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解散権に制約を!上院は「権力無き貴族院」に ―― 【逐条解説】正統憲法復原・改正草案 第三章 帝国議会

 正統憲法復原・改正草案第一章の逐条解説です。
 草案全体はこちらをご覧ください。



第55条 【帝国議会の地位】

第55条 帝国議会は国の唯一の立法機関であり統治の大権を輔翼する最高機関である。

実務上は「国権の最高機関」を維持

 『日本国憲法』の「国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である」を『大日本帝国憲法』の復原・改正においても事実上踏襲し、「国の唯一の立法機関であり統治の大権を輔翼する最高機関」としました。本草案では天皇陛下の統治の大権が「内閣の輔弼と同意」で行われることを定めていますが(3条等)、その内閣よりも帝国議会が譲位に来るのは、行政や司法を含む国家統治はあくまでも法律に基づいて行わなければならないからです。
 たまに「最高機関」と「立法機関」の両立が三権分立の観点から矛盾であるという人がいますが、法治国家においては立法機関は即ち最高機関です。しかし戦前は儀礼上すらも帝国議会の議長が前職の内閣総理大臣よりも下に扱われるという、名実ともに「最高機関」の扱いを受けていなかったので、『大日本帝国憲法』を改正する際にはこのことを明記する必要性があります。

第56条 【二院制】

第56条 帝国議会は国華院及び国需院の両院を以て成立する。

筧克彦先生の提言で名称変更

 二院制なのは『大日本帝国憲法』でも『日本国憲法』でも同じですが、戦前の段階で筧克彦先生が貴族院を国華院に、衆議院を国需院に、それぞれ名称変更することを提言されておられたので、それをそのまま採用させていただきました。
 国華院は上院らしくノーブレス・オブリージュを旨とする院たるべきことを名称で明確にしています。国需院はまさに国民の需要を反映することを任務とする下院であり、この名称にした方が国民も政治を自分たちの需要を反映させる場であると理解しやすくなるでしょう。

第57条 【国華院の組織】

第57条 国華院は勅任の有爵貴族議員、普通貴族議員、法曹貴族議員、終身貴族議員、終身雲客議員、普通学識議員、終身学識議員及び国民宗教議員を以て組織される。
2 有爵貴族議員は、爵位を有する貴族より、貴族の家に属する者、雲客の位階を有する者、帝国議会議員、准国需院議員、州会議員、地方自治体の議会の議員、神職並びに国民宗教の教師及び教学者によって選挙される。
3 普通貴族議員は、各州において、貴族の家に属する者、公卿の位階を有する者及び神職より、その州の貴族の家に属する者、雲客の位階を有する者、帝国議会議員、准国需院議員、州会議員、地方自治体の議会の議員、神職及び巫覡並びに国民宗教の教師及び教学者によって選挙される。
4 法曹貴族議員は、最高裁判所又は擁憲院の裁判官であった者及び高等裁判所の長たる裁判官であった者より、貴族の家に属する者、雲客の位階を有する者、帝国議会議員、准国需院議員、州会議員、地方自治体の議会の議員及び法曹の資格を有する者によって選挙される。
5 終身貴族議員は、国華院議長、国需院議長、阿衡、内閣総理大臣、最高裁判所長官、治教院総裁、枢密院議長、国政監察院議長又は観察使であった者及び阿衡が一年に二人まで推薦する公卿の位階を有する者である。
6 終身雲客議員は、公卿の位階を有する者及び阿衡の推薦する雲客の位階を有する者より、国需院が指名する。
7 普通学識議員は、法律に基づいて設置される帝国学士会の会員、治教院が推薦する博士の学位を有する者、阿衡が推薦する博士の学位を有する者及び法律に基づいて設置される日本学術会議が推薦する博士の学位を有する者より、貴族の家に属する者、雲客の位階を有する者、帝国議会議員、准国需院議員、州会議員、地方自治体の議会の議員、博士の学位を有する者、修士の学位を有する者及び法律で定められた要件を満たす学術団体によって選挙される。
8 終身学識議員は、法律に基づいて設置される帝国学士会の会員及び治教院が推薦する博士の学位を有する者より、国華院及び国需院が各々指名する。
9 国民宗教議員は、神社神道以外の国民宗教が各々指名する。
10 有爵貴族議員、普通貴族議員、法曹貴族議員、普通学識議員及び国民宗教議員の任期は六年とし、二年毎に各定員の三分の一が選挙又は指名される。終身貴族議員、終身雲客議員及び終身学識議員の任期は終身とする。

上院は「権力無き貴族院」に

 小沢一郎先生も「日本国憲法改正試案」で「衆議院と参議院がほぼ同等の権限をもっており、共に選挙によって選ばれることになっているので必然的に参議院まで政党化し、本来の二院制度の目指している衆議院との機能分担ができなくなっている」「私は、参議院についてはイギリスのような「権力なき貴族院」をイメージしている」と述べられていますが、それも意識してここでは貴族院改め国華院は、国需院とは明確に選挙母体の異なる院としています。
 具体的には、有爵貴族議員、普通貴族議員、法曹貴族議員及び普通学識議員の殆どの共通の選挙人は、58条において国需院での選挙人から排除されている「貴族」「神職」「巫覡」「国民宗教教師」「国民宗教教学者」と、いわば間接選挙的な選挙人である「帝国議会議員」「准国需院議員(国需院議員選挙の惜敗者)」「州会議員」「地方議会議員」、そして従五位下以上の位階を持っていることを意味する「雲客の位階を有する者」とで、構成されています。優越する下院である国需院においては、世襲上の特権階級や宗教家の影響力はなるべく無い方がよい、しかも彼らの参政権を完全に廃止すると逆差別になるから「権力無き貴族院」の選挙人にしよう、という趣旨です。その上で民選の議員も選挙人に含めるのですから、非民主的というよりも民主制を補完する立場の上院ということが出来ます。
 世襲議員の多さを見ても分かるように、貴族的な存在というのは、必然的に国家には存在してしまうものです。変に建前ぶって貴族制度を廃止すると却って可笑しなことになります。貴族の存在を制度内部に位置付けたうえで権力を剥奪するのが良い方法です。

実質的平等と熟議の担保を目指す構成

 さて、選挙人においては神社の神職や巫覡と国民宗教の教師や教学者はほぼ同じ扱いですが、国民宗教を代表して各教団が指名する国民宗教議員は、神社神道以外の国民宗教だけが指名できることにしています。神職や巫覡も国需院議員の選挙人から排除されたという点では同じですが、同じ国民宗教でも(第11章等)、教団としての神社神道はそれ以外の国民宗教と大きく性質が異なります。神社神道は第一義に皇室という自主団体が信仰する宗旨である、その第二義として筧克彦先生の言葉を借りると皇室の表現人(広義の機関)である国民(140条)が個人として信仰し、この個人として国民宗教の教団という公法人を表現する(27条)わけですが、それはやはり二義的なものです。国華院に相応しい、個人としての良心を体現するのは、神社神道以外の国民宗教です。
 ところで「法曹貴族議員」は選挙人に法曹の資格、つまり、司法試験合格者を、同様に「普通学識議員」は選挙人に博士号や修士号を有する者、学術団体を入れており、宗教家は含めていません。これらは国華院において宗教家とは違った方面から良心を体現してもらう専門的な役割を担っている議員だからです。彼らは国需院にも選挙権はありますが、宗教家と違って政教一致みたいな面倒な議論は起こらない資格ですから、それは問題ありません。

第58条 【国需院の組織、解散の制限】

第58条 国需院議員は、国民を代表する選挙された議員を以て組織される。但し、貴族の家に属する者、神職、巫覡並びに国民宗教の教師及び教学者は、国需院の議員及び選挙人になることは出来ない。
2 国需院議員の任期は、四年とする。但し、国需院解散の場合には、その期間満了前に終了する。
3 准国需院議員は法律で定める要件を満たした国需院議員選挙の落選者とする。
4 国需院の解散は次の場合に行われる。
一 この憲法の規定により解散の必要があるとき。
二 国需院で、内閣への不信任の議決が可決され又は信任の議決が否決された際に、阿衡院が国需院議員を替える必要があると上奏したとき。
三 阿衡又は国華院議員の選挙人を替える必要があると内閣が上奏したとき。
四 内閣の提出した予算案が帝国議会において否決された際に、内閣が国需院議員を替える必要があると上奏したとき。
五 内閣の提出した法律案が帝国議会において否決された際に、内閣が国需院議員を替える必要があると上奏したとき。
六 直近の国需院の総選挙が行われた時以降に、国需院議員の選挙人の意思に重大な変化が生じたと推認するに足る国家統治上の事象が生じた際に、内閣が国需院議員を替える必要があると上奏したとき。
七 国需院が出席議員の三分の二以上の多数で国需院の解散を求める上奏をしたとき。

建前抜きの「世襲批判」「政教分離」を議論せよ

 国華院(57条)の内容で批判されるのはやはり貴族や宗教家を別枠にすることでしょうが、彼らはではどうやって世襲議員を減らすのか、という問題について有効な解決策を到底見いだせない、と私は考えています。日本共産党ですら志位和夫議長の父親は地方議員である、もちろん、自民党や立憲民主党では親や親族が国会議員である人もたくさんいる、そんな中「選挙区が同じでなければ世襲ではない」みたいな言い訳のようなルールも出来ており、菅直人元首相なんかは息子を地方議員にしておきながら「世襲ではない!」と言い張っていますが、そんな形式的な解決では実質的な解決にはならないのです。
 世襲議員のような家庭は貴族に封じて、その上で国需院の参政権を剥奪する、これぐらいの斬新な解決策が求められます。宗教家についても政教分離を言うならば、どうして神道政治連盟や全日本仏教会が自民党議員に仲良く推薦を出していることを放置するのか、という話です。選挙権自体を無くしてしまって、その代わりに国華院の選挙権を与えるというのは、現実的な解決策であると自負しています。

解散は「首相の専権事項」ではない!

 ところで我が国では「衆議院解散は首相の専権事項」という奇妙な言説が広まっております。衆議院解散は『日本国憲法』では第7条の天皇の国事行為ですが、この国事行為は内閣の助言と承認とは書いてあるものの、決して内閣の自由裁量という意味ではないはずです。その証拠に第7条には法律の公布も国事行為とありますが、これが内閣の自由裁量であるならば、トンデモナイことになります。
 ところが、我が国は衆議院解散については、多くの憲法学者の意見も無視して、内閣どころか首相ひとりの専権事項だというのです。理屈を言えば首相には閣僚の罷免権もありますから、内閣の助言と承認を強引に個人の意思ですることも可能ですが、それでは閣議決定はすべて首相の専権事項かと云うと、そんな馬鹿なことは普通はだれも言わない。なのに、永田町では解散だけは首相の専権事項扱いされるという、憲政の趣旨を無視したことが常態化している状況です。
 本草案では解散の場合の制限を明記することにより、より確実に立憲的な運用が行われるようにしています。

第59条 【両議院議員相互兼職の禁止】

第59条 何人も、同時に両議院の議員たることはできない。

『日本国憲法』の規定を一言一句踏襲

 『日本国憲法』第48条の規定を一言一句、そのまま踏襲しています。

第60条 【議員の選挙】

第60条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。
2 選挙人の資格は、人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならない。選挙区は、行政区画を含む国民生活又は歴史的経緯に基づく地理的区分を考慮して、定められなければならない。

「一票の格差」名目の過疎地切り捨てを阻止

 「選挙区は、行政区画を含む国民生活又は歴史的経緯に基づく地理的区分を考慮して、定められなければならない」の一節を入れることにより、いわゆる「一票の格差」を名目にした都市部偏重の区割りを是正することを可能とします。
 これも国民主権を根本規範とする『日本国憲法』の改正では無く『大日本帝国憲法』の復原・改正であるからこそ、できることです。

第61条 【歳費特権】

第61条 両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。

『日本国憲法』の規定を一言一句踏襲

 『日本国憲法』第49条の規定を一言一句、そのまま踏襲しています。

第62条 【法案提出権】

第62条 両議院は、内閣の提出する法律案を議決し及び各々法律案を提出することができる。

正統憲法の表現を復活

 『大日本帝国憲法』の「両議院ハ政府ノ提出スル法律案ヲ議決シ及各々法律案ヲ提出スルコトヲ得」の規定は、『日本国憲法』には明記されていませんでしたが、実務上は変化がなかったものであり、復活させました。

第63条 【法律案の一時不再議】

第63条 両議院の一において否決した法律案は、同会期中において再び提出することはできない。

正統憲法の表現を復活

 『大日本帝国憲法』の「両議院ハ政府ノ提出スル法律案ヲ議決シ及各々法律案ヲ提出スルコトヲ得両議院ノ一ニ於テ否決シタル法律案ハ同会期中ニ於テ再ヒ提出スルコトヲ得ス」の規定は、『日本国憲法』には明記されていませんでしたが、実務上は変化がなかったものであり、復活させました。

第64条 【建議権】

第64条 両議院は、法律又はその他の事件について、各々その意見を政府に建議することができる。但し、政府に採納されなかった意見を同会期中において再び建議することはできない。

正統憲法の表現を復活

 『大日本帝国憲法』の「両議院ハ法律又ハ其ノ他ノ事件ニ付キ各々其ノ意見ヲ政府ニ建議スルコトヲ得但シ其ノ採納ヲ得サルモノハ同会期中ニ於テ再ヒ建議スルコトヲ得ス」の規定は、『日本国憲法』には明記されていませんでしたが、国会決議等による事実上の建議は行われているため、復活させました。


第65条 【帝国議会の召集】

第65条 帝国議会は毎年召集される。

正統憲法の表現を復活

 『大日本帝国憲法』の「帝国議会ハ毎年之ヲ召集ス」の規定は、『日本国憲法』には明記されていませんでしたが、当たり前の話であるため、復活させました。

第66条 【通年国会の原則】

第66条 帝国議会の常会の会期は通年を原則とする。但し、国需院が解散され又は勅令により閉会された場合はその限りではない。

通年国会を原則とせよ

 『大日本帝国憲法』第42条には「帝国議会ハ三箇月ヲ以テ会期トス必要アル場合ニ於テハ勅命ヲ以テ之ヲ延長スルコトアルヘシ」とあり、三か月が原則で例外的に勅令で延期という規定で、『日本国憲法』下でも事実上同様の運用が行われていましたが、これはその運用を真逆にし、むしろ通年が原則で例外的に閉会をすると言う形にしました。
 通年国会は小沢一郎先生の発案で、本来は「本気で法案を成立させたい」与党にとっては、野党の会期戦術を防げるという意味で有利な案です。もちろん野党もフィリバスターという形での反対は確かに出来なくなりますが、議会政治の王道である審議時間を十分に確保した上での反対がしやすくなるという、真面目に政策論議をしたい野党にとってのメリットはあります。
 「通年国会だと国会の経費が今よりも増える」「議員が国会に拘束される時間が増える」等という反対論もありますが、国会閉会中の議員に歳費を払う方が遥かに無駄です。そもそも国会開会中でも議員は「金帰火来」で地元に帰ることが出来ますし、一時間程度しか議事がない日も少なくありません。通年国会はメリットがデメリットを上回っていると考えます。

第67条 【臨時会の召集】

第67条 帝国議会の臨時会の召集は、内閣が決定した場合又はいずれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があった場合から二十日以内に行われる。

臨時会召集の期限を定める

 通年国会を原則にしても閉会が決まることは有り得ますが、本条で内閣が決定した場合だけでなく、「いずれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があった場合から二十日以内」にも臨時国会を召集されるようにしました。「二十日以内」という期限を書くことで、陛下の召集大権を輔弼する内閣がサボタージュすることを防ぎます。

第68条 【両院同時開催の原則、国華院の緊急集会】

第68条 帝国議会の開会、閉会、会期の延長及び停会は、両議院同時に行われる。
2 国需院が解散したときは国華院も閉会される。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、国華院の緊急集会を求めることができる。
3 前項但書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであって、次の帝国議会開会の後十日以内に、国需院の同意がない場合には、その効力を失う。

国華院の緊急集会

 『日本国憲法』の参議院の緊急集会の規定を踏襲したものです。

第69条 【国需院の解散】

第69条 国需院の解散を命じられた時は、法律に基づき国需院の総選挙を行い、その選挙の日から六十日以内に、帝国議会を召集しなければならない。

特別国会開催の期限をやや短縮

 『大日本帝国憲法』には「衆議院解散ヲ命セラレタルトキハ勅令ヲ以テ新ニ議員ヲ選挙セシメ解散ノ日ヨリ五箇月以内ニ之ヲ召集スヘシ」とありましたが、解散の日と選挙の日と起点を変更しているので一概には言えないものの、事実上召集の期限を短縮する効果のある改正をしています。
 国需院解散の時に通年国会は無理ですが、それでも通年国会に近い形にしようという規定になります。

第70条 【議決の定足数】

第70条 両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議決することができない。

定足数未満でも議事は可能に

 議事と議決の定足数については『大日本帝国憲法』でも『日本国憲法』でも同じでしたが、ここでは議決のみの定足数とすることにより、定足数を満たしていなくても議事は行えるようにしました。これによりボイコット戦術の効果は半減することが期待され、通年国会だと実務上は議員の欠席が予想されますが、それへの対策にもなっています。

第71条 【議決の原則】

第71条 両議院の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。

『日本国憲法』の規定を一言一句踏襲

 『日本国憲法』第56条第2項の規定を一言一句、そのまま踏襲しています。


第72条 【議事公開の原則】

第72条 両議院の会議は、公開とする。但し、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。
2 前項の規定は、各議院の一部による会議においても適用される。

本会議だけでなく委員会にも適用されることを明記

 第2項で本会議だけでなく委員会にも適用されることを明記したこと以外は従来通りです。

第73条 【議事録】

第73条 両議院は、各々その会議の記録を保存し、秘密会の記録の中で特に秘密を要すると認められるもの以外は、これを公表し、且つ一般に頒布しなければならない。また、各議員の表決は、これを会議録に記載しなければならない。
2 前項の規定は、各議院の一部による会議においても適用される。

議員の表決が議事録に載る

 第2項で本会議だけでなく委員会にも適用されることを明記し、さらに『日本国憲法』下では「出席議員の五分の一以上の要求があれば」議事録に載っていた表決も例外なく議事録に載るようになりました。これにより、衆議院での採決結果が会派ごとにしかわからない、といった事態を防げます。

第74条 【上奏権】

第74条 両議院は、内閣その他を経由することなく、各々天皇に直接上奏することが出来る。

内閣を通さずに陛下に上奏が重要

 臨時国会の召集の件(67条)もそうですが、現行では内閣が天皇の国事行為の助言と承認を行うからという名目で、国権の最高機関であるはずの国会の意思も実務上は内閣を通して天皇陛下に伝えられています。その結果、安倍政権が憲法本来陛下が召集すべき臨時会の召集をさせないといった、憲法に違反する事態まで現に起きているのです。
 本草案ではそのようなことが起きないよう、帝国議会が直接陛下に上奏できるようにしています。

第75条 【請願の受理】

第75条 両議院は、国民より呈出された請願書を受理することが出来る。

正統憲法の表現を復活

 『大日本帝国憲法』の「両議院ハ臣民ヨリ呈出スル請願書ヲ受クルコトヲ得」の規定は、『日本国憲法』には明記されていませんでしたが、実務上は変化がなかったものであり、復活させました。

第76条 【役員の選任及び議院の自律権、議員除名の制限】

第76条 両議院は、各々その議長その他の役員を選任する。
2 両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、又、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。
3 両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。
4 前二項の規定に拘わらず、議員の議席を失はせるには、出席議員の三分の二以上の多数による議決と枢密院への諮詢を経た天皇の裁可を必要とする。

恣意的な議員除名は避ける

 議員の自律権の原則自体は従来通りですが、議員の除名については、多数派による独裁を避けるために外部の審査を経るようにしました。
 戦前には「反軍演説」とされた演説をした議員に、与党だけでなく社会主義政党を含む野党が猛反発して、除名処分が下されたこともありました。議員は個人でも既に民意を代表する国家の表現人(広義の機関)なのであり、議員除名の手続きは慎重に慎重を期す必要があると考えます。

第77条 【免責特権】

第77条 両議院の議員は、議院で行った演説、討論又は表決について、院外で責任を問われない。
2 議員が自らの言論を院外で公布した場合は、それが公共の福祉又は公共の秩序に適う目的と手段を有している限りにおいて、前項の規定が準用される。院内での演説、討論又は表決を議員が自身の著作物に複製、翻案又は引用した場合も同様とする。

免責特権を大幅に強化

 『大日本帝国憲法』では免責特権に「但シ議員自ラ其ノ言論ヲ演説刊行筆記又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ公布シタルトキハ一般ノ法律ニ依リ処分セラルヘシ」という但し書きがあり、議事録の内容を対外的に公布すると免責特権の対象外となると解釈する余地がゼロではありませんでした。『日本国憲法』下でも自分の国会内での演説動画を基に編集した動画の内容が名誉棄損に当たるとされて民事責任を負わされた議員がいます。
 従って本草案では免責特権を大幅に強化しました。

第78条 【不逮捕特権】

第78条 両議院の議員は、現行の犯罪の場合を除き、議会の会期中においては謀反、謀大逆、謀叛、悪逆、不道、大不敬、不孝又は不義のいずれかを構成する犯罪を起こしたと認めるにたる十分な証拠があり且つその証拠が所属する議院に開示された上でその議院において出席議員の五分の三以上の賛成による許諾が無い限りは、逮捕その他の拘束を受けることは無い。
2 会期前に逮捕その他の拘束をされた議員は、会期が始まると三日以内に釈放されなければならない。但し、会期が始まってから三日以内にその所属する議院の出席議員の五分の三以上の賛成による許諾があった場合は、この限りではない。
3 各議院は、前二項における許諾について、条件又は留保をつける権利を侵されることは無い。

陸山会冤罪事件を踏まえ不逮捕特権を強化

 平成22年1月15日、政治資金収支報告書の日付のズレという形式的なことを理由に1月18日の通常国会開会を目前として石川知裕先生が逮捕されるという事件がありました。当時公判中であった小沢一郎先生の政治資金管理団体「陸山会」を巡る西松建設事件の捜査に関するものでしたが、石川先生自体は西松建設事件に関与しているという証拠が皆無であったため、陸山会の政治資金収支報告書の日付が違うという形式的なことで逮捕したのです。裁判では石川先生自身の確定判決でも執行猶予判決、小沢一郎先生の裁判の確定判決では虚偽記載を故意にしたとは認められない、と「微罪逮捕」であったことが明白となっています。
 国会開会の数日前にこのような「微罪逮捕」が横行すると不逮捕特権は無意味化します。帝国議会開会から三日以内に原則として釈放されるようにするこの改正は、国策捜査防止に大きな意味を持ちます。なお、一般に逮捕されると48時間以内に送検され、送検されてから24時間以内に勾留の令状が取れないと釈放されることから、この「三日以内」という制限は決して過剰ではありません。
 会期中の逮捕についても、単に院の許諾であれば政権与党の意を受けた野党への国策捜査が蔓延する可能性がありえます。実際、過去には昭和電工事件や造船疑獄事件、炭鉱国管疑獄事件等で逮捕が許諾された議員の多くが無罪や不起訴となっています。『日本国憲法』下で逮捕が許諾された議員16人のうち、実刑判決が確定したのは5人だけ、しかもそのうち2人は野党議員でした。逮捕許諾の政治的中立性が問われる状況ですので、5分の3という特別多数による議決がないと逮捕の許諾が出来ず、かつ、容疑も八虐に該当するもののみとしています。

罪名では無く類型としての八虐

 なお、八虐とは律令法の規定で、行為の類型であって罪名ではありません。「謀反、謀大逆、謀叛、悪逆、不道、大不敬、不孝又は不義」と列挙しましたが、これらの名称の犯罪を「刑法」改正で設けるとかという話ではありません。もちろん、これらに該当することは多くの場合は刑法上の犯罪に該当するか該当する行為を含むので、そのような場合にのみ逮捕を認めるということです。八虐の行為に該当するかではなく、八虐の行為に該当し且つその一環として犯罪をしていることが、逮捕の要件となります。
 念のために八虐について解説を加えます。謀反は畏れ多くも天皇陛下を殺そうとすること。これで逮捕許諾請求が出るとすれば殺人未遂罪とか内乱予備罪とかでしょう。謀大逆は皇居や陵墓の破壊の陰謀をすること。これは実行に移れば刑法上の犯罪になるでしょうが、謀大逆に該当するから直ちに逮捕されるというわけではありません。共謀罪じゃあるまいし、という話です。謀叛は内乱乃至外患誘致の陰謀や外国等への亡命をすること。今の日本で亡命自体を犯罪とする法律はありませんが、犯罪捜査から逃れるための国外逃亡とかだと当然逮捕の対象になります。悪逆は尊属への殺人や暴行で、これも殺人罪や傷害罪が想定されます。不道は、特定の家の家族を三人以上殺す(要は一家皆殺しをしようとする)とかバラバラ殺人とか配偶者等の親族を殺そうするとか、という極端に非人道的な行為です。これについては絶対に刑法のどれかに該当しますが、単に形式的に該当するだけでなく内容も非人道的であるから不逮捕特権の適用除外とする、ということです。大不敬はいわゆる不敬罪ですが、単なる不敬ではなく「天皇を害する目的で不敬な言動をする」というような極端な場合が該当するものです。『日本国憲法』下でも不敬罪は名誉棄損罪の特別罪として合憲という判例がありますが、そういう単なる名誉棄損単独では不逮捕特権の例外にはなりません。不孝は尊属へのスラップ訴訟等も含まれますが、何度も言うようにそれをもって刑法上の犯罪とする趣旨ではありません。スラップ訴訟の一環として威力業務妨害等をすると逮捕許諾請求の理由になるという趣旨です。不義は本籍地の首長を殺したりとか官僚が長官や次官、つまり大臣や副大臣、事務次官等を殺したりとかした場合です。これは明確に殺人罪でしょう。
 律令法でも八虐は罪名ではなく貴族の特権の適用除外となる行為について定めたものです。律令法でも裁判自体は通常の罪名で裁かれます。本条もあくまでも議員の不逮捕特権の適用除外を定めただけで、罪名を定めたり新たに量刑を大きくしたりする趣旨ではありません。なお、八虐の詳細についてはある程度は立法府の裁量にゆだねられることとなります。

第79条 【国務大臣の出席】

第79条 内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。
2 前項の場合において、法律に定められた止むを得ない事情のある時は、国務副大臣が国務大臣の権能を代行できる。
3 国務大臣又は国務副大臣が正当な理由なく議院からの出席の求めに応じなかった場合は、議院はその国務大臣又は国務副大臣の解任を上奏することが出来る。天皇は、枢密院に諮詢した際に枢密顧問の三分の二以上が反対し且つその反対理由が当該の国務大臣又は国務副大臣の出席に応じなかった正当な理由を証明したものであった場合を除き、その上奏に応じて解任を行う。この解任は当然、内閣の輔弼又は同意を要件とはしない。

議会に来ない大臣はクビにせよ!

 安倍政権下では公然と憲法を無視し国会に出席しない閣僚が出て来たりましたが、それを防ぐために帝国議会に正当な理由なく出席しない閣僚の罷免を議院が上奏出来るようにしました。これについて内閣の輔弼と同意を要件とすると利益相反ですので、議院には天皇への直接上奏権を行使してもらい(74条)、それを受けて枢密院(第六章)が事実上判断する、という構造にしています。
 もちろん本草案では通年国会(66条)のためこの義務が厳格すぎると外交に支障が出るという批判も出てくるでしょうが、それを見越して副大臣による代行を第2項で認めているわけです。国務大臣も国務副大臣も議会を無視して海外に行きました、みたいな無責任なことをすると、罷免されるのはやむを得ないと考えます。これは本草案だけでなく、通年国会の他の国、例えばイギリスでも閣僚は議会に出席の義務を果たさないといけない、外交よりもこちらの方が大変さだとこぼす閣僚もいると聞いたことがありますが、議会中心主義をとるならばそれぐらいしないといけないと考えます。

第80条 【法律の成立、国需院の優越】

第80条 法律案は、この憲法に特別の定めのある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
2 国需院で可決し、国華院でこれと異なった議決をした法律案は、国需院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。その法律案が国華院で出席議員の三分の二以上の反対で否決された法律案では無い場合は、国需院で出席議員の過半数で再び可決したときは、国華院に送付することが出来る。またその法律案が国華院で出席議員の三分の二以上の反対で否決された法律案である場合は、国需院で出席議員の五分の三以上の多数で再び可決したときは、国華院に送付することが出来る。
3 国華院が国需院の可決した法律案を受け取った後、帝国議会休会中の期間を除いて九十日以内に、議決しないときは、国需院は、国華院が出席議員の三分の二未満の反対でその法律案を否決したものとみなすことができる。
4 前二項の規定に基づき国需院の再可決により送付された法律案が国華院で可決と異なった議決をされた場合において、その法律案は、国需院の出席議員の過半数で再び可決されたときは、法律となる。但し、その法律案が第二項の規定によって送付されてから国華院で出席議員の三分の二以上の反対で否決された場合は、国需院の出席議員の五分の三以上の多数で再び可決したとき又は公民大会の議決による同意が得られたとき、法律となる。
5 前項の場合において、国華院が国需院より第二項に基づいて送付された法律案を受け取った後、帝国議会休会中の期間及び第三項に基づいて国需院が終了したものと満たしたその法律案に関する議事を全うするまでの期間を除いて九十日以内に、議決しないときは、国需院は、国華院が出席議員の三分の二未満の反対でその法律案を否決したものとみなすことができる。但し、国需院は、公民大会の議決による同意が得られる場合は、国華院が国需院より第二項に基づいて送付された法律案を受け取った後、帝国議会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、国華院が出席議員の三分の二未満の反対でその法律案を否決したものとみなすことができる。

国需院の過半数の再可決で法律成立に

 国華院は民選ではありませんから(57条)、貴族や神職・巫覡・国民宗教教師・国民宗教教学者を排除した上での民選院である国需院(58条)に優越を認めるのは、合理的です。本条では通常は二回の過半数の再可決で法律が通るという、イギリスの下院優位法と同じシステムを採用しました。もちろん、貴族や宗教家を排除した上での下院の優越は逆差別だという人たちも出てくるでしょうが、国民主権原理を採用した『日本国憲法』の改正ではなく、国家法人説に立つ『大日本帝国憲法』の改正ですから、世襲議員や宗教団体が議会を左右することの弊害は逆差別よりも大きいという大前提に立っての規定なのです。このことは念のため、強調しておきます。
 第三章の締めとなる本条の解説なのでやや総則的な理念にも触れておくと、逆差別反対というのはハッキリ言って、中二病患者の主張に過ぎません。女性専用車両を男性差別という男とか、そういうアホに政治家が配慮することはないと思いますが、ならばどうして世襲議員について逆差別批判を恐れるのか、という話です。或いは逆差別批判を回避して、同じ選挙区でなければ親が議員でもOKとか、菅直人元首相の息子は地方議員だから世襲ではないとか、志位和夫議長の父親も地方議員だから世襲ではないとか、そういう形で事実上の世襲を容認する人もいますが、じゃあ最初から世襲批判をするなよ、という話です。
 逆差別批判でどうしても思い出すのは、ダリットへの留保枠拡大に抗議して上位カーストの人間が被害者ぶって焼身自殺したかつてのインドです。この制度では貴族や宗教家には国華院での枠があるので(57条)、焼身自殺は招かないでしょうが、仮に優越のある国需院議員に拘る貴族や宗教家がいれば、彼らは危険な存在であると私は考えます。畏れ多くも天皇陛下という世襲の宗教的権威が自ら立憲政体を採用してその権力を制限しているのに、臣民の中から世襲的権威や宗教的権威を振りかざす権力者を生んで良いはずがありません。

国華院の三分の二以上の反対やサボタージュの場合について

 ところで本条文の内容は稍ややこしいものとなっています。複雑な制度を法律文として正確に書こうとすればするほどややこしい文章となってしまいました。私の法作文技術の拙さかもしれませんが、例外事項を設けるとどうしてもややこしくなるのはさけられないので、御寛恕願いたいと考えます。
 まず国需院が可決した法案が国華院で否決された一回目の場合。国需院で三分の二以上の再可決で法律になるのは『日本国憲法』と一緒です。ただ、国華院は民選議員ではありませんから、国需院過半数の再可決でも廃案にならず、国華院に再送付します。もっとも国華院にも法曹や学識と言った専門家の枠がありますし貴族議員の選挙人にも国需院議員や地方議員等が含まれるなど間接選挙の要素もありますから(57条)、そういう専門性の高さが期待される国華院で三分の二以上の反対があった場合は、その専門性に配慮して国需院の五分の三以上の賛成による再可決の場合のみの再送付とします。もっとも我が国では内閣提出の八割以上の法案には最大野党が賛成していますし、全ての野党が反対している法律案は実は殆どありませんから(年に一度あるかないかのその場合は珍しすぎて強行採決として報道されます)、実務上の五分の三以上の賛成による再可決はよほどのことが無い限り容易です。言い換えると全野党が反対するような「よほどのことがある法案」に限って、国華院の三分の二以上の反対で廃案に追い込めます。もっとも、国華院が九十日経っても議決をしない場合、それは専門知による熟議の可能性もありますが、サボタージュの可能性もあるので、その場合は国需院の過半数の賛成で再送付が可能としています。
 再送付された法律案がまたもや国華院で否決された場合、国需院の過半数の賛成で法律は成立します。ただ、またもや国華院が三分の二以上の反対で否決した場合、国需院は五分の三以上の賛成を必要としますが、この二回目の再否決の場合は公民大会(第四章)による決議でも可能です。公民大会は国需院議員、それから国需院議員選挙の惜敗者である准国需院議員(58条)、州会の民選の下院である州需院議員(第13条)等で構成されますから、こちらも民選の機関です。そして国華院がサボタージュした場合はまた同様に国需院の過半数の賛成で法律とできます。これにより国華院によるサボタージュは防げるのですが、問題は熟議とサボタージュの区別がつきにくい場合です。国華院は熟議のつもりだったのに、国需院がサボタージュ扱いして再送付してきた、というような場合、国華院は再送付前の議事が終わるまで再送付からの日数を止めることが出来ます。ただ、国需院が「いや、それはどうみても熟議じゃなくてサボタージュだろ」と思ったら、国需院議員以外の民選議員もいる公民大会で「やっぱり国華院のしていることはサボタージュですよね」という議決を得て、それから過半数で再々可決をして法案成立という構図です。要するに国華院の抵抗も民意の裏付けが皆無だと無意味になる、そういう設計にすることで、国華院の役割はあくまでも国需院が僅差の民意で暴走しそうな場合にのみ専門知で抵抗することになっているわけです。


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Hino Tomoki ここまでお読みくださり、本当にありがとうございます。 拙い記事ではありますが、宜しければサポートをよろしくお願いします。 いただいたサポートは「日本SRGM連盟」「日本アニマルライツ連盟」の運営や「生命尊重の社会実現」のための活動費とさせていただきます。