第6章「チャンスは一度だけ」
アスカは、DNAの結果がでるまで、地球儀のホログラムに手を入れて色々調べた。
この星は、アスカが見たことのない植物や昆虫、おとぎ話に出てくるようなドラゴンやユニコーンの形をした動物など多岐にわたり生息していた。
星の周りには無数のチリが回っていてバリアフィールドと呼ばれる隕石落下防止システムも稼働している。ロケットを飛ばすなら小型でチリに当たらないようなシステムが必要であることは明白だった。

サンド博士が再び戻って来た。アスカは呼ばれて、サンド博士の机の横の椅子に腰掛けた。病院で診察結果を聞くような緊張感がアスカを襲った。
「AI粒子の影響かアスカさんのDNAはこの星のDNAと五十パーセントは一緒だけど、残り五十パーセントは異なることを示しているの。これには、驚いたわ。可能性としてもう一つ、あなたは別の次元からここに来た可能性がある。あなたがこの星の言葉が分かるのは、きっとAI粒子の侵食の影響だわ。侵食は聴覚から始まり、言語中枢に及び、そして記憶から魂へと移り込む。アーノルドがアスカを政府に預けなかったのは、魂まで侵食されていなかったからだわ」と伝えた。
「だから、私は、普通に文字も読めるし会話出来るんだ」とアスカは思った。
よくよく考えると、アーノルドもサンド博士も銀髪で、肌は透き通る白だった。確かに出会った人は皆、同じように白く背も高かった。アスカは気づくとサンド博士の目を覗き込んでいた。
「サンド博士の目、緑色」とアスカは呟いた。
「バリアフィールドにより、太陽からの紫外線や太陽フレアの影響もカットされてるから、メラニンなどの色素は最小限に止まっているのかもしれないね。今の若い人たちは思い思いの髪色にしているけど、黒は珍しいなって思ってたの。目の色は、基本的に緑色だけど、アーノルドのように右目は緑で左が青のようなオッドアイの人達もいるわね」とサンド博士は話した。
「私たちの住むところはみんな黒髪で、肌の色は黄色、私は白い方だけど、ここで出会った人は、みんな真っ白だね。私たちの住むところでもアルビノと呼ばれる人達がいるけど、よく似てるかも」とアスカは伝えた。
「ますます、違う次元から来た感じがするわね」とサンド博士は答える。少し黙って続けた。
「ここに来る前の出来事をもう一度、詳しく思い出して見て欲しい」とサンド博士は、アスカに聞いた。
アスカは、首を傾げながら、ふと、ヤヒコを思い出した。
「そういえば、朝のニュースでペテルギウスがどうとか、三つ並んだ左上の星で波が来るかもって弟が言っていたわ」とアスカはヤヒコの手の動きを思い出していた。
「波? ペテルギウス? 三つ並んだ星はどこにあるの?」と言って、サンド博士は星空をホログラムで全体を映し出した。
アスカはじっくりと目を通し「見つけた」と指を指した。
「この星のことね。もしかして、ペテルギウスという星が超新星爆発を起こして強い重力波を起こしたのかな。それを浴びた時に時空がねじれ、魂及び身体がここに飛ばされた可能性があるわね。理論的には、難しいけど、もしかしたら全ての条件が重なったのかもしれない」とサンド博士はモニターを見ながら調べ始めた。
「アスカさん、この世界でも、もうすぐ隣の星で天体と天体が衝突する時があるの、その時空の揺らぎ(重力波)を使ってあなたを元の世界へ戻すことが出来るかもしれない。そのチャンスは一度だけ、その天体が衝突して重力波がこの星に届く時にあなたが高度七百メートルでパラシュートを開いた、その瞬間だけかもしれない」
サンド博士はモニターで超新星爆発の重力波と、天体の衝突時の重力波を計算し、高度七百メートルの地点とアスカが降り立って来た場所を特定しシミュレーションを何度も行った。
「私、うまく出来るでしょうか」とアスカは不安げに答えた。
「賭けに等しいわね。でもシミュレーション情報と結果をこの腕輪に記録しておいたから、重力波がくるまでの時間と高度七百メートルでアラームが鳴るから、あとはパラシュートを開くだけ、私と話せるように通信機器も内蔵してるすぐれものよ」とサンド博士はアスカの腕にリングをはめた。
「シミュレーションによるともうすぐ出発しないと行けないわ。私の同僚のクラシスに飛行地点までの案内をお願いしたから、準備して着いて行って、あなたなら、きっと、大丈夫」とサンド博士はアスカの肩を触った。
「分かった。私、やってみる。サンド博士、色々、話が出来て良かった。ありがとうございます」と言ってお辞儀した。
ドアからクラシスが入って来てアーノルドの車のキーをアスカに見せて「行きましょう」と言ってアスカを誘導した。
アスカは、アーノルドの車からパラシュートと着ていた服を取り出しクラシスの空中車に乗り入れた。
「向かう場所は都心部から離れた山岳地帯です。一度そこで気候のチェックと私のホログラムでシミュレーションを行います」とクラシスが運転席から振り返りアスカに伝えた。
「分かりました。よろしくお願いします」とアスカは伝えた。
「少し時間がかかりますのでごゆっくり。では参ります」とクラシスが言うと、地下を水平に移動しながらいっきに森へと続く地上に出た。そのまま、空高く舞い上がり雲を通り抜けた。外は真っ暗で闇夜とはこのことだとアスカは思った。
「アスカさん。もうすぐ、都心部の上空を通過します。普段、この高度で通過する際は、防衛システム上許可が必要ですが、現在は、ハルスのシットダウンにより、上空を通過しても問題はありません。しかし、もうすぐ日の出ですので速度を上げますよ」とハルスは話した。
アスカは後部座席の手すりを力強く握った。都心部の建物の高さは、空高く飛ぶ空中車のすぐ下までせまる高さだった。都心部を通り抜けると日の出と共に都心部に日が差し込み、空中車の後ろ窓から都心部全体が見えた。大きな建物が集中して、横断シャトルの地上に連なるように横に広がっている。都心部以外の場所は草原や森で覆われ、まるで人間と自然界の住む場所を完全に分けている、ような作りに思えた。
「もうすぐ到着です」とクラシスが言った時、それは起きた。横断シャトルの都心部から両端にかけ、遥か彼方まで、地下で爆発があったのだろうか、そびえ立つ高層ビル群は一気に崩壊し地下へと沈み込み砂煙が舞い上がった。それは宇宙空間に達するほどの高さだ。それと同時に衝撃波が、アスカの乗る空中車に押し寄せ機体が傾いた。
「しっかりと掴まってください」とクラシスがハンドルを操縦しながらアスカに叫んだ。
機体がようやく安定し目的地の山地に到着した。一度、都心部が見渡せる場所に空中車を止めた。
クラシスはニュースをつけるがどこの局も休止状態。アスカはすかさず、左手のリングを見て、
「クラシスさん、これ」と左手をクラシスの顔に近づけた。
「サンド博士聞こえますか? 地下の横断シャトルで爆発があったもよう、街ごと地下へ飲み込まれて、砂煙が宇宙に達する高さで上昇しています」と冷静に伝えるクラシスの手は震えていた。
「クラシス聞こえる? 無事そうね。爆心地は、横断シャトル地下シェルター、マスゴットの核エネルギーによるもの、震度計で異常な数値が出てるわ。あなた達が研究所を出発した後、アーノルドに連絡したの」とサンド博士は、アスカを見送った後のことを思い出していた。
サンド博士は、アスカ達を見送った後、アーノルドに連絡しアスカは山岳地帯に向かったことを伝えた。そして、もう一つアスカについて重要な話を伝えようとした。
