あの日の僕は「せつなさ炸裂」しっぱなしだった
「何時に始まるんだっけ??間に合う!?」
今日も江戸川沿いを立ちこぎで全力疾走している。まだ携帯電話もない時代、友人がどこからか仕入れた情報とともに、僕が向かうのは千葉県松戸市の有名なゲームセンターだった。
始めてその世界にハマったゲーム。セガサターン用の恋愛シミュレーションゲームソフト『センチメンタルグラフィティ』。その声優さんたちのイベントが行われるという情報を頼りに、僕たちは大興奮で自転車を走らせていた。
「ひねくれ者」たちの異常な熱気

「セガサターン」というゲームハードがあったことをご存じだろうか。初代プレイステーションと同時期に発売され、発売当初こそスーパーファミコンの後、覇権を握るのはどちらかだと目されていたハードだ。
爆発的な人気を誇った「バーチャファイター」や「バーチャコップ」など、ゲームセンターでの人気タイトルの移植が早いことに定評がある。格闘ゲーム好きはもちろん、PCゲームから委嘱された18歳以上”推奨”だけでなく、18歳未満購入禁止の「X指定」のゲームもある。
中学生男子にとって、ロマンが詰まったハードであったが、今でも人気タイトルである「ファイナルファンタジーⅦ」がプレイステーションで発売されたことで、この2大ハード戦争の戦局は決定づけられた。
それでも僕が選んだのは、セガサターンでだった。王道ではないからこそのこだわりや熱気。アングラな雰囲気の世界に惹かれ、隔週で出るセガサターンのみのゲーム雑誌を読み漁る。
ちなみに言うと、当時はエヴァンゲリオンのTVシリーズがリアルタイムで流れていたときで、ガンダムシリーズはW(ウイング)。豪華声優陣や声優さん自体に大きくスポットライトが当たった初期の時代だった。
元々、アニメやゲームのほうが好きな中学生男子にとって、この世界にどっぷり惹きこまれることは自然なことだったのだろう。
しかし、「恋愛シミュレーション」はかなり敬遠していた。いや、さすがにそれはゲームで代替してはダメだろうと。今考えると、「経験値ゼロなんだから、せめてゲームでもいいからもうちょい勉強しろ」と思うが、とにかく、実力もないくせに変なこだわりばかり主張していた。
王道から外れたものの宿命<ワゴンセール>
それがいいものであれば、一番人気のものを避ける傾向があるのは、経済的にもメリットがある。セガサターンのソフトは、往々にしてワゴンセールで破格で売られていた。
そこで出会ったのが、先ほど挙げた「センチメンタルグラフィティ」だった。ワゴンセールで500円。
「どんな内容だったとしても、まぁ損はしないだろう。何か雑誌でもやたら盛り上がってたみたいな形跡もあるし。」そんな軽い気持ちで手にしたゲームから沼にハマっていった。
発売前に最高潮を迎えた、伝説のゲーム

ここで、どんなゲームだったのか、改めて語らせてほしい。
全国の12都市にヒロインがいる。学生時代に、転校を繰り返している主人公は、それぞれのヒロインと思い出がある。
そんなとき、ふと差出人の名前がない手紙が届く。
そして、主人公は今、再び各都市を訪ねて…。というストーリー。
これ、個人的にメチャメチャ刺さる。僕は、小学2年生が終わるタイミングで引っ越しをした。クラスで一番かわいいコと自他ともに認める両想いだったが、最後のお別れ会の日、そのコは都合が合わずに最後に言葉を交わすこともできなかった。
創作ではなく本当の話で、多分ここが僕の人生最初の盛り上がりだったのだと思う。ただ、ここから「ちゃんと告白できない」トラウマをずっと引きづることになるのだが、それはまた別な機会に。
このソフト、発売前に特典的なゲームを先行販売し、キャラデザが見事に時代にフィットした結果、爆発的な人気を誇っていた。
全国12都市のヒロインは、半分が声優初挑戦のオーディションで選ばれた方。
積極的にイベントにも顔を出されていて、「手の届く感」や「一緒に作っていく感」をウリにしたコンセプト。1990年代半ばとしては、非常に時代を先取りしたものだった。
ちなみに、ここでデビューした声優さんのなかには、「らき☆すた」の小神あきら役や、「日常」のハカセ役でもおなじみ今野 宏美さんの姿もある。そう、「SGガールズ」を知る世代が「へへん、オレはこの頃から知ってるんだぞ」とマウントを取れる数少ない瞬間なのだ。
▽今野さんの所属する青二プロダクションのプロフィールページ
あの光景は、永遠に刻まれた
中学生の僕が、どうやってチケット代を払ったのかまったく記憶にない。恐らく、親に泣きついたのだろう。それくらい当日の衝撃が凄すぎて、僕はあの光景しか思い出せない。
初めて来た中野サンプラザ。
入口の列には、僕が大好きな横浜を拠点とするヒロインの制服を着たファンの男性が目に入る。「なるほど。本当に好きだと一体化するのか」と謎の納得をしながら、僕が思う”女装”とは違う形にカルチャーショックを受けていた。
初めて行ったコンサート。声優さんたちが自分のキャラソンを歌う。その方式自体はありきたりかもしれないが、中学生のときにこの世界に触れられたことは本当によかったと思う。
「暗黒時代」と思っていたが、実は違ったのかもしれない
中学から高校にかけて、恋愛的に「暗黒時代」だと思っていた。確かに、そうした側面もあるかもしれないが、違った見方もあるのかもしれないとこのnoteを書きながら思い出していた。
いわゆるヲタク仲間の友人が、ネットもまだ十分に普及していない時代に僕を連れ回してくれた。あの時期に触れたからこそ今も輝いて見えるのは、思い出の美化のせいもあるのかもしれないが、それだけでもないと思う。
自分の生徒手帳にヒロインのカードを入れて、ちょくちょく眺めていた日々。横浜に行ったら、本当にふとヒロインに会えるのかもしれないと本気で思った。*実写背景にヒロインの画像という独特のスタイルもまた惹きこまれる要因の一つだった。
高校のときのメンタルブレイク
ちなみに、ここまで熱を入れた本作は、セガサターンの次世代機となるドリームキャストで続編となる「2」が発売されている。
舞台は「1」の2年後。前作の主人公は亡くなり、光を失ったヒロインたちに出会い、写真部の彼は写真を通して彼女たちの目に輝きを取り戻していく…。
って、おい!!そりゃないだろ!
これは本当にショックだった。ちなみに、「センチメンタルグラフィティ」はPCゲームからの移植とかではないし、全年齢対象ゲームのため、非常にピュアなエンディングで終わる。PCゲー移植作品ばかりやっていた僕としては、逆にそれが新鮮だった。
それがこの仕打ちだ。自分が死んだらどうなる、そして、ヒロインの幸せを願うものとしてどうすればいいのか。「セルフNTR」という今でもあまり類を見ない新ジャンルに飲み込まれ、僕は3日間、高校生活が手につかなかった。
ただ、そこから受験を迎え、完全に精神的にやられていた僕を救ってくれたのは、ヒロインたちのキャラソンだった。

あの熱気にあてられたのは、僕だけではなかった
たまたまブックオフで攻略本を見つけたとき、完全品に近いそれを確認した僕は、気がついたら買って帰っていた。それがトップ画像の攻略本である。
これほどまでに熱を帯びた本作品だが、どうやら僕だけではなかったようだ。
2018年10月15日、YouTubeチャンネル「シシララTV」にて、「【シリーズ20周年記念特番】『センチメンタルグラフティ1&2』をつくった人&演じた人と実況」という番組が配信された。
もう、当時の画面と声優さんが声をあててくれただけで、もう泣きそうだった。いや、泣いていた。
全国のヒロインに行くためにバイトでお金を貯める。夜行バスだと安いが時間がかかる。複数のヒロインを同時に進めていかないと、ヒロイン攻略は進まない。リアルの生活とリンクした部分もたくさんあり、多くのことを学んだ(多分、後半は違う)。
当時のことが一気にフラッシュバックされるような動画だった。本当に一ファンとして、この企画を実現したくれたことに心から感謝の意を伝えたい。
あれから、たくさんハマったゲームやアニメはたくさんある。ラブライブシリーズの熱狂はそれに近い雰囲気を強く感じた(規模感は圧倒的に向こうのほうが大きいが)。
でも、やはり、自分にとって、一番いい時代にいいハマり方をした作品は「センチメンタルグラフィティ」であり、「星野明日香」という名前と、キャラクターの性格はずっと好きな女性のタイプのモデルケースになっていたと思う。
自分を救ってくれたとか、オタク文化も大事とかそういうことが言いたいのではなく、ただただ、あの時代にこの作品に出会えて、そして、本気でハマることができてよかった。
翻って、子どもたちにもそんな想いをしてほしく、色々な体験をさせてあげたいと思っている。
いいなと思ったら応援しよう!
自主企画コンテスト「灯火杯」の賞金や美術館、書籍や有料購入など、note活動のために使わせていただきます!