おもちゃ箱 第37話
2日後、予想だにしない出来事が起こった。
深堂奏の名前がニュースに載っていたのだ。
『ロッカーで中学生が心肺停止状態。一体何が?』
齋「え?」
私には何がなんだか分からなかった。
プルルルル……。
私の携帯に電話がかかってきた。
1『悠紀子!! ニュース見た!?』
齋「う、うん」
1『何がどうなってんの!?』
齋「私にも分からない。とにかく、何があっても絶対に何も喋っちゃダメだからね」
1『う、うん!! 分かった!! 2人にも伝えとくね』
齋「よろしく……」
私は電話を切った。
齋「(大丈夫……大丈夫……)」
バレるわけがない。
私は何度も自分に言い聞かせた。
だが、私の手は震えていた。
2日後、私の家に警察が来た。
学校の連中が、私たちの名前を出したようだ。
私は警察署に出向き、「苛めはしていない」とキッパリと言った。
だが、他の3人はあっさりと自供し、「私に言われて無理矢理やらされた」と証言したそうだ。
齋「(結局、私は友達でも何でもなかったってことか)」
私は「友達に無理矢理やらされた。仕方がなかった」と、あいつらと同じことを言った。
それからしばらくして、弁護士がやって来た。
どうやら、父が手配したようだ。
その日、私は家に帰ることができた。
翌日、彼の両親が私の家に怒鳴り込んできた。
私と話をさせろ、謝罪しろ、訴えてやると捲し立てた。
それから直ぐに裁判をすることになった。
幸い、優秀な弁護士と目撃者がいなかったことから、私たちは無罪放免となった。
さらに、未成年者ということもあり、顔や名前が公表されることはなかった。
だが、担任や教頭は責任を取って辞任ということになり、私たちは退学処分となった。
高校生になり、私たちは別々の学校に行くこととなった。
学校では静かに暮らしていた。
なるべく目立たないように。
そうして生活してきた。
だが、高校2年の時、衝撃の出来事が起きた。
私と一緒に彼を苛めていた、友達の1人が自殺をした。
部屋の中で首を吊っていたらしい。
遺書には『もう無理です。ごめんなさい』そう書かれていたそうだ。
私は葬式には行かなかった。
怖くて行けなかった。
聞いた話では、葬式の場は静かで、ほとんど人がいなかったらしい。
私は彼女たちとの縁を切った。
母は彼の病院に良く行った。
聞くと、雑巾の中に菌がいて、それを大量に吸い込んでしまったことで感染症にかかり、意識を失ったそうだ。
意識は戻ったが、女性を見ると錯乱状態になるらしい。
母は何度も謝ったが、彼に会うことはおろか、病室に近づくことすら出来なかったそうだ。
あの事件以降、父と母は笑わなくなった。
父は私を見ると、まるで汚い物を見るような眼差しを向けるようになった。
家族で食事を囲むことはなくなった。
私はその状況に耐えられなくなった。
両親に内緒で退学届けを出し、荷物をまとめてその日のうちに家を出た。
しばらくは酔っぱらいから金を集りながら漫画喫茶で過ごした。
バイトを探し、何度も面接を受けた。
そんな時だ。
今の店長から誘いを受けたのは。
周りからの目は冷たいが、デリヘルはお金になる。
中学や高校の時よりもお金には苦労しないだろう。
事情を話したら、店長は自分を私の親ということにし、年齢などを詐称して役所に提出した。
最初はバレるのではないかとヒヤヒヤしたが、店長や周りの協力もあり、どんどん客が増えていった。
私は直ぐに夜の世界に慣れていった。
<過去 side end>
母には住んでいる場所は伝えてある。
と言っても、伝えたのはつい最近だ。
さらに、母にはデリヘルとして働いていることは隠し、バーで従業員として働いているということにしている。
最初は母は心配してくれていたが、次第にお金をせびったり、暴言を吐くようになった。
半年もしないうちに、電話やメールをしなくなり、手紙を受け取るだけになった。
手紙の返事を返したことはない。
今どんな生活をしているのかは詳しくは分からない。
ただ、父がギャンブルにハマってお金を湯水のように使い、借金を作ったことは手紙に書いてあった。
父は私が母と連絡を取っていたことを知っているのだろうか。
まぁ、知っていようがいまいがどちらでもいい。
最近知った話だが、両親は私がいなくなったとき、捜索願は出さなかったばかりか、探そうともしていなかったらしい。
あの頃から両親にとって私は、ただの邪魔者でしかなかったのだ。
今の私は、言うなれば金を送ってくれる財布みたいな者なのだろう。
私は近々引っ越そうかと思っている。
両親には住所は教えないつもりだ。
仕事場は少し遠くなるが、致し方ない。
携帯も解約して新しい番号にするつもりだ。
今度こそ家族との縁を絶つために。
引っ越しが終わって落ち着いたら、彼の家に行こうと思う。
深堂奏の元に。
断られるかもしれないし、彼に殺されてしまうかもしれない。
ただ、一言だけでも謝りたい。
あの時のことを心から謝罪したい。
そして、新しい人生を過ごしたい。
それが今の私の目標。
齋「……アイツ、許してくれるかなぁ」
バチッ!!
ドサッ。
体に衝撃が走った。
まるで電気を全身に浴びたような感覚。
体が思うように動かせなかった。
齋「(何、これ……)」
何がなんだか分からなかった。
ただ、不意に昔のことを思い出した。
2年の始業式、深堂奏を初めて見た日のことを。
昔はムカついて見えた光景が、今だけは輝いて見えた。
齋「(あぁ、あの日に戻りたいなぁ……)」
私は、無意識のうちに涙を流していた。
それを最後に、私は意識を落とした。
<悠紀子 side end>
