おもちゃ箱 第44話
犯人の正体
黒「旨い!! ここのカレーは最高だな!!」
権「ハハッ。喜んでいただけて何よりです」
奏たちは現在、甚平に薦められた店で昼食を食べていた。
奏「(……なんか観光してるみたいだ)」
奏はそう思いながら、ちゃんと話を聞けるのだろうかと少し不安になった。
奏「あの、権田さん」
権「はい。なんでしょう?」
奏「権田さんは篠塚さんと親しかったんですか?」
権「親しかったというわけではないんですが、他の人よりかは話しているかもしれません。……実は私、高校で虐めに遭ってたんです」
奏「え?」
虐めという単語を聞いて、奏は一瞬昔のことが頭に浮かんだ。
秀平はそんな奏に気付いていた。
権「ある日、篠塚くんは虐めに遭っていた僕を助けてくれたんです。それから少しだけ話をするようになりました。まぁ、高校を卒業してからは疎遠になってしまったんですが」
奏「……そうですか」
黒「……」
夕方近くになり、甚平は会う予定の校長と話をするために奏たちを車に待たせ、電話をしに行った。
黒「なぁ、奏」
奏「ん?」
黒「権田さんが虐めの話したとき、昔のこと思い出してただろ」
奏「……」
奏は否定も肯定もしなかった。
黒「……大丈夫だよ」
奏「え?」
黒「お前は1人じゃない。かなえさんだって、絵里加だって、美琴ちゃんだって、そして俺だっている。もしお前に死んじまいたくなるような辛いようなことがあっても、俺たちが必死で支えてやる」
奏「……」
黒「……もうあの時みたいに『なにも出来なかった』みたいなことにはなりたくないからな」
奏「秀平……」
中学の頃、秀平は奏と仲が良かった。
彼が虐めに遭っている時も、虐めを止めたり、先生に相談したりした。
だが、結局奏は死にかけ、女性恐怖症になってしまった。
秀平はその事をずっと後悔していた。
もうあんな思いはさせない。
そう心に決めていた。
絵里加と美琴はそんな2人を静かに見つめていた。
夕方、奏たちはようやく校長に会うことになった。
現在、校長室で約束の人物が来るのを待っているところだ。
甚平は汗を拭いながらお茶を何度も啜っていた。
ガチャ。
?「すいません。お待たせしました」
額に少し汗を滲ませて入ってきたのは、ここの校長先生だ。
権「いえいえ、こちらこそすいません。急にこんなことをお願いしてしまって」
校「あ、どうぞお座りください」
甚平たちは再び腰を下ろした。
権「こちらが電話でお話しした深堂奏さんとそのお友達の方たちです」
奏「よろしくお願いします」
校「あ~、どうもどうも。確か、嶋野亜依子さんのことでお話を伺いに来たとか」
奏「はい」
校「私も彼女と会ったことがあるわけではないので詳しくは知らないのですが、私の父が彼女と一緒に働いていたことがありまして」
奏「……」
校「あの事件のあと、教頭は他の女性教員にもセクハラをしていることが分かり、裁判にかけられ、実刑で有罪判決を受けました。校長や他の教員の隠蔽も明らかになり、大量の職員が退職に追い込まれました。生徒もたくさん辞めていきました」
奏「はい。それは知っています」
校「父は辞めることは無かったんですが、やはり事件の影響もあり、一年もしないうちに別の学校に行くことになりました。それから数年後、父は好きな作家さんのサイン会に行くために東京に行くことがあったんですが、そこで偶然彼女と会ったんです」
絵「スゴい偶然……」
校「顔が違ったので最初は誰か分からなかったんですが、作家の方が彼女のことを『嶋野亜依子』さんと言っているのを聞いて、もしかしたらと思いきって話しかけたんだそうです。最初彼女は渋っていたんですが、話をするうちにようやく自分のことを話してくれたらしいです。今は結婚して幸せに暮らしていると」
奏「その時に連絡先を交換したりとかは……」
校「いえ、話をしただけだそうです。写真も撮っていないと。若い人ならそういうこともあるかもしれませんが……」
奏「……そうですか」
黒「クソッ。手がかりなしか」
絵「やっぱり簡単にはいきませんね」
奏「……」
奏は何かを考え込んでいた。
絵「先輩? どうかしたんですか?」
奏「……あの、さっき『顔が違ったので最初は誰か分からなかった』って言ってましたよね」
校「あ、はい、言いましたけど……」
奏「その、事件が起きる前の嶋野さんの写真ってありませんか?」
校「あ、ちょ、ちょっとお待ちくださいね。えっ~と確かここに……」
校長は自分の机の引き出しを漁りだした。
黒「おい奏、どうしたんだよ」
校「あ!! あったあった。父から彼女が在籍していた頃の卒業アルバムを預かってきたんです」
奏はそれを受け取ると、彼女の写真を探した。
奏「……いた」
奏は彼女の写真を指差した。
黒「え!?」
絵「これって…」
奏「嶋野亜依子……」
彼女の写真は確かにそこにあった。
しかし、彼女の顔はかなえから送られてきた写真とはまるで別人だった。
黒「どうなってんだ? かなえさんが送ってきた写真と全然違うぞ!?」
絵「でも、名前は確かに『嶋野亜依子』って。ほら、ここ」
奏「……整形したんだ」
黒「整形?」
奏「あぁ。多分篠塚さんと結婚してすぐに」
絵「そうか。世間じゃ彼女は「犯罪者と結婚した女」。その批判から逃げるために……」
奏「篠塚さんは彼女を守るために、整形したことを俺たちに黙ってたんだ」
絵「じゃあ、彼女が犯人……」
奏「いや、彼女は事件の時には既にハワイにいたはず」
黒「だったらやっぱり、篠塚雅晴が犯人か。手先が器用なアイツなら、爆弾作るなんて訳無いからな」
奏「……」
雪「…?」
クイックイッ。
美琴は奏の服の袖を摘まんだ。
美琴は奏が何か気付いているこどが分かったのだ。
奏は美琴の目を見ると、深く頷いた。
奏「……篠塚さんは、犯人じゃない」
