おもちゃ箱 第11話

他の人より

翌日、奏は家の中にいた。

 今日は大学の授業もなくバイトも休みだったため、特にすることもなく暇をもて余していた。

 さらに、いつもと違い今回は美琴と彩月がいるため、気まずい雰囲気が流れていた。

 かなえは仕事のため、早くても帰ってくるのは夕方だ。

奏「(……どうしたものか)」

奏は朝食の食器を洗いながら考えていた。


彩「あの……」

気付くと、彩月が目の前にいた。

彩「私、そろそろ仕事に……」

奏「あ、はい」

 彩月は普段、デパートで従業員として働いている。

あの拉致事件の日、本当は彩月は休みだった。

 だが従業員の1人が風邪を引いてしまい、急遽彩月が出勤することになってしまったのだ。

 昨日、彩月に拉致事件について説明した際、彩月はとても慌てふためいた。

 秀明や美琴の協力でやっと落ち着かせることができた。

 実際、彩月は今日から仕事を休むつもりでいた。

 しかし、美琴から「大丈夫」だと言われ、渋々仕事に行くことにした。

彩「それじゃ美琴。私行ってくるからね」

美琴はその言葉に頷いた。

彩「何かあったら電話するのよ。いい?」

美琴は笑って頷いた。

彩「美琴のこと、お願いします」

奏「……はい。(仕事に行くだけなのにすごい心配性だな)」

彩月は仕事場に向かっていった。


奏「……」

美「……」

 彩月が出ていった後、2人は何も喋ることがなかった。

 昨日のババ抜きで少しばかり距離が縮まったかと思ったが、かなえがいないと会話の取っ掛かりが作れない。

 気まずい雰囲気に耐えられず、奏は自分の部屋に戻ってしまった。

奏「……はぁ~」

奏は深く息を吐いた。

せっかく我が家に来てもらったのだ。

美琴には楽しい生活を送ってほしい。

 しかし、彼女とどう接すればよいのかわからない。

奏は葛藤していた。


ガチャ。

昼になり、奏は部屋から出てきた。

 1階に降りると、美琴がソファーで眠っていた。

奏「(そういえば、俺が最初に彼女に会ったときも寝てたな。寝るの好きなのかな)」

奏はキッチンに入った。

慣れた手つきでサンドイッチを作っていく。

 次に、棚から砕いたコーヒー豆を取りだし、ドリッパーに入れお湯を注いでいく。

ゆっくり、じっくりとお湯を注いでいく。

コーヒーの香りが部屋中に広がっていく。

奏「……よし」

 そのとき、タイミングよく美琴が目を覚ました。

奏「……ナイスタイミング」

美琴は眠い目を擦りながら奏を見た。

奏「あ~、あの……。良かったら食べない?」

 奏はそう言って先程作ったサンドイッチとコーヒーを美琴に見せた。

美琴は少し考えたあと、ゆっくりと頷いた。


2人はゆったりとした時間を過ごしていた。

美琴はメモ帳に文字を書き始めた。

美『とても美味しいです。このコーヒー』

奏「ありがとう」

美『……あの、深堂さんはどうしてこんなにコーヒー作るのが旨いんですか?』

奏「あぁ。実は俺近くのカフェでバイトしてるんだ。そこのコーヒーが美味しくて、働いてるうちにコーヒー作りにハマっちゃったんだ」

奏はコーヒーを見つめながら微笑んでいた。

奏「将来は自分の店を出したないなぁと思ってるんだ」

美「……」

奏「えっと、どうかした?」

美琴はメモになにか書き始めた。

美『私、何でか分からないけど、深堂さんのこと、他の男の人より恐くないです』

奏「えっ?」

美『もちろん、恐いことは恐いんですけど……』

奏「……多分、俺も」

美「?」

奏「俺も雪永さんのこと、他の女の人よりかは恐くないかも」 

美「!!」

奏はそう言ってぎこちなく笑った。

美琴もそれに答えるように微笑んだ。


か「ただいま~」 

夕方になり、かなえは自宅に戻ってきた。

 帰りの道中、偶然彩月に会ったかなえは、彩月と一緒に帰って来たのだった。

か「あれ? 誰もいないのかな」

見ると、部屋の電気が消えていた。

か「奏~?」

かなえと彩月は靴を脱ぎリビングへ向かった。


ガチャ。

ドアを開け、電気を点けた。

か「あら?」

彩「……」

 そこには椅子に座り眠っている奏と、ソファーで横になっている美琴がいた。

 美琴には毛布がかけられており、机には2人分のコーヒーカップが置かれていた。

か「……ちょっとは仲良くなれたかな?」

彩「えっ?」

か「奏の顔、なんか楽しそうな顔に見えるから」

彩「……?」

 彩月には分からなかったが、長い間一緒に暮らしてきたかなえには何となくだが違いが分かった。

 

 かなえはしばらくの間、奏や美琴の寝顔を写真に撮りながら楽しんでいた。

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