大事な一打ほど、顔をやわらかく
『勝負所ほど表情を変えない』
大事な一打の前ほど、顔に力が入ります。
でも、その表情が少しゆるむだけで、体の動きまで変わることがあります。
18番グリーン、最後のパットの前に
夕暮れの光が、芝の上を橙色に染めていた。
風はほとんどなく、遠くでスプリンクラーが回り始める音だけが静かに聞こえる。
グリーンの表面は少し湿っていて、パターのヘッドをそっと置くと、ひんやりとした感触が手のひらに伝わってくる。
大事なパットの前。
そういう瞬間に、自分の顔が変わっていることに気づいたことはありますか。
眉間に力が入り、唇が少し固くなる。
目線は細くなって、頭の中では「外したらどうしよう」「今日ここまで我慢してきたのに」という声が、小さく響きはじめる。
表情が固まると、体まで固まる
ゴルフをある程度続けていると、「大事な場面」というものが出てきます。
コンペの最終ホール。
同伴者が見ている池越えのショット。
「今日こそ100を切れる」と思った18番のティーショット。
そういう場面で、人は顔が変わります。
私も何度も経験してきました。
硬い表情で構えたときほど、体の動きも硬くなる。グリップを握る力が知らないうちに強くなり、テイクバックが小さくなって、インパクトで手首が止まる。
表情と体は、思っている以上につながっています。
顔が緊張すれば、体も緊張する。
体が緊張すれば、いつものスイングが出にくくなる。
私も、何度も経験が有ります
私自身、生徒さんの前でデモンストレーションをするときは、不思議と簡単にアプローチできることがあります。
「こう打てば寄りますよ」と、力まずに打つ。
すると、わりと素直にボールはピンの近くへ転がっていく。
ところが、自分のラウンドで「ここを寄せればスコアが縮まる」という場面になると、急に顔がこわばる。
青ざめた顔で構えて、まるでその表情どおりの結果になるように、ボールは中途半端なところへ落ちる。
「デモンストレーションみたいに打てばいいだけなのに」
そう思ったことが、何度もあります。
「よし、寄せてやる」
「こうなればいいのに」
そういう気持ちが強くなるほど、顔はいつもの自分から離れていく。
うまくいく顔でいられたら、結果も少し変わる。
私は本気でそう思っています。
でも、それが本当に難しいんですよね。
Mさんの18番、あの笑顔のこと
先月、一緒にラウンドした生徒さんのMさんのことを思い出します。
40代女性で、ゴルフ歴は3年ほど。
その日のMさんは絶好調でした。
17番を終えた時点で、ベストスコア更新が見えているペース。
そして18番ティーグラウンドに立ったとき、明らかに顔が変わりました。
唇をきゅっと結び、少し前傾も強くなる。
クラブを握る手にも、いつもより力が入っているように見えました。
私は声をかけました。
「Mさん、少し仕切り直しましょう」
Mさんは小さく笑って、
「あ、固いですよね」
と言いました。
そこで私は、こう伝えました。
「いつも練習場で打つときの顔で打ってみてください。いつもの顔で」
Mさんはゆっくり深呼吸をして、フェアウェイを見ました。
少しだけ口元がゆるんで、笑顔に近い表情でアドレスに入りました。
次の瞬間、ドライバーが真芯で当たった音が、夕方のコースに気持ちよく響きました。
「なんか……いつもより力が抜けた感じで打てました」
Mさんは、少し驚いたようにそう言いました。
『勝負所ほど表情を変えない』
この言葉が伝えたいのは、感情を隠すことではありません。
緊張してもいい。
プレッシャーを感じてもいい。
それはゴルフを真剣に楽しんでいる証拠です。
ただ、その緊張を顔に乗せすぎないこと。
「いつもの顔」でいることは、自分への小さな合図になります。
落ち着いた顔でアドレスに入ると、体も「これはいつもと同じ一打だ」と受け取りやすくなる。
肩の力が少し抜けて、手元の動きもやわらかくなる。
そして不思議なことに、落ち着いた表情は同伴者にも伝わります。
「この人、大丈夫そうだな」
そんな空気が生まれると、コースの雰囲気も少し和らぎます。
表情は自分だけのものではなく、その場の空気をつくるものでもあるんです。
今日から一つだけ試してみてください
難しいショットの前。
大事なパットの前。
池やOBが気になるティーショットの前。
打つ前に、口角をほんの少しだけ上げてみてください。
笑顔を作らなくても大丈夫です。
「ほんの少し」で十分です。
口元がゆるむと、顔の力が抜けます。
顔の力が抜けると、肩や手元の力も少し抜けやすくなります。
これは、いつもの顔に戻るための小さなスイッチです。
コースを後にする夕暮れ
ラウンドが終わって、クラブハウスへ戻る道を歩くとき。
今日のスコアだけではなく、
「自分はどんな顔でプレーしていたかな」
と振り返ってみる。
固い顔が多かった日は、次のラウンドで少し意識してみる。
いつもの顔で打てた一打があったなら、その感覚をそっと覚えておく。
表情を整えることは、メンタルを整えること。
そしてそれは、スコアにもつながる立派な技術のひとつだと思います。
芝のにおいと夕暮れの光の中で、今日のラウンドを静かに振り返る。
その時間だけで、次のゴルフが少し変わる気がします。
あなたは大事な場面のとき、自分の顔がどんな顔になっているか、気づいたことがありますか?

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