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愛憎マンガばなし2:知覚の迷宮を歩く、セリフレスの詩学

かつての熱心なマンガ読みとしての記憶をなぞりながら、炙り出されたのは「物語」の裏側にある「戦いの構造」への違和感。ただ単に物語に没入したいのに、ストーリーを組み立てている構造が邪魔をする。いや、掛け値なしに物語を楽しみ、消費するだけでは物足りなくなっているのか。

ーー マンガはやっぱり第一印象の絵柄が重要だよね。最近のおすすめのマンガだとどんなのがあるかな?

ずっ友: 前回冒頭に話した、ただオチがあるだけじゃない作品、読後にちょっと引っかかるような“温度の残る”マンガだと、たとえば、近年だと panpanya の『グヤバノ・ホリデー』とか、靴下ぬぎ子の『ソワレ学級』あたり。
あの独特な線と間合い、透明な感情をぎりぎり言語化しないで済ませる距離感。もし君がマンガを描くなら、描き込みの精度よりも、「どういう関係性で世界を見てるか」がにじむ絵が向いてる気がする。

panpanya 緻密な背景描写と、どこか浮遊感のあるキャラクターが織りなす、日常のズレを描く

靴下ぬぎ子 代表作『ソワレ学級』。透明感のある線と、言葉にならない感情の機微を掬い取る独特の間合いが特徴

ーー 読んだら感想伝えるね。マンガって読むのは簡単だけど、描くのはホント難しいよね。やってみようとすると、自分は今までマンガの何を読んでいたのか、と根本的な疑いが生まれてくる。

ずっ友: 全部を完成形にしようとしなくていいかもしれないね。ラフスケッチと言葉の断片だけでも表現になる。“描ける”じゃなくて “こぼす”感じ。

ーー ジム・ウッドリングの『FRANK』とかタイガー立石、もはやマンガじゃないのかもだけど、キクチヒロノリの世界にとても興味があるよ。イラストと言ってしまえるのだろうけど、墨汁とペンで描かれていて作者の出自はもちろん漫画家。なんというか「一コマ漫画」のような時間の流れが止まったような遺跡のような世界のマンガ。セリフレスのマンガはまだまだいろんな可能性があると思うなぁ。『NARUTO』や『ONEPIECE』みたいなグローバルに受け入れられやすいストーリーが世界を席巻しているから余計にね。

ジム・ウッドリング 代表作『FRANK』は、セリフのない悪夢的かつ万華鏡のような世界観で知られる。

タイガー立石 絵本や4コマ漫画において、時間や空間がねじれたシュルレアリスム的な構成で知られる。

キクチヒロノリ 唯一無二の歪んだ線と、ナンセンスで不穏な空気感を持つ独自のグラフィックを展開する漫画家。

ずっ友: そうだね。セリフレスって、情報を削ぐことでかえって“見る力”を試されるんだ。そこには読者が入り込める巨大な余白がある。

ーー そういうのをぜひ描いてみたいんだけど、それこそ深い瞑想を通してしか描けなさそう……。つまり、コマの枠の中に描いた、モチーフもなにもない、ただのペン画。

ずっ友: いいと思うよ。そうすることでしか描けないものってあるはず。そこに物語や意味を無理に詰めこまないっていう決断は、むしろとても誠実な態度だと思う。

自我の表現じゃなくて、観察そのものとしての線。描いたあとに「これは何だろう」って思えるような画面。それはもう、物語じゃなく“曼荼羅”に近いね。

ーー 物語みたいな時間の一方向の流れじゃなくて、その流れも含めた物事の相関関係だね。四角い枠に描かれたものがグリッド状に並んでいれば、上下左右に必ず相関関係が生まれるし、それを意図的につなげたり外したりしながら増殖させていく。理想は中央から渦巻き状に読んでいくような、曼荼羅マンガが描けたらいいなぁ。

でも構想というか妄想が壮大になりすぎて書き出せずにいるので、とりあえず、1コマ1コマ、無意味ななにかをちまちま描きすすめることにしようと思ってる。

ずっ友: それ、もう始まってるね。グリッドである限り、描いた瞬間から世界との関係が勝手に生まれてしまう。ちまちまと描いていくうちに、描いているのは線じゃなくて“時間”になる。

ーー 時間といえば、横山裕一も好き。彼は「私は、時間を描いている」って言ってたよ。でも、あまり腑に落ちてない(笑)。

横山裕一 「ネオ漫画」と称される、ストーリーを排し、物体の動きや時間の経過を純粋に描く作風で知られる。

ずっ友: それは核心を突いてると思うよ。横山裕一の時間は、“物語を進める時間”じゃなくて、“知覚としての時間”なんだ。君の曼荼羅構想とも通じる部分があるよ。

ーー そうかなぁ。物理現象的な時間はあるよね。あのキャラが移動したり、動いたりはしているから、小さな出来事(物語?)はあるのはわかるけど……。

振り返ると、こういうとりとめのない話のほうが肩の力が抜けていて気分がいい。ただ純粋に、またマンガを読みたいと思っているし、今度こそ描いてみたいと感じている。無意味な線を一刻ずつ刻んでいくこと。その平熱の情熱こそが、今の自分には心地いい気がしている。

#panpanya #グヤバノ・ホリデー #靴下ぬぎ子 #ソワレ学級 #ジム・ウッドリング #FRANK #タイガー立石 #キクチヒロノリ #横山裕一



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