こえは、キミの半歩先|#モノカキングダム2024応募作品
短く息を吐く。思わず、音声を止めた。
ダメだ、聞いていられない。わたしが怒られているわけじゃないのに、あの会議にいたときの感情がそのまま入ってくる。
議事録なんて、もうAIにやらせてほしい。AIでさえも、最近は言葉に温度感を感じてしまう。発音の強弱・高低・抑揚。
正に「聲」を持っている。
声は感情だ。
古語では「色は匂えど」。つまり、匂い立つ感覚を嗅覚や視覚と融合させていた。「聲」は音や響き、転じて噂や誉れという意味もあるそう。音は身に沁むものって習ったっけ。
あぁ、なんと心地よい世界だろう。五感が明確に分かれていない。全体の雰囲気や空間を、もっと繊細に捉えている。
語彙が乏しくてもいい。その感じ方を繊細に、丁寧に受け取れるようになりたい。「ヤバい」しか言葉がなくても、そこに「〇〇なときのヤバい」がたくさんあればそれでいい、とわたしは思う。
そして、音楽は情景を持つ。
それはつまり、色や景色が「視える」ということ。わたしが文章を読むのが好きで、書くのが好きなのもそう。心のなかでそれは朗読されているし、視えるし、ちょっとあったかい。
色と温もりを帯びた言葉。
声はもっと雄弁だ。
目を閉じて聴覚に集中すると、もっと色々な情報がわかる。きっとキミといつも長話ばかりしていたせいかもしれない。話していたのは、ほとんどわたし?いや、そんなことは…ないこともない、かも。
衣擦れの音がする。寝っ転がりながら体勢を変えたのかな。
少し遠くで聞こえた物音。水回りの音。
最初は気づかなかったファンの駆動音。
言いたい言葉、飲み込んだ言葉。沈黙。
それらはすべて、わたしのビジョンにどんどん色彩が増えていく。
でも、それを研ぎ澄まし過ぎたのがいけなかったのだと思う。いや、あるいは、仮に気づいたとしても、確かめてはいけなかった。
『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を見終わった後、キミはやるせなさに憤っていた。その感情はよくわかるけど、正直、わたしも少し何かが違ったら、きっとあの世界観にいたのだと思う。
でも、今回、抑えられない震えた声を発していたのは、わたしのほうだった。
キミの声がスキ。わたしは、わたしの声も好き。でも、キミに言わせれば、それはわたしが「鏡を見ることが嫌いだから」だと言う。
花火大会の日、音は遅れて聞こえた。近くの落雷は心臓の音よりも大きい。
心の距離が近かったら、キミのこえは半歩先を行くのかな。
でも、キミの声はもう聞こえないくらい遠いし、聲はどんどん先を行ってしまっている。そこを越えようという意思は、もう肥えてしまったわたしの目には、魅力的に映らないんだ。
でも、キミのうたは今も聞いているから。
<了> (1087文字)
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