赤マント 第16話
玲穏の想い、隼人の想い
翼「ここか?」
音「うん」
渡「着きました……」
翼たちは玲穏が前に暮らしていた家に到着した。
そこは小さな一軒家だった。
本当に誰も住んでいないようで、家は閑散としていた。
翼「引っ越したのって、お兄さんが癌だって分かって直ぐだったんだよな」
音「うん。お父さんが言ったの。『いつでも家族一緒だ』って。本当は転勤を断りたかったんだけど、給料が倍になるからって。多分治療費のことを考えたんだと思う」
翼「……」
音「夫婦喧嘩の度にお母さんお父さんに言ってた。『あの時引っ越さなければ』『あの時無理にでも転勤を断っておけば』って。本当はお母さんも分かってたんだ。お父さんもお兄ちゃんのことを考えて決めたんだって。けどその時は、誰かのせいにしないと自分を保てなかったんだと思う」
渡「……」
音「……もし、もし私が変わりに死んでたら。お兄ちゃんじゃなくて私が変わりに癌になって死んでたら、家族は今も幸せにやってたと思う。いつも笑って、楽しく食事して、私のことなんて忘れて暮らせてたと思う」
渡「音無さん……」
音「分かってる。そんなこと考えたって何も元には戻らないって。……けど、そんな風にでも考えないと、生きていけない」
玲穏は涙を流し下唇を噛んだ。
翼「……そんな涙を流した顔でお兄さんに会うつもりか?」
音「……」
翼「お兄さんは最後まで笑顔だったんだろ? だったらお前も笑顔で会ってやらないと」
翼はそう言うとハンカチを玲穏に差し出した。
音「……」
玲穏は泣きながら受け取った。
渡「……」
翼「……行くぞ」
翼はそう言うと玄関に向かった。
ガララッ。
玄関を開けると、冷たい風が流れ込んできた。
翼「……」
翼はゆっくりと前に進む。
玲穏と緋梨もそれに続く。
前に進む度にギシギシと床が鳴る。
その音が余計に翼たちに恐怖心を与えた。
翼「っ!?」
翼は立ち止まった。
玲穏たちに左手をあげて止まるように指示した。
音「先生?」
翼は人差し指を口元に当てた。
翼の目線の先にはリビングがあった。
翼「(何かいる……)」
翼は直感的にそう思った。
何故かは分からない。
しかし、確かにそう感じた。
翼はゆっくりと前に進む。
ゆっくり、ゆっくり……。
翼「……」
翼はそっと中を覗き込んだ。
音「え……」
翼たちは驚いた。
リビングには小さな犬がいた。
音「ケンちゃん……」
翼「?」
玲穏はゆっくりとその犬に近付いた。
両手で犬を抱き上げる。
音「ケンちゃん……!!」
玲穏は優しく抱き締めた。
翼「音無?」
音「小さい頃に飼ってた犬なの。お兄ちゃんが癌だって知らされる前に病気になって、それから直ぐに。お兄ちゃんと一緒に散歩に連れてったりして……」
翼「……」
音「あったかい。ちゃんとあったかいよ……」
玲穏は泣いていた。
翼「音無……」
翼と緋梨は玲穏に近寄った。
翼「(でも何で犬が……。)」
翼はふと後ろに気配を感じた。
翼はゆっくりと振り向いた。
翼「音無、渡辺さん……」
玲穏は翼の方を向いた。
翼の顔は強張っていた。
何かを見つめているようだった。
渡「ひゃっ!!」
隣で緋梨の短い悲鳴が聞こえた。
玲穏は翼の視線の先を見た。
音「!!」
玲穏は驚いて犬を離した。
音「お兄、ちゃん……」
翼たちの目の前には『赤マント』が立っていた。
