【邦画】「人間の條件」六部作

小林正樹監督の、1959(昭和34)年〜1961(昭和36)年順次公開の松竹作品「人間の條件」を鑑賞。隣町のTSUTAYAレンタルにあった。メルカリで買わなくて良かった。

原作は五味川純平の、自らの従軍体験を基にしたベストセラー小説(全6巻)であり、ギネスにも載った全放映時間9時間31分の超大作である。一週間に渡って観た。

「第一部/純愛篇」
「第二部/激怒篇」
「第三部/望郷篇」
「第四部/戦雲篇」
「第五部/死の脱出篇」
「第六部/曠野の彷徨篇」

主演は、仲代達也(現在92歳)で、最初は健康だった顔が徐々に疲れていき、汚れて髭面で頬はこけて、眼だけが異様にギロギロしていく。自衛隊の協力を得て北海道で撮影したというが、多分、諸先輩からも厳しくされて、合宿のようなハードな撮影だったのだろう。

原作者から監督、俳優、スタッフまで、従軍経験があるから、描かれた体験は、映画としての演出はあっても、ほとんどリアルにそのままだったのだろうと思われる。

鉄拳制裁など、力の加減はあると思うが、ホントに殴って蹴っているし。

また、搾取される中国人を演じた日本の俳優は、中国人が喋る日本語のアクセントなど、ホンモノと遜色ないくらいに上手い。

新婚(妻は新珠三千代)の仲代達也演じる梶(カジ)は昭和18年、招集免除の代わりに“満州”(中国東北地区)に派遣されて、日本国経営の鉱山会社で労務管理を行う。

奴隷労働の中国人が働く鉱山の現場から始まり、強権的でリンチを行う憲兵との争い、臨時招集されて鉄拳制裁とイジメの関東軍、古兵とのいさかい、ソ連軍と戦って全滅し敗残兵として放浪、避難民の村、捕まってブチ込まれるソ連の捕虜収容所、シベリアの作業所、日本人として中国人の迫害を受ける…と転々とする中で、梶は、徹底的に悲惨で理不尽な目に遭う。

愛する妻とも早くに別れ別れとなって、脱走して、飢えに苦しみ、厳寒の満州の荒野を独りボロボロになってさまよい(「復活の日」みたい)、妻の名を叫びつつ力尽きる…。

梶は、古兵を従えるような優秀で強い軍人となったが、なぜ理不尽な目に遭うのか。それは反軍主義のヒューマニストであって、最後までそれを貫いたからだ。

従軍しながらも、自分より立場の弱い兵や日本人難民、敵国兵、捕虜によせる人間的愛情の矛盾、正直だったために死ぬことになった「フランダースの犬」のネロか、ベトナム人に親近感を持つ「プラトーン」のようだ。侵略という根本的な矛盾の上に立っていながら、その愛情を正当化させることができるのか。そこで人間である条件とは一体なんぞや?なのだ。

しかし、全く意味のない、何かというと殴る蹴る、イジメだけの関東軍の精神主義とは一体、何だったのだろうか。アジア諸国にいる日本人同胞にでさえ、略奪や暴行を行うなんて。戦後、左翼の連合赤軍のリンチにも、それが見られるから、この狂気は脈々と受け継がれているものなのだろうか。

徹底的に暗くて重いシーンが続く中でも、梶と妻との蜜月はホッとする。梶が、「出征する前に君の身体を目に焼き付けておきたい」と妻を裸にする。

「デタラメな境遇ではデタラメに生きるしかないんだよ」と嘯いた、梶に最も辛く当たった金子信雄演じる上等兵(「仁義なき戦い」でもそういう役だったね)に、梶もついにブチ切れて復讐する場面だけは溜飲を下げた。

第五部にはデコちゃん(高峰秀子)も出演。男を客にする日本人の避難民の女の役で、梶と絡んで、「皆、そうですよ。帰るあてもないし、会える見込みも全然立たないしね」と絶望的にグチる演技が堂に入っている。

死ぬか生きるかの目に遭いながらも、それでも日本人の体面にこだわる兵士ら。
「生きて行くことがどういうものか、やっとわかりかけた。ここが人生の始まりです。これより下はないんですから。ここからは上に行けるんです」と言いつつ病気で死んでいく若い兵士。

労働者が主人公の国と聞いていたら、日本よりも酷い待遇の国だったスターリン支配のソ連。「捕虜の大部分は階級の敵ではないはずだ。カンチガイかもしれないが、感じるんだ、唯我独尊を。…結局、人間ってやつは仕方ないに落ち着くのか。それは歴史が訂正するんだよ。君や俺じゃなくてね」

「人間、檻に入ったら真っ先に何が欲しい?自由?そうじゃないよ。男は女、女は男だよ。人間とはなんなりやだよ。詩じゃないよ、道徳でもないよ、吸収と排泄の卑属な欲望の塊に過ぎんのだ」

「あなた自身が重大な帰路に立っている。誰もあんたを人間として信用しなくなる。あんた自身が自分を信用できなくなる。決定的な瞬間に起こす誤謬は決して許されない犯罪になる。あんたは職業とあんた自身の矛盾に引き裂かれた。人道主義の仮面を被った殺人狂の仲間になるか、人間という美しい名に値するかの分かれ道です。あんたは自分が思ってるほど人間を信じていない。人間には人間の仲間がいつでもどこかにいるものです。人間の隣には必ず人間がいるものです」

アラを探せばキリがないだろうが、単なる反戦映画ではない、梶という悲劇的な英雄を材料に、人間そのものをテーマにした重厚な見応えのある作品であった。全6巻と長いけど書籍も読みたくなった。


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TOMOKI 脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。

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