おもちゃ箱 第47話
闇
「おもちゃのチャチャチャ、おもちゃのチャチャチャ、チャチャチャおもちゃのチャチャチャ……」
とあるビルの階段を時東聖陽は上がっていた。
そこは聖陽が偽名を使って借りているビルだ。
「そらにきらきらおほしさま、みんなスヤスヤねむるころ、おもちゃははこをとびだして、おどるおもちゃのチャチャチャ……」
聖陽は自分の家に警察が来ること、監禁場所がバレることを見越していた。
そこでこのビルの存在がバレないように、あらかじめビルに関する情報が書かれたメモや契約書などをまとめて持ち出していた。
聖陽はドアの前で足を止めた。
「おもちゃのチャチャチャ、おもちゃのチャチャチャ、チャチャチャ、おもちゃのチャチャチャ……」
ガチャ。
聖陽は鍵を使ってドアを開けた。
電気を点けると、そこにはたくさんのミニチュアハウスが置かれていた。
聖陽にとって、ここはミニチュアハウスを置いておくための所謂宝箱のような場所だ。
月に1回はここに来てミニチュアハウスを眺めている。
聖陽は窓を開けて夜空を眺めた。
時「……綺麗な月だなぁ」
空には月が浮かび、涼しい風が吹き込んでいた。
聖陽はこの状況を楽しんでいた。
自分が犯人だとバレ、追いかけられているこの状況を。
味わったことのない、心臓の波打つ感覚。
考えるだけで自然と笑みがこぼれていた。
聖陽は静かに目を閉じた。
頭に思い浮かぶのは過去の自分。
惨めだった子供の頃の自分だった。
<過去 聖陽 side>
父「聖陽、お前は時東家の血を受け継いでいるんだ。将来は立派な医者になるんだ。そのためには全てのことにおいて完璧でなければならない。分かるな?」
時「……はい」
母「マサ君。貴方なら絶対できるわ。だって時東の血を継いでるんですもの」
母はそう言って私の頭を撫でた。
私は作り笑いを浮かべた。
時東家は代々医者の家系として世間に知られていた。
父は大学病院の病院長、母は看護師長という役職に就いていた。
『時東家の血』
これが父と母の口癖だった。
時東家の人間は完璧でなければならない。
勉強も運動も。
ゲームなど以ての外。
友達は階級の高い人間でなければならない。
外にも色々と制約があった。
私は幼稚園の頃から自由な生活をしたことがない。
最初いた友達もどんどん離れていった。
誉められることも減っていった。
逆に怒られることが多くなった。
テストで良い点を取っても、作文で賞を取っても、2人が心から誉めてくれることはなかった。
私はそんな2人に徐々に嫌気が差していた。
そして、それが日を追う毎に殺意に変わっていった。
私が中学に入る頃、父と母が死んだ。
家の中で血まみれになっているのを私が見つけた。
聞いた話では、犯人は父がいる病院に勤めていた医者だったそうだ。
その医者の彼女は看護師をしており、その看護師のことが気に入らなかった母が、様々な嫌がらせを繰り返していた。
最終的には父に頼み、その看護師の根も葉もない噂を世間に拡げ回り、病院を辞めさせたそうだ。
その看護師はその後首を吊って自殺し、遺書を見た彼は復讐のために父と母を殺したらしい。
幸い私はその日、学校の卒業式だったこともあり難を逃れた。
後少しでも帰りが早かったら、私も殺されていただろう。
家には父と母の遺影が置かれた。
時「……ハハッ」
私はいつの間にか笑っていた。
時「アハハッ、ハハッ、ア~ハハハハハッ!!」
やっと自由になれる。
この手で殺せなかったのは残念だが、結果として私は自由になった。
もう誰にも文句を言われることもない。
時「アハハハハハハッ!!」
私はその日、久しぶりに心の底から笑うことが出来た。
