帰り花【霜月掌編】
グツ、ググッ…。
くぐもった音と共に、ブーツの底に感覚を集中させる。
季節を告げる趣き深いもののはずなのに、圧壊させることに躊躇いはない。
「朝散歩はいいぞ」
メンタルを壊してからしっかりと復活していった父が、ずっと言っていた言葉。
資金繰りの苦境を抜けて、当時幼稚園児の私に泣きついた父を今も覚えている。
幼稚園バスの送り迎えは、この大きな公園だった。
カーディガンではなくコートを着てくればよかったと後悔するような肌寒さだが、澄んだ空気とまだ誰にも踏まれていない初霜が心地よかった。
ーー見て見て、お姉ちゃん!桜が咲いてるよ!
当時小学生だったわたしたち。3つ下の妹が興奮気味に教えてくれた。
11月なのに桜が咲いている。
良く咲く「咲良」。それが私の名前。
発音としては桜のそれではなく、佐倉市のほうに近い。
それでも、日本人の魂である花と読みが同じであること。
そして、花や木が大好きな母が、私が生まれる前から決めてくれた思い入れのある名前だ。
私と同じ3月生まれの母の名前には、「春」が入っている。
小春日和というのが、実は秋の季語だと知ったのは大人になってからだ。
これも最近知ったことだが、11月の季語「帰り花」は、小春日和のように暖かい日に「春が来た」と勘違いした花が咲くことを言うそうだ。
私は、父にたくさん愛された記憶がない。
ただ、それでも「感性が自分と一番近いのは咲良だ」と言ってくれた。
非常に遺憾だが、と付け加えられた気もするし、常に怒られていた記憶しかない。
父は、40歳を過ぎて急に美術館に行くようになったり、「自分軸」に目覚めた行動を重視するようになり、数年後そのまま作家になった。
今日は、短歌の受賞と出版が決まった報告をしに行く。
事前に連絡したときには「自分がやりたい道を選んでくれたんだな」と父は喜んでいるようだが、実際に会ったら何と言われるかわからない。
作者として出てくる写真や動画を見る限り、あまり変わってなさそうだ。父は何と言うだろう。
「帰り花」と言うか、「狂い咲き」と言うのか、それとも。
花邑 咲良
(851文字)
今回は、凛花さんの「月刊tote11月号 別冊 霜月掌編集」に寄せた小説でした!
11月号では、いつものエッセイの他に掌編小説も募集されているとのことで、凛花さんの気合いが伝わってきます!
せっかく小説で募集されているので、いくつかの思い出をつなぎ合わせて、小説ならではお話にしました!
もちろん、わたしも毎月エッセイを寄せさせていただいているので、エッセイのほうも参加します!
凛花さん、いつもありがとうございます!!
プロフィール
・花邑 灯火(はなむら ともしび)
適応障害から復職したベンチャー会社員&パラレルワーカー。アートや捉え方の視点などを発信中。

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