赤マント 第30話
過去の告白
翼と俊介は病院の屋上に来ていた。
夜ということもあり冷たい風が吹いていた。
暗い空間に2人だけが立っていた。
卯「それで、俺に聞きたいことって?」
翼「……10年前の修学旅行の日、一体何があったんだ?」
卯「え?」
翼「あの日、俺は高熱を出して修学旅行に行けなかった。だから何があったのかは分からない。けど、あの日何かあったんだろうなっていうのは分かった。俺はそれを大して気にしないようにしてた。俊介や姫愛の関係を壊したくなかったから。そして、今までその違和感を忘れてた」
卯「……」
翼「……美濃部に調べてもらった。10年前、修学旅行の最終日に黒瀬はいなくなった。そして、お前や姫愛、黒瀬たちのグループは一緒に行動してた。あの日から皆何かしら変わった。何も知らないってことはないよな?」
卯「……お前は、俺や姫愛を疑ってんのか?」
翼「信じてるから聞いてんだよ!! 俺は友達を失いたくない。2人に死んでほしくないんだ!!」
翼は息を荒くして言い放った。
俊介はそんな翼を見つめていた。
卯「……俺たちは何もしてない」
翼「……」
卯「本当に何もしてないんだ。最初に黒瀬がいじめられてるのを見た時、心配そうにしている姫愛を引っ張って俺はその場を後にしたんだ。それからはずっといじめのことを無かったことにしてた。姫愛はそんな俺に着いてきただけ。……何もしなかったんだ。手を差し伸べることも、誰かに助けを求めることも」
翼「……」
卯「おかしいよな? そんなやつが刑事になって人を助けてるなんて」
俊介は涙ぐみながらそう言った。
姫「翼君」
翼「姫愛……」
姫愛が屋上にやってきていた。
彼女は頭に包帯を巻いていた。
姫愛は俊介の元に駆け寄った。
姫「俊介は悪くないの!! 私のためにいじめを見て見ぬふりをしてたの。変に止めにでも入ったら小久貫君たちに何をされるか分からないから。私のために……」
卯「姫愛……」
翼「別に2人を責めるつもりなんて無いよ。俺だって小久貫たちのこと無視してたんだから。俺だって同罪だよ」
卯「翼……」
翼「俺は2人の友達だから。俺も2人の苦しみを背負うよ」
翼は手を差し出した。
卯「……」
俊介は翼の手を握った。
翼はそれを握り返した。
卯「姫愛」
俊介はもう片方の手を姫愛に差し出した。
姫「……」
姫愛は泣きながらその手を握った。
俊介は姫愛を引き寄せ、翼と握っている手の上に姫愛の手を置いた。
3人はお互いを見ながら微笑んだ。
この日、3人は本当の友達になった。
翼「俊介、いくつか教えてほしいことがあるんだ」
卯「あぁ」
翼「滝藤先生が亡くなったこと、知ってる?」
卯「あぁ。地元の警察に行って詳しく聞いてきた。恐らく『赤マント』の仕業だ」
翼「やっぱり……」
卯「今までの殺し方とは違って宙吊りにして串刺しにされた状態で発見されたらしい」
翼「何でそんな殺し方を……」
卯「さぁな。死刑のつもりだったのかもしれない。ひとつひとつ刺しながら、じっくりと殺すのを楽しんでいたのかもしれない」
翼「……」
卯「それと翼。黒瀬の件なんだけど……」
翼「やっぱり死んでたんだな」
卯「!? 何でそれを……」
翼「美濃部が調べてくれてたんだ。調べるの大変だったみたい」
卯「知ってるなら話は早い。湖に身を投げたらしいんだけど、1年前に偶然白骨化した遺体が打ち上げられたんだ。警察が周囲を捜索して骨の一部と持ち物と思われるものを発見したんだ」
翼「……」
卯「持ち物のひとつにスーパーマンのキーホルダーがあった」
翼「でも、それだけで黒瀬だって分からないんじゃ……」
卯「あいつの鞄も見つかったんだ。名前が書いてあった。遺族に知らせようと思ったんだが、その時には住所が変わってたから、結局無縁仏として埋葬された」
翼「……警察は今でも拓実を犯人だって疑ってるの?」
卯「行方を探してはいるよ。けど俺は彼が犯人だとは思ってない。それに、警察では小久貫家のことで手がいっぱいなんだ」
翼「?」
卯「小久貫一真の悪事について警察の捜査が入ることになったんだ。あの週刊誌の一件があってな。ここがチャンスと思ったんだろう。父親の宗一郎が圧力をかけてきてるから中々捜査が進んでないんだけどな」
翼「そう……。けど、誰が週刊誌にネタを流したんだろう」
卯「……」
俊介は目を逸らした。
翼「……やっぱり俊介が流したのか?」
卯「……あぁ。俺が流した。小久貫たちを動かすために。それに、ああすれば俺や姫愛のことが明るみに出ることはないと思ったから」
翼「俊介……」
卯「けどやりすぎたみたいだ。情報を流したのが俺だってバレた。捜査から外されることになったんだ」
翼「え!?」
卯「処分が出るまで自宅待機だってさ。下手したら刑事クビだな。でも俺は捜査を続けるよ。それが俺の償いだと思うから」
翼「そっか……」
俊介の言葉を聞いて翼は微笑んだ。
翼「あ、そうだ。俊介にもうひとつ聞きたいことが……」
卯「?」
翼「秋元が黒瀬のことを記事にしない理由を知らない?」
卯「どういうことだ?」
翼「俊介と同じように、秋元も黒瀬のことを調べてたみたいなんだ。警察署にも訪れたみたいだけど追い返されたって。俊介なら既に知ってると思ったんだけど」
卯「初耳だな。しかし秋元はどうやってそんな情報を……」
翼「どうやらかなりのネットワークがあるみたいだね。でも黒瀬のことを知ってるならさっさと記事にして小久貫たちを糾弾すれば良い。なのに彼女はそれをしない。何故だろう?」
卯「どうやら彼女は小久貫を完膚なきまでに潰したいみたいだな。黒瀬を自殺に追い込んだっていう完璧な証拠を見つけたいんだろう」
翼「そこまで小久貫に執着するなんて……。よっぽど恨みがあるのかな」
卯「さぁな。だが、あのまま秋元を放っておくわけにはいかない。小久貫宗一郎には色々と黒い噂がある。それこそ人を殺したという噂がな。もしそれが本当なら秋元の命も狙われる可能性がある。何とかしてあいつより先に真相に辿り着かないと」
翼「……秋元に協力してもらうことはできないかな?」
卯「は?」
秋「秋元に協力してもらえば『赤マント』の正体に近付けるかもしれない」
卯「そうかもしれないけど、あいつの協力を得るのは難しいぞ。あいつは黒瀬の自殺に俺たちが関わってると思ってるんだ。素直に話したところで協力してくれるとは思えない」
翼「1人だけ、説得できるかもしれない人がいる」
卯「?」
翼「須藤大樹。彼なら秋元を説得できるかもしれない」
卯「須藤大樹!?」
翼が大樹の名前を出したことに俊介は驚いた。
卯「どういうことだ!? 何で須藤と秋元が? っていうか須藤と会ったのか?」
翼「うん。実は……」
翼は拓実と再会したこと、拓実と大樹に会いに行ったこと、大樹から秋元の話を聞いたこと、そして大樹が萌を探していることなどを話した。
卯「そんなことがあったのか……」
翼「うん。ごめん、黙ってて」
卯「いや、気にするな。俺に話したらまた何かあると思ったんだろ?」
翼「……」
卯「にしても、同級生がどんどん関わってくるな」
翼「うん。そしてその同級生を殺そうと『赤マント』は躍起になってる」
卯「あぁ。だが、何で『赤マント』は姫愛を殺さなかったんだ?」
翼「え? それは気絶してる姫愛を見て死んだと思ったからじゃ……」
卯「けど、他の被害者は確実に殺す方法を取ってる。かなり猟奇的だ。そんなやつが死んだかどうかも確認せずに去っていくなんて……」
翼「……」
卯「……今は形振り構ってられないか。須藤は本当に協力してくれるのか?」
翼「あ、うん。そこは大丈夫だと思う。岩原のこともあるし。須藤も償いの気持ちはあるみたいだから」
卯「分かった。秋元のことは須藤に任せた。岩原のことは……美濃部に任せるか。俺は白藤先輩のご両親の件を調べるよ。小久貫家を崩す唯一の突破口かもしれないし」
翼「うん。頼んだ」
俊介は一足先に屋上を後にした。
翼は携帯を取り出し大樹に電話をかけた。
