40ヤードで崩れた日、余裕は技術だと知った
『余裕は、最高の技術になる』
この言葉は、うまく打てた日にだけ似合うものではありません。
むしろ、焦って崩れそうになった日にこそ、そっと思い出したい言葉です。
チャンスホールほど、心が急ぎ出す
ゴールデンウィークのコースは、いつもより少しだけ賑やかです。
カートの音、仲間の笑い声、遠くから聞こえる乾いた打球音。
朝の空気は少し湿っていて、フェアウェイの芝には朝露が光っている。
本当なら、それだけで十分気持ちのいい朝です。
でも、そんな日に限って、心だけが少し前に走ってしまうことがあります。
ロングホールでいい位置まで運べた。
グリーンまで残り40ヤード。
ウェッジで軽く振って、乗せるだけ。
そう思った瞬間、もう体のどこかが急ぎ始めていました。
「ここは寄せたい」
「バーディーが取れるかもしれない」
「もったいないミスはしたくない」
そんな言葉が頭の中で増えていく。
そして打ったアプローチは、まさかのシャンク。
ボールは大きく右へ飛び、バンカーへ。
バンカーからでも、落ち着いて打てばグリーンには乗せられたはずなのに、取り戻そうとしてまた急ぐ。
今度はトップしてグリーンオーバー。
そこから何とか寄せて、結果はダブルボギー。
「何をやっているんだか」
そうつぶやきたくなるような、あの感じ。
ゴルフをしていれば、誰でも一度は経験があるのではないでしょうか。
焦るとちゃんと崩れます
インストラクターとして15年、毎日クラブを握っている私でも、焦って崩れることがあります。
ミスが出たあと、いつもの手順で打てばいい。
頭ではわかっています。
でも、心の中では「取り返したい」が先に立つ。
そうなると、呼吸が浅くなります。
足元の感覚が薄くなります。
グリップを握る手にも、知らないうちに力が入ります。
同じ体。
同じクラブ。
同じスイングのはずなのに、余裕を持って打つ日と、焦って打つ日では、ボールの行方がまるで違う。
そのことに気づいたとき、私は思いました。
余裕は、おまけではない。
余裕そのものが、ひとつの技術なのかもしれない。
初心者さんが苦しむ「心の重さ」
レッスンを始めたばかりの方から、よくこんな言葉を聞きます。
「練習場ではそこそこ当たるのに、コースに出ると全然ダメなんです」
フォームが大きく変わったわけではありません。
クラブが急に合わなくなったわけでもありません。
でも、コースに出ると何かが変わる。
前の組が気になる。
後ろの視線が気になる。
池やバンカーが急に大きく見える。
練習場ではなかったものが、コースにはたくさんあります。
あるとき、コースデビュー2回目の生徒さんと一緒にラウンドしたことがありました。
練習場では、7番アイアンがしっかり芯に当たっていた方です。
ところがティーグラウンドに立った瞬間、顔つきが少し変わりました。
肩が上がり、グリップを白くなるほど握りしめている。
「焦らなくていいですよ」
そう声をかけると、その方は困ったように笑って言いました。
「わかってるんですけど……」
この「わかってるんですけど」が、ゴルフでは本当に多いんです。
頭ではわかっている。
でも、体が言うことを聞かない。
それが焦りというものなのだと思います。
余裕は、才能じゃない
今日の言葉を、もう一度受け取ってみます。
『余裕は、最高の技術になる』
余裕と聞くと、うまい人だけが持っているもののように感じるかもしれません。
でも、私は少し違うと思っています。
余裕があるから、いいショットが出るのではなく、
余裕を作ろうとするから、今持っている感覚が出やすくなる。
技術が足りないから焦ることもあります。
でも、技術があっても焦れば崩れることがあります。
つまり、コースで必要なのは、完璧なスイングだけではありません。
打つ前に、自分の心を少し戻すこと。
今できることに目を向けること。
それも立派なゴルフの技術です。
生徒さんが変わった小さなきっかけ
その日、先ほどの生徒さんに、こんな話をしました。
「打つ前に、どうしたいかをひとつだけ決めてみましょう」
すると、その方は少し不安そうに聞きました。
「できないかもしれないことでも大丈夫ですか?」
私はこう答えました。
「大丈夫です。こうなればいいな、くらいでいいですよ」
たとえば、真っすぐ遠くに飛ばす。
それが大きすぎる目標なら、まずは前に進めばOK。
池を越えてピンそばにつける。
それが怖ければ、池を避けて安全な場所に運べばOK。
バンカーから寄せる。
それが重たく感じるなら、まず出ればOK。
そうやって目標を少し小さくした瞬間、その方の肩の力がふっと抜けました。
もちろん、すぐに全部うまくいくわけではありません。
でも、失敗ばかりを想像していた表情が少しやわらぎました。
ラウンドが終わるころ、その方は笑って言いました。
「私、うまくいかないことばっかり考えてました」
技術が急に変わったわけではありません。
ただ、打つ前の一秒に、できるかもしれない目標を持っただけです。
その一秒が、心の余白を作ってくれたのだと思います。
今日から試してほしいこと
コースでも練習場でも、焦りを感じたら、目標を一段だけ小さくしてみてください。
40ヤードのアプローチなら、ベタピンではなく、まずグリーンに乗ればOK。
バンカーなら、寄せるではなく、まず出ればOK。
ティーショットなら、真っすぐ遠くへではなく、次が打てる場所にあればOK。
目標を小さくすると、逃げているように感じる人もいるかもしれません。
でも、私はそうは思いません。
今できることに戻るのは、弱さではなく工夫です。
ゴルフを続けるための、やさしい知恵です。
「これならできるかもしれない」
そう思えた瞬間、呼吸が少し戻ります。
呼吸が戻ると、体も少しだけ動きやすくなります。
その小さな余裕が、次の一打を助けてくれることがあります。
夕暮れのフェアウェイで思うこと
ラウンドの後半、西の空がオレンジ色に染まり始めるころ、コースの空気が少し変わります。
鳥の声が遠くなり、風がやわらかくなる。
疲れているはずなのに、なぜか朝より静かに打てることがあります。
それはきっと、スコアを追いかける気持ちが少し薄れて、ただゴルフを楽しんでいるからなのかもしれません。
余裕というのは、時間がたっぷりあることではないと思います。
「今、この一打を楽しもう」
そう思える心の向き方なのだと思います。
焦った一打も、悔しかったミスも、ゴルフの中にちゃんと残っていく。
そしてまた、次の一打で少しだけやさしくなれる。
そんなふうにクラブを握れたら、スコアがどうであれ、その日はきっと悪くない一日です。
また明日も、クラブを握りたくなる。
そんな一打を、今日も積み重ねていきたいですね。
あなたが一番「余裕を失う」のは、どんな場面ですか?

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