赤マント 第28話
岩原萌。
俺たちの中学の時の同級生。
同級生の中では1番の美女だったと言っても過言ではない。
それほど彼女の名前は有名だった。
多くの男子が彼女に告白したが、ことごとく撃沈。
小久貫も告白したそうだが、『私みたいなのがあなたと付き合ったらあなたの家の名が廃れてしまう』と中学生とは思えない言葉で回避したそうだ。
そんな彼女だが、高校2年の頃に芸能界に入り、アイドルとして活動をしていたらしい。
テレビや雑誌にも出て『今話題のアイドル』として売り出し中だった。
美「何でお前が彼女のことを……」
須「俺の店の広告に彼女を起用したことがあって、それ以来ちょくちょく食事したりしてたんだ。もちろん、彼女のマネージャーも一緒にな。けど『赤マント』の事件が起きて以来彼女と連絡が取れない。マネージャーに聞いても『分からない』と言われた」
美「病気かなにかとか?」
須「だとしたら事務所に何か連絡がいってるはずだ。けど事務所も理由が分からなくて困ってたよ」
美「……何かのスキャンダルがあって雲隠れしてる、とかだったら良いんだけど、その可能性は無さそうだな」
須「……」
美「確認だけど、彼女との関係はタレントとアイドルってことで良いのか?」
須「あぁ。俺一応女いるからな」
美「あ、そうですか……」
俺はその言葉に少し嫉妬した。
美「まぁ、分かった。調べてみるよ」
須「悪い。助かる」
美「けど意外だな。人に興味が無さそうなお前が人探しを頼むなんて」
須「……俺、年の離れた妹がいるんだけどさ。妹が岩原の大ファンなんだよ。『お兄ちゃん萌ちゃんと友達なんてスゴいね』って。俺が一緒に仕事する度に『どうだった?』って電話してくるんだ。週刊誌の件でただでさえ妹に辛い思いをさせてる。岩原はそんな妹の救いになってくれるんじゃないか。そう思ってるんだ」
美「……そういうことなら仕方ない。出来るだけ早く調査内容を報告するよ」
須「あぁ」
美「あ、そうだ。七咲、上坂拓実のことなんだけど……」
翼「あ~、ごめん。その事なんだけど……」
俺は七咲から上坂拓実と会ったことや、学園のマドンナ、白藤先輩に匿ってもらっていることを聞いた。
美「何だ。せっかく調べたのに……」
翼「ごめん……」
美「まぁ、良いや。もうひとつ調べてたことがあるんだ」
翼「?」
美「大変だったよ。警察に話を聞くのは」
俺は七咲や須藤にある記事を見せた。
その話をした時の2人の顔はとても寂しそうに見えた。
そして、それは俺も同じだった。
恐らく、俺はこの気持ちを忘れないだろう。
いや、決して忘れてはいけない。
そう思った。
<美濃部 side end>
坪井琢也
<坪井 side>
琢「今日は楽しかったよ。またよろしくね」
俺はそう言って目の前の女性にキスをした。
女性は顔を赤くしながら去っていった。
琢「ふぅ……。彼女とはこれきりかな」
俺は携帯の履歴から彼女の名前を消した。
琢「さて、帰るか」
俺は家族というものが苦手だ。
何処か息苦しさを感じる。
それは父の仕事が原因かもしれない。
俺の父、坪井庄吉(つぼい しょうきち)は総務相で仕事をしている。
「国民のためにより良い社会を作る」
そのために日々仕事に取り組んでいる。
そんな父は私生活でもちゃんとしている。
ギャンブルなど一切しない、間違ったことは間違っていると言える、不良にも物怖じせず注意できる。
父はそんな人間だ。
俺はそんな父が苦手だった。
父には「こいつはちゃんとした人間だ」「将来は官僚の人間になるのだろう」ずっとそう言われ続けてきた。
俺は自由に生きたかった。
好きな音楽を聴いて、好きな服を着て、好きな人と生活をしたい。
俺は父に反発するように女性と関係を持ち続けた。
両親にはバレていないはずだ。
バレたらバレたで家を出る口実にしてしまえばいい。
俺は今すぐにでもこの家を出たかった。
琢「……ただいま」
庄「琢也、ただいま」
琢「父さん。今日は早いんだね」
庄「あぁ。最近は国会内が慌ただしくてな。仕事が減ってきてるのさ」
父は書類を見ながらお酒を飲んでいた。
テレビのニュースでは小久貫宗一郎の名前が出ていた。
琢「確か父さんが追求しようとしてるのってこの人だよね?」
庄「ん? あぁ、って何で知ってるんだ?」
琢「前にワイドショーでやってたから」
庄「あ~……」
父は頬を掻いた。
庄「この男は違法な土地開発で住民を追い出して土地一帯を更地にしたんだ。その影響で住民のほとんどは職や住む家を無くしてる。保証するという彼の言葉を信じたからだ。けど結局、大した保証はされなかった。それだけじゃない。その土地開発を進めるために放火をしたんじゃないかという噂まで出てる」
琢「まさかそんなこと……」
庄「あぁ、馬鹿げた話かもしれない。けど、あり得ない話でもないんだ。この業界ではな」
琢「ふ~ん……」
庄「けど問題なのは彼の息子だ」
琢「息子?」
庄「彼の息子は父親の権力を笠に犯罪に手を染めているという話がある。お前と同じくらいの年には窃盗、放火、強姦など、数えればキリがないほどの犯罪をしていたそうだ。しかし、父親が圧力をかけて揉み消した。内部調査でこれだけ話が出てるんだ。あながち間違いでもないだろう」
琢「……」
庄「琢也、お前に政治家になれとは言わない。俺自身この仕事の大変さは知ってるからな。けどな。人の人生を蔑ろにするような生き方はするな。たった1人でも良い。誰かに感謝されるような生き方をしてくれ」
父はそう言って微笑んだ。
琢「……」
俺は今まで、女性を自分の退屈しのぎの道具としてしか扱っていなかった。
父に逆らうために女性を利用してきた。
しかし、俺は父になにも言われたことはなかった。
父が知らないからと言うのもあるだろうが。
父は俺を信用してくれている。
もし、小久貫宗一郎の息子のように自分がやってきたことを揉み消されたら、俺はどうなっていただろうか。
俺はそう考えると少し怖くなった。
琢「(俺は父さんの操り人形になってない。まだ俺は自由に出来てる。それが唯一の救い、か)」
俺はこの日、初めて父を尊敬した。
父のような人間になりたいと少しだけ思った。
<坪井 side end>
