削減と雇用喪失によって生活水準が極度に低下したギリシャで、若い女性たちが1時間4.24ドル(約500円)で売春している事実を報道した。
メルケル首相とサルコジ大統領が、ギリシャにIMFからの借入金が入る直前にギリシャ政府に<武器輸入契約の更新>を約束させていた事実をギリシャ国民が知る頃には、獲物を見つけたハゲタカたちがすでに頭上を旋回していた。

堤未果「政府はもう嘘をつけない」第3章p174〜178

IMFより怖い、ハゲタカ弁護士がやってくる

モラルハザードを起こしてナチス化しているハゲタカ国際弁護士
悪徳街金のIMFのやり方<国際版消費者金融モデル>
ハゲタカ<グローバル弁護士団>の巨大規模の訴訟ビジネスである<ISDS段判>
投資家が国家を訴えるISDS訴訟は、何と言ってもその規模が通常の訴訟とは桁違いなこと約130億円規模

国際問題評論家の故北沢洋子氏は、財政破綻した国に融資条件として国内の民営化や社会保障削減、通貨切り下げなどの構造改革を押しつけ、国を土台からボロボロにするIMFのやり方を<国際版消費者金融モデル>と呼んで、批判した。

だが、IMFの構造改革は、そこで終わりではない。

借金返済のために社会保障や医療、雇用などを減らされ、国有財産や資源までグローパル企業群に買い叩かれて、ついに虫の息になった国家を狙うのが、カネの匂いを敏感にかぎつけるハゲタカこと、<グローバル弁護士団>だ。

「グローバル化が国際弁護士たちにもたらした最大の宝ものは、何と言っても国境を超えた巨大規模の訴訟ビジネスである<ISDS段判>でしょう」

ウォール街の大手弁護士事務所に所属するロバート・ヘイズ弁護士は語る。
ISDS裁判とは、国際貿易協定を結んだ国家間で、その国の国内ルールによって投資家が商売を邪魔されたと判断した場合、投資家側がその国家を訴えることができるというルールだ。

元は法整備の不十分な途上国に投資する投資家の権利を守るためのものだが、最近では先進国間でも乱発され訴訟件数が急増、巨大ビジネスとして花開き、注目を浴びている。

投資家が国家を訴えるISDS訴訟は、何と言ってもその規模が通常の訴訟とは桁違いなことです。国内に100万人以上弁護士がいる訴訟大国のここアメリカでは、特にNAFTA締結以降、弁護士たちの最大の関心は、いかにこのISDS訴訟で利益を上げるかの研究ですよ。
この裁判自体、平均800万ドル(約8億円)の費用がかかるので、使える税金は限りがある国家側は、訴えられた時点で不利なのです。まあ裁判の結果にかかわらず、我々弁護士には多額の報酬が転がり込むわけ
ですが」

「NAFTAでは、ずいぶん多くのISDS裁判が起こされていますね」

NAFTAと聞いて、ヘイズ氏の表情がパッと輝いた。
「その通りです。2009年に世界トップクラスの製紙企業アビティピー・ボウォーター社がカナダ政府を相手に起こしたISDS裁判の賠償請求額は、いったいいくらだったと思いますか?
4億6750万ドル(約467億円)です。結局和解して、カナダ政府が支払ったのが1億3000万ドル(約130億円)ですよ」

「そのうち何%が、弁護士団に報酬として支払われるのですか?」
「それは訴訟によって違いますが、この時は賠償金の80%が法律事務所に支払われました。わかるでしょう?私が今や国際弁護士の将来がバラ色だという意味が?」

「カナダ国内では、おたくのような法律事務所とグローバル企業群がISDS訴訟を悪用して荒稼ぎしている、カナダの環境保護政策や資源管理政策まで牛耳るようになって、まるで乗っ取りだなどという、批判の声が出ていますが?」

だが、ヘイズ弁護士は涼しい顔でこう言った。
だから何なんです?私たちは違法行為をしているわけじゃない、これはれっきとした合法戒判でしょう

堤未果「政府はもう嘘をつけない」第3章p179〜182

富裕層の「違法でさえなければ何をしても良いという強欲な価値観」がナチス化

●富裕層の「違法でさえなければ何をしても良いという強欲な価値観」がナチス化

どこかで同じセリフを聞いたことがある、と思った。
<パナマ文書>に記載された名前が公開された時、タックスヘイブンについて何人もの富裕層が発した言葉だ。
違法でさえなければ何をしても良いという強欲な価値観からは、人間としての<倫理観>が、すっぽりと抜け落ちている

「ギリシャのような債務危機のニュースが報道された瞬間、我々の業界ではラッキーチャイムが鳴り響くのです」
ヘイズ弁護士は言う。

「何故ですか?IMFが融資の条件に安売りさせる国有財産は、裁判などしなくてもすでにグローバル企業群が買いあされるじゃないですか?」

皮肉を込めてそう言う私に、彼は弁護士特有の抜け目ない笑みを浮かべながら首を横に振る。

「だから、IMFが国内のインフラや国有資源を散々切り売りさせた後を狙うんです。国内がスカスカになって、もうこれ以上手も足も出ない、借金が返せないとなった時、IMFや債権者はどうします?」

「借金の一部を免除しますが」

「そう、そこからがいよいよ我々の出番です。IMFが借金を免除することで、投資した分を回収できず損害を受けた投資家たちに、ISDS裁判の営業をかけるんですよ

借金が返せないで白旗を上げた国に対して、さらにISDS裁判で追い打ちをかけると?

「もちろんです。我々の使命は、投資家たちの権利を守ることですから。2001年に債務危機に陥ったアルゼンチンでは、約40件のISDS訴訟がありました。
これまでアルゼンチン政府が支払った賠償金は11.5億ドル(約1150億円)で、その3割が報酬として弁護士団に入りました

約3.3億ドル(約330億円)の報酬ですか。笑いが止まらないわけですね

「しかし油断はできません。ドイツやオランダ、イギリスの法律事務所など、世界中の弁護士事務所が営業攻勢をかけてきますからね。この業界も弱肉強食、スピードが勝負なのです」

「しかしISDS裁判のチャンスと言っても、そんなに転がっているものですか?」

「そこは国際弁護士事務所の腕の見せ所ですよ。<法>とは所詮人間が作り出したもの、ならば法の隙間をつく<訴訟>も同じ、我々人間の<創造力>が試される場所なのです」

堤未果「政府はもう嘘をつけない」第3章p182〜184

<法人税増税>でISDS巨額裁判を狙うハゲタカ弁護士

金持ちに増税させないように、法的にも保護するナチス化した「強欲資本主義」

●<法人税増税>でISDS巨額裁判を狙うハゲタカ弁護士

「ビジネスチャンスを生み出す事例には、他にどんなものがありますか?」

「オーソドックスなのは<法人税増税>ですね。これは一発でISDS裁判の対象になります。
ハンガリー政府が法人税増税を発表した時、国内に投資しているグローバル企業群に、ヨーロッパの弁護士事務所から矢のように営業電話が殺到しました。
2004年に南アフリカ共和国で黒人の雇用機会を拡大するための制度が導入された時は、アフリカ国内のダイヤモンド鉱山などに投資しているグローバル企業が<内国民待遇違反>を盾にしたいくつものISDS裁判を起こし、政府から和解金を勝ち取っています。

報酬が非常に高額になる<薬価>関連のISDS裁判も人気ですよ。
2012年にインド政府が、高額な抗がん剤(ネクサパール)の薬価を下げた時は、アメリカの法律事務所が即、ネクサバールの特許を持つ製薬会社に営業をかけています。とにかく同業者に先を越されないよう、スピーディに動くことが重要ですね」

「つまり、先回りして<ISDS裁判をやりませんか?>と営業をかけるわけですね?」
「イエス。ギリシャのように借金で首が回らなくなった巨大債務国は、まさに優良ターゲットですね。今後NAFTAやFTAに続いて、多国間の自由貿易協定であるTPPやTTIP、TISAが締結されてゆけば、〈ISDS訴訟ビジネス〉はとてつもない規模に成長するでしょう。何度も言うようですが、国境を超えたこの巨大なゲームに勝ち残るには、知恵とスピードが不可欠なのです」

堤未果「政府はもう嘘をつけない」第3章p185〜186

商業マスコミが描くマイナスイメージと裏で高笑いするハゲタカたち

何も知らない国民の悲鳴や絶望が投資家の希望になるシステム

●商業マスコミが描くマイナスイメージと裏で高笑いするハゲタカたち

欧米や日本の商業マスコミが描く、
〈買い物三味の国民〉〈政府の放漫財政〉〈公務員天国から借金地獄に転落した自堕落なギリシャ〉などのマイナスイメージ

だが、金の流れを追うことで浮かび上がるもう一つの構図の中、巨額の利益を手にする金融機関やグローバル企業、そしてハゲタカ弁護士たちの高笑いが私たちに聞こえるだろうか?
ヘイズ弁護士が見せてくれた、ISDS裁判に強い米国の大手法律事務所のパンフレットには、力強い文字でこんなPRメッセージが書かれていた。

「我々は、債務カットにより損害を受けた投資家の皆さま方に、どこよりも<希望>を与えます」

堤未果「政府はもう嘘をつけない」第3章p186〜187

「EU版TPP」に怒り狂うヨーロッパの市民たち

恐るべき陰謀の「TTIP」

●「EU版TPP」に怒り狂うヨーロッパの市民たち

余り知られていないが、ウォール街の投資家たちが「1%の夢」と表現するTPP条約には、あと2人兄弟がいる。

1人目は、2013年7月から交渉が開始されている、アメリカ-EU間の「戦略的環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)」だ。
TPP同様、参加国間の規制を取り払うものであり、別名「EU版TPP」とも呼ばれているが、TPPが世界のGDPの4割を占めるのに対し、こちらはその比率が6割という巨大規模だ。

そして、TPPが発効後4年間非公開であるのに対し、TTIPのほうはなんと30年間その内容が秘密にされる。
草稿はTPPと同様、多国籍企業群によって作成され、中を見ることができるのはEU特別委員会のみ、EU加盟国28カ国の国会議員はおろか、一般国民もその詳細を一切見ることができない。

アメリカ国内の商業マスコミはTPPの時と同様、口をつぐんでいたためオバマ大統領が2013年2月の一般教書演説で初めて言及するまで、アメリカ国民もこの条約の存在すら知らなかった。

リークが出たのは1年後の2014年6月16日。
スペインの独立メディア「ラマレア」「ディアゴナル」「エルディアリオ」の3社が、フィンランドの内部告発言論連合(AWP)「フィルトララ(filtrala.com)」から入手した、100ページのTTIP公式文書を公開したのだ。
たちまちEU内に衝撃が走る。
元世界銀行職員でオーストリアの経済学者ピーター・ハンス・コニッグ博士は、TTIPはヨーロッパを<多国籍企業群の植民地にする内容>だと激しく批判した。
「2008年の世界金融危機の際、ヨーロッパはIMFや欧州委員会、ECBからの財政緊縮圧力でかなり弱体化してしまった。
このTTIP協定はそれにトドメをさす内容だ。締結すれば、あの時各国がなんとか守った医療や教育、水道、ゴミ処理業務などの基本的社会インフラが今度こそ全て民営化され、アメリカを中心とする多国籍企業群のカモになってしまうだろう」

2014年10月。
EU20ヵ国内約1000カ所で、TTIPをはじめとする多国間の<自由貿易協定>に反対する抗議デモが行われた。

2015年6月22日。
イギリス国内の医師団が、TTIP条約によって薬価が高騰し、病院や医療保険の民営化でイギリスの公的医療保険制度が崩壊するとして、「TTIP条約に反対する」声明文を発表する。

非営利団体「グリーンピース」によって公開された協定内容の中で、特にヨーロッパ市民の逆鱗に触れ、各地で反対運動に火をつけたのは以下の箇所だ。

① インターネットの監視が強化される
②教育や医療、水道などの公共インフラが民営化される
③著作権保護が過度に強化される
④農業の株式会社参入で、巨大な多国籍農業法人がヨーロッパの中小農家を買収し、食の安全保障が危機になる
⑤ヨーロッパで禁止されている「遺伝子組み換え食品」や「成長ホルモン」などが、アメリカと同じように合法化され、成分表示ができなくなる
⑥ヨーロッパで禁止されている「水圧破砕」が合法化される
⑦投資家や企業が、投資先の国内法によって損害を被るか、将来得られるはずの得られなかった場合に国家を訴える権利を得る「ISDS条項」がある
⑧ISDS裁判は既存の裁判所ではなく、裁判官、陪審員、検事も全て企業弁護士が務める大企業法廷で行われる

中でも最も大きな反発を呼んでいるのは7番目の「ISDS条項」で、ちょうどスウェーデンのエネルギー企業バッテンフォール社が、ドイツ政府の「脱原発政策」で損害を受けたとして、60億ドル(約6000億円)の賠償を求めるISDS裁判を起こしていることも、ドイツ国民をはじめEU市民の間で危機感を拡げる原因となった。
その「脱原発ISDS裁判」は、目下ドイツ政府側が負ける可能性が濃厚なのだ。

堤未果「政府はもう嘘をつけない」第3章p205〜208

TPPで「脱原発」は永遠にできなくなる

●TPPで「脱原発」は永遠にできなくなる

フランクフルト在住で、何年も脱原発運動を続けているエミリー・リュセックは、脱原発を目指すならTPP問題は無視できないと語る。
「この2つはセットでなければ意味がありません。原発はエネルギーや環境問題だけの話ではなく、その背景に巨大な利益構造があるからです」

「日本では、TPPには賛成でも原発は止めたいという人がかなりいます」
それを聞いたエミリーは、びっくりしてこう言った。
「メルケル首相がドイツで脱原発政策に転向したきっかけは、あなたたちの国日本で起きた福島第一原発事故ですよ。なのに日本の人たちは、その後ドイツで何が起きたかを知らないのですか?」

メルケル首相の脱原発宣言が出された直後、フランクフルトにある原発製造元、スウェーデンのバッテンフォール社が、ISDS条項を使ってドイツ政府を訴えたのだ。
<ドイツ政府の脱原発政策によってうちの原発が稼動停止させられたら、我々が投資した資金や、そこから得られたはずの利益がパーになってしまうじゃないか>

これこそが、TPPの中で、<ISDS条項>が最強と言われる理由だった。
「日本の原発はアメリカ製ですよね?もしTPPに批准してから日本政府が脱原発政策に転向した場合、アメリカの原発メーカーはバッテンフォール社と同じ理由で日本政府をISDS裁判に訴えるでしょう」

3人の企業弁護士によって判決が下されるISDS裁判。
前作にも詳しく書いたように、この3人は訴えた投資家側から1人、訴えられた国の政府から1人出され、「双方に中立な立場」が条件の3人目が75日以内に見つからなければ、世銀総裁(アメリカ人)が任命する仕組みになっている。
ほとんどのケースで、3人目はアメリカ国籍の世銀総裁が任命するため、裁判はアメリカに有利になると言われ、実際アメリカ政府はISDS裁判で過去一度も負けたことがない

裁判に負けたら最後、政府側は国内ルールを変え、税金で巨額の損害賠償をしなければならないのだ。
投資している企業側は何度でも繰り返し相手国政府を訴えられるが、政府側から訴えることはできず、たとえ裁判で負けなかったとしても、その度に毎回数億円の裁判費用を税金から負担する羽目になる。
「ISDS条項は、投資家を損害から保護するための条項ですから、国家側にメリットは全くありません。ドイツ政府がこの裁判で負けた場合、国の財政が持たなくなるという理由から、脱原発は未来永劫不可能になるでしょう。
日本で脱原発を主張する人々は、TPPとISDS条項と原発、この三者の深い関係を理解しているのでしょうか?」

おそらく答えはノーだろう。TPPだけではない、もう一つ日本の脱原発の最大のハードルである「日米原子力協定」の中身ですら、ほとんど知られていないのだ。
「日本ではTPPの正確な内容自体が、国民に知らされていないのです。政府の出した協定文書の和訳はかなり意訳されてしまっているし、マスコミは未だにTPP条約のことを農業と関税問題に矮小化して報道を続けています。
ほとんどの一般国民は、正直言ってよくわからないというのが現状でしょう。TPPは発効してから4年間はその詳細が非公開ですし・・・・・・」

私の言葉に、エミリーは苦笑いした。
「そのTPPとほぼ同じ内容のTTIPは、もっとひどい条件ですよ。
こっちはEU委員会とアメリカ政府との間で調印されてしまったら最後、EUに加盟する全28カ国で自動的に発効されてしまう。そして全28カ国とアメリカ政府の同意がない限り、契約内容の見直しも脱退もできません。しかもその内容は、4年どころか30年間非公開なのです」

「ドイツ政府と原発メーカーとのISDS裁判は、どうなりそうですか?」

「情勢は、ドイツ政府側にとってかなり厳しいと聞いています。
いずれにせよ、私たちドイツ人と同じものを相手に闘っているだろう日本の脱原発派の人たちに、是非伝えて下さい。この2つの協定について、政府の出す翻訳ではなく、原文のほうでその中身をよく読んでみるようにと。
国際社会でエネルギー問題が見直され、やっと脱原発の流れが生まれだした今、原発関連産業にとって、TPPやTTIPは原発利権を失わないための<救世主>なのです」

堤未果「政府はもう嘘をつけない」第3章p209〜213

TTIP協定に反対するEU議員たち

●TTIP協定に反対するEU議員たち

2016年4月。
イギリス保守系のピーター・リリー議員は自身のブログで他の保守系議員たちに向け、TTIP協定には慎重になるべきだと呼びかけた。

<TTIPの目的は関税廃止などではない。アメリカがヨーロッパからの輸出商品にかけている関税の平均はわずか2.5%で、それを無くしても大したことはないからだ。この条約の真の狙いは、海外投資家のための特別な仕組みを作ることなのだ。国内生産者だけをこっそり保護する優遇政策の廃止自体はやぶさかではないが、我々国会議員たちは、有害な添加物などから英国民を保護する権限を、決して放棄すべきではない>

2016年5月には、グリーンピースがさらに248ページのTTIP協定公式文書を公開し、EU各国はまさに蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。

イギリスのインディペンデント紙は、「多国籍企業群によって作られたTTIP協定の内容は、イギリスにとってEU離脱の議論を始める十分な理由になるだろう」とEU離脱論にまで言及し、同国のジョン・ヒラリーノッティンガム大学国際政治学教授は、TTIPはEU加盟国の主権と民主主義を奪い、多国籍企業群と投資家たちに莫大な利益を与えるひどい条約だ、と批判した。

「世界貿易の1割を占めるアメリカ政府にとって、TPPとTTIPというこの2つの協定は、外交政策の上で最も重要な戦略的目標に他なりません。この2つが発効すれば、ワシントンは世界貿易の7割以上をコントロールすることができるようになる。投資家たちと多国籍企業群は、大いにアメリカ政府を後押ししています」

だが、この2つの条約で世界貿易の7割をコントロールする体制ができても、そこで終わりではない。

1%の夢を完成させるための、もう一つの仕上げが待っている。

堤未果「政府はもう嘘をつけない」第3章p213〜215

<国民主権>や<公共>を失う恐るべき「TISA協定」

50カ国全てから、<国民主権>や<公共>という非効率な概念が、やっと取り払われる
教育や医療や福祉のような公共サービスを全てビジネスにしてしまったら、共同体の基盤は崩壊する
パソナ竹中や維新の「身を切る改革」のなれ果て
お金のない人は公共サービスが受けられなくなる
<超国家機関>の監視技術
TISAでは最新の情報通信技術を使って、全加盟国がそのルールを守っているかどうか<常時監視できる>

●<国民主権>や<公共>を失う恐るべき「TISA協定」

2014年夏。
ジュネーブで何度も行われた秘密交渉の内容を、ようやくウィキリークスが暴露した時には、すでに世界貿易の7割を占める50カ国(日本含む)が交渉に参加していた。
蚊帳の外におかれていたのは、参加国の国民だけではない。WTOに加盟して以来アメリカが警戒心を強めていたBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の国々もまた、TISAについてはその存在自体、正式に知らされていなかった。

ニューヨークの投資銀行に勤めるデイビッド・ハーマンは、このプロジェクトこそ、21世紀の新しい革命だと絶賛する。
「50カ国全てから、<国民主権>や<公共>という非効率な概念が、やっと取り払われるんです。代わりに、必要なサービスは企業が提供してくれる。公共事業に学校、住宅や病院、全てが無駄の無い形で効率よく差し出され、金融の規制も取り払われた、フェアで自由な世界。
いやぁ、人間もついにここまで進化したのかと思うと、本当に感慨深いですね。
調印は2020年の予定ですが、それ以降、世界の巨大企業はあらゆる規制から自由になり、国境を超えて思う存分ビジネスを展開してゆくでしょう」

だが、教育や医療や福祉のような公共サービスを全てビジネスにしてしまったら、共同体の基盤は崩壊するだろう。
無駄がなくなり効率よく回る社会の中で、お金のない人はサービスが受けられなくなる。

「そこまで自由にしてしまったら、たとえば加盟国が、<超国家機関>が決めたルールを守っているかどうかも、チェックできないのでは?

私が聞くと、ハーマンはにっこりしてうなずいた。

「良い質問ですね。実は、そこがTISAの最も優れたルールなんです。TISAでは最新の情報通信技術を使って、全加盟国がそのルールを守っているかどうか<常時監視できる>んですよ

ある意味、TPP以上に私たちの社会を大きく変えてしまう「TISA」。
この交渉を進めていることについて、今まで日本の政府から国会議員や国民に、一度でも説明があっただろうか?

だがここでふと、もう一つの懸念が頭をよぎる。
もし憲法改正が実施され、自民党の憲法改正草案に上書きされた場合、もしかしたら私たちはこうした条約について、二度と政府に説明を求められなくなるかもしれない。自民党の憲法改正草案の、第21条の2には、以下の一文が新しく書き加えられている。
「国は国政上の行為につき、国民に説明する責務を負う」

この草案に沿って憲法改正をすることは、法治国家のルールを超越したビジネス環境を目指す1%層にとってもまた、理想的な形で情報を遮断し反対意見をおさえこむ機能を果たすだろう。
TPPもTISAも国際条約であり、国が国民に説明する責任が生じる「国政上の行為」には該当しないからだ。

堤未果「政府はもう嘘をつけない」第3章p215〜219

伊丹万作「騙されることの責任」

もちろん、「騙す方が100%悪い」のは紛れもない事実である。
その上で更に「騙されることの責任」を考えよう。

伊丹万作「騙されることの責任」

もう一つ別の見方から考えると、いくら騙す者がいても誰1人騙される者がなかったとしたら今度のような戦争は成り立たなかったに違いないのである。
つまり、騙す者だけでは戦争は起らない。騙す者と騙される者とがそろわなければ戦争は起らない一度騙されたら、二度と騙されまいとする真剣な自己反省と努力がなければ人間が進歩するわけはない騙されたとさえいえば、一切の責任から解放され、無条件で正義派になれるように勘違いしている人は、もう一度よく顔を洗い直さなければならぬ。
伊丹万作「戦争責任者の問題」より


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