【衒学#3】ゲノム編集2.0の時代 Vol1 before CRISPR/Cas

ゲノム編集はすごく簡単にできます。CRISPR/Cas Systemは聞き馴染みがあるかもしれませんが、今やその応用的手法が数多く報告されています。
自分自身も勉強の真っただ中ですが、知識をまとめていきたいと思います。

ゲノム編集の基本

ゲノム編集は、生命現象の多くが遺伝子によって制御されるなか、遺伝子を人為的に編集することで生命機能を解析したり、有用なバイオツールを開発したりするうえで中核となる技術です。正確で効率的な遺伝子編集には、ゲノム上の標的領域を特異的に認識し、切断する仕組みが必要とされており、種々の技術が生み出されてきました。
ゲノム編集では、特定の遺伝子を破壊・欠失させ、その機能を失わせるKnock Out (KO) と、特定のゲノム座位に外来遺伝子や改変配列を挿入・置換するKnock In (KI) があります(RNAi等を利用したKnock Downは、ゲノム自体の改変ではなく、転写・翻訳の過程を抑制して遺伝子産物量を減らすことを指します)。

標的配列を切断し、その部位でNHEJ (Non-homologous end joining) またはHDR (Homology directed repair) を起こすというのが基本の仕組みです。

Wikipedia "Non-homologous end joining"より。

ゲノム編集ツールを検討する上では、以下の点が重要になります。

  1. 特異性
    標的配列をどの程度特異的に認識できるか。一般的には、特異性は高ければ高いほど好ましい。特異性が低いと、off-target効果として現れ、意図しない編集が起こってしまう。

  2. 標的選択性
    標的として選択できる配列の自由度。

  3. 編集効率
    編集漏れがないことも重要であり、高い方が好ましい。

  4. コスト・簡便さ
    設計が簡単で、低コスト・短期間で取り扱えた方が好ましい。

この4点を総合的に勘案しながら、どのツールを用いるかを検討するのが普通です。

黎明期のゲノム編集ツール

ZFN・TALEN

旧来は、Protein-DNAの相互作用を利用したものが用いられていました。代表例がZFN (zinc finger nuclease) とTALEN (Transcription activator-like effector nuclease) です。
いずれも、nuclease部位にendonucleaseであるFok1の酵素活性部位が用いられています。この切断ドメインは、DNAの切断のために二量体化する必要があります。

Fok1の構造(RCSB PDBより)。Fok1はFlavobacterium okeanokoitesに自然にみられるTypeIIS制限酵素であり、DNA切断ドメインは非特異的に作用しますが、通常時はDNA結合ドメインに隠されていることで不活性化されています。

ZFNは、DNA塩基配列を認識するタンパク質としてZinc fingerのC末端をFok1由来nucleaseドメインのN末端に付加したものです。Zinc fingerは、3塩基を特異的に認識し、ZFNではZinc fingerをモジュールとして3-6個繋ぐことで9-18塩基の特異的な認識を行います。なお、ZFNの切断ドメインは二量体化する必要があるので、非回文配列を標的配列にするには、当該配列の上流・下流双方でZFNをデザインする必要があります。

Znfの構造の分類。いろいろな種類があるそうです。
Krishna SS, Majumdar I, Grishin NV. Nucleic Acids Research. 31 (2): 532–50.(2003) https://doi.org/10.1093/nar/gkg161
上流と下流それぞれで設計し、挟み撃ちにして標的配列を特異的に切断する。
Urnov, F., Rebar, E., Holmes, M. et al. Nat Rev Genet 11, 636–646 (2010). https://doi.org/10.1038/nrg2842

一方、特異性が高いとはいえ、ZFNのoff-target効果が比較的大きかったこと、タンパク質設計が大変だったこと、Sangamo Therapeutics社の独占的ライセンスの許にありライセンス供与が制限的であったこと等が理由で、膾炙するに至りませんでした。現在は、既に特許期限が切れているのでZFNを自由に扱うことが可能であり、改変ZFNの報告もそこそこ見ます。

TALENは、Xanthomonas属細菌由来のタンパク質であるTAL effectorとFok1のDNA切断ドメインを結合したものです。TAL effectorは、可変性の高い12・13番目のアミノ酸残基(RVD: Repeat Variable Diresidue)と高度に保存された2つのαヘリックスにより構成され、各subtypeが塩基単位で特異的に結合できます。つまり、標的配列に合わせて自由度高くTALE repeatを設計すれば、ZFNよりも簡便に配列特異的な人工nucleaseを作成できます。
こちらは割合簡便かつ標的選択性が非常に高いため、CRISPR Cas System登場後も現役で利用されています。

ゲノム編集産業化ネットワーク https://www.mls.sci.hiroshima-u.ac.jp/smg/GEIN/map/tale/index.html

Cre loxP System

こちらは「黎明期の」というのは不正確で、用途が違うといった方がよいのかもしれませんが、昔からある技術なのでこの章に入れました。

Cre recombinaseは、bacteriophage P1から発見されたTypeI Topoisomeraseで、loxPという配列を認識し、loxPに囲まれた部分を切り出します。loxPは、locus of crosssover P1の意味で、8bpのspacer領域で区切られた2つの13bpのinverted palindromic repeatからなるDNA配列です。
Cre recombinaseがloxPのrepeat配列を認識し、spacer配列によって与えられる方向性に基づいて様々な切り出し反応を起こします。loxPが逆方向に並べば、その間の領域を反転させ、loxPが順方向に並べば、その間の配列を環状に切り出します。主にDeletionの反応を起こすことで、DNAの特定の配列をKOするのに用います。

Vector Builder "Precision Genetics: Navigating the Cre-lox Toolbox"
https://en.vectorbuilder.com/resources/vector-academy/lessons/cre-lox.html

ある遺伝子がKOされた場合の表現型を知りたいとき、全身性のKOでは致死となることがあります。このとき、特定の臓器や部位のみでKOを起こせば、致死となることなく当該遺伝子のKO型の表現型を得ることができます。このようなConditional KOで用いるのがCre-loxP Systemです。
特定の臓器で働く臓器依存性promotor配列の下流にcreを導入し、ある臓器だけでCreが発現するようにします。その上で、標的配列の前後に順方向のloxPを導入することで、Creが発現している臓器でのみ標的配列がKOされた個体を得られます。
他にも、reportor配列と組み合わせることで、conditionalなreportor発現系を作成することも可能です。

平林敬浩, 八木健 脳科学辞典「Cre/loxPシステム」https://bsd.neuroinf.jp/wiki/Cre/loxP%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0

CRISPR/Cas System

このようななか、2012年にJennifer A. Doudna・Emmanuelle CharpentierのグループによりCRISPR/Cas Systemによるゲノム編集が報告されました。大変なブレイクスルーで、僅か8年後の2020年のノーベル化学賞のテーマとなりました。その記念碑的論文はこちら(Science 337(6096) 816-821, 2012, https://doi.org/10.1126/science.1225829)です。

ノーベル財団 (2020) より。

CRISPR/Cas 獲得免疫システムの仕組み ①概要

古細菌・真正細菌が用いる獲得免疫のシステムであるCRISPR/Cas 獲得免疫システムの全容が解明され、これをゲノム編集に応用したものです。CRISPR/Cas 獲得免疫システムを解明した論文として代表的なものは以下の2つでしょう。

そもそもCRISPRはClustered regularly interspaced short palindromic repeats、CasはCRISPR associatesのアクロニムです。細菌の約50%、古細菌の約90%(Nat Rev Microbiol 13 , 722–736 (2015))が、過去の感染記録を生成し、再感染時に迅速かつ強力な反応を引き起こすための獲得免疫システムとして、CRISPR/Cas免疫システムを活用しています。

CRISPR/Cas免疫システムは、以下の3段階でなります。
なお、CRISPRシステムは大きくClass 1(複数タンパク質の複合体で標的DNAを認識・攻撃する系)とClass 2(単一タンパク質で作用する系)に分かれます。さらに7つのタイプに分類され、Class 1にはType I, III, IV, VIIが、Class 2にはType II, V, VIが含まれます。

Makarova, K.S., Shmakov, S.A., Wolf, Y.I. et al.  Nat Microbiol 10, 3346–3361 (2025). https://doi.org/10.1038/s41564-025-02180-8
  1. 免疫記憶の形成過程(Adaptation)
    バクテリアにファージ等の外来DNAの侵入があると、Cas1・Cas2(いずれもintegraseとして働く)が外来DNAの持つ短いモチーフ配列であるPAM配列 (protospacer adjacent motif) を認識して、それに隣接する5'側の一定長のDNA配列(protospacer)を切り出し、ホストのゲノム上に挿入する。新しく免疫されるDNA配列(spacer)は、共通配列に挟まれる形で、過去に免疫されたspacerリピートの先頭に挿入される。

  2. CRISPR RNA (crRNA) の生合成
    再度外来DNAの侵略が起こった時、ゲノムのCRISPR領域からcrRNAが合成され、後段の干渉過程に用いられる。

  3. 干渉(interference)
    crRNAとCasがエフェクター複合体を形成し、外来DNAをcrRNAのspacer配列で認識して切断する過程。

A. V. Wright, J. K. Nuñez, J. A. Doudna, Cell 164 (1-2), 29-44 (2016)
https://doi.org/10.1016/j.cell.2015.12.035

CRISPR/Cas 獲得免疫システムの仕組み ②Type II System

最も著名なのはType II systemです。Type II systemが見られるのは細菌のみで、古細菌には見られません。Cas9がtracrRNA (trans-activating crRNA)と結合し、tracrRNAがcrRNAと結合して、この複合体がPAM配列を有する標的配列を認識し、DSB (double strand break) を起こします。

Cas9は、REC(認識) lobeとNUC(nuclease)lobeの2つのlobeからなります。
REC lobeにはREC1ドメイン・REC2ドメインが含まれます。REC lobeはCas9ファミリーの中で保存性が低く、REC2が欠損していてもCas9は機能できます。REC1は、crRNAのrepeat配列とtracrRNAのanti-repeat配列による二重鎖を認識して結合するため、Cas9の機能に必要です。
NUC lobeは、RuvCドメイン(NTS = Target配列の非相補鎖を切断)・HNHドメイン(TS = Target配列の相補鎖を切断)・PIドメイン(PAM配列を認識)によりなります。RuvCドメインは4つの触媒残基(e.g. T. thermophilus RuvC の Asp7・Glu70・His143・Asp146)を持ち、two-metal-ion mechanismでHolliday junctionを切断します。一方、HNHドメインは3つの触媒残基を持ち(e.g. Endo VIIのAsp40・His41・Asn62)を持ち、single-metal-ion mechanismで核酸基質を切断します。いずれかのnucleaseドメインのアミノ酸残基を置換して失活させると、Cas9は片方の標的DNA鎖のみを切断するCas9 nickase (nCas9) となります。

濡木研の論文。SpCas9の結晶構造を解析しています。
H. Nishimasu, F. A. Ran et al. Cell 156 (5), 935-949 (2014) https://doi.org/10.1016/j.cell.2014.02.001

Type II systemでは、Cas9はcrRNA・tracrRNAとエフェクター複合体を形成します。複合体のspacer配列が、外来DNAのprotospacer部分の逆鎖と相補結合を形成し、PAMに隣接する標的に複合体が結合します。PIドメインで標的のPAM配列を認識すると、HNHドメインがannealされた鎖を切断する位置に移動し、置換された鎖はRuvCドメインに送られて切断されます。PAM要求性は、免疫寛容の一種であると考えられています。

A. V. Wright, J. K. Nuñez, J. A. Doudna, Cell 164 (1-2), 29-44 (2016) https://doi.org/10.1016/j.cell.2015.12.035

因みに、Type IIではcrRNA生合成過程が特殊であり、pre-crRNAのrepeat配列との配列相補性を持つtracrRNAによって促進されます(Nature 471, 602–607 (2011))。crRNA:tracrRNA の塩基対形成は Cas9 によって安定化され、内因性の RNase III が反復部分で pre-crRNA を切断します。

また、Adaptationの過程でも、Type IIでは、Cas9が外来DNAのPAM配列を認識し、Cas1・Cas2をリクルートするなどしていると考えられています(Nature 519, 199–202 (2015))。

CRISPR/Cas 獲得免疫システムの仕組み ③Type I System

Type Iでは、干渉過程でCascade (CRISPR-associated Complex for Antiviral Defense) 複合体がcrRNAとともに標的外来DNAを探索し、Cas3をリクルートして、Cas3のhelicase/nuclease活性によりDNAを逐次分解するのが特徴です。
Cascadeは、crRNAの5'側にCas5、3'側にCas6eが、crRNAに沿って複数のCas7が、さらにその他の関連タンパク質(Cse1、Cse2等)が結合した複合体です。Cse1を含む大サブユニットでPAM配列を認識し、crRNAがanealされ、リクルートされたCas3が連続的に標的DNAを分解していきます。
Type IIIにおいても類似のシステムが見られます。

A. V. Wright, J. K. Nuñez, J. A. Doudna, Cell 164 (1-2), 29-44 (2016)
https://doi.org/10.1016/j.cell.2015.12.035

また、Adaptationの過程も重要です。Type Iのadaptation過程には、naiveとprimedの2つの方式が発見されています。
Naive adaptationでは、初感染時に細胞はまだspacerを持たず、Cas1/2が外来DNAの断片を低効率に取り込み、spacerとして組み込まれる仕組みです。大腸菌では、nuclease/helicaseのRecBCDが関与します。
一方、Primed adaptationでは、Cascadeの含む既存の spacer が部分的に一致する標的DNAを検出したときに、Cas3がCascadeにリクルートされるようになります。不完全な検出においてCas3は一方向性の連続的な切断は起こさないものの、標的DNAを分解することなく、上流/下流の双方向に転座します。Cas1/2がこのCas3に随伴し、爆発的に新規spacerを獲得します(Cell 163 (4), 854-865 (2015))。

A. V. Wright, J. K. Nuñez, J. A. Doudna, Cell 164 (1-2), 29-44 (2016) https://doi.org/10.1016/j.cell.2015.12.035

Cas3は、SF2 helicase活性を持つRecA1・RecA2ドメインと、nuclease活性を持つHDドメインを含み、helicase側から供給されたssDNAをHD活性中心へと送る機構を備えています。

Huo, Y., Nam, K., Ding, F. et al. Nat Struct Mol Biol 21, 771–777 (2014). https://doi.org/10.1038/nsmb.2875

なお、Type I / IIIでは、crRNAの生合成において、Cas6のendoribonuclease活性を利用しています。

CRISPR/Cas System

上記のうち、主にType II CRISPR/Cas免疫システムを応用して、CRISPR/Cas Systemをゲノム編集に応用できるようになりました。Type IIでは、crRNAとtracr RNAの相互作用が重要でしたが、crRNAの3'末端とtracrRNAの5'末端をlinkerで繋いだguide RNA (gRNA) を設計し、Cas9とエフェクター複合体を形成させます。標的遺伝子下流にPAM配列を持つような場合において、標的配列と相補的なspacer領域を持つgRNAを設計すれば、Type IIの機構によって標的配列部位にDSBを生じさせることができます。

M. Jinek, K. Chylinski et al. Science 337(6096) 816-821, 2012, https://doi.org/10.1126/science.1225829

最もよく用いられるのは、S. pyogenes由来のCas9 (SpCas9) であり、そのPAM配列は5'-NGG です。PAM配列の上流3塩基目と4塩基目の間にDSBが生じ、平滑末端になります。

CRISPR/Cas9 Systemの美点は、既存の手法(ZFN・TALEN)に比べて圧倒的に簡便かつ安価なことです。一方、①off-target効果は起こりやすく(低特異性)、②望まないon-target KI が起こる(on-target部位に望んでいない配列まで組み込まれてしまうKI)という点が実用上の課題です。
CRISPR/Cas9 Systemの枠内でoff-target効果を減らす手法としては幾つか検討されています。

  1. eSpCas9
    SpCas9にK810A/K1003A/R1060Aの3変異を入れたもの。
    Science 351(6268), 84-88 (2915)

  2. paired nCas9
    nCas9と近接した異なる位置を標的とするgRNAを2種類用いて、nCas9のペアを作り、標的配列の両側から作用させることで特異性高く突出末端を作成する方法。
    Front. Genome Ed. 6 (2024)

なお、CRISPR Cas Systemについては、特許係争がややこしいことになっています。この件については機会があればまた紹介したいと思います。

多様なCas subtypes(工事中)

  1. Cas1/2
    protospacerの切り出しに関与します。

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