おもちゃ箱 第39話
涙
奏「どれにしようかな」
絵「あ、これなんかどうですか? かなえさん好きそう」
奏「う~ん……」
尾「……なげぇな」
奏たちは現在、駅近くの土産屋でかなえたちのためのお土産品を選んでいた。
絵里加はすぐ決まったのだが、奏は彩月や美琴の喜びそうなものが分からず、悪戦苦闘していた。
重雄はあげる相手もいないため外で待つことにした。
ここに来てから30分が経過しようとしていた。
奏「う~ん……。どうしよう」
ブーッ、ブーッ……。
奏「ん?」
奏の携帯が鳴った。
見ると、かなえからの電話だった。
奏「もしもし?」
か『あ!! もしもし奏!?』
奏「どうかした?」
電話越しのかなえの声は、ひどく慌てているように聞こえた。
か『秀明から電話があったんだけど、次の事件が起こったみたいなの』
奏「え!?」
か『それで、箱が送られた場所なんだけど。……どうやら時東先生の自宅らしいの』
奏「先生の!? それで、先生は?」
か『幸い、怪我もなかったみたいなんだけど、箱の中の女性は亡くなっちゃったみたい』
奏「……そう。分かった」
絵「先輩?」
奏「……急いで戻ろう」
絵「え?」
奏「……新たな犠牲者が出た」
奏たちは急いで新幹線に乗り込み、東京へ戻った。
重雄とは駅で別れ、奏たちは自宅に向かった。
自宅に戻りリビングに向かうと、かなえと雪永親子、秀明が座っていた。
か「奏、お帰り。絵里加ちゃんもお久しぶり」
奏「ただいま」
絵「かなえさん、お久しぶりです。すいません。私までお邪魔してしまって」
か「ううん。気にしないで。さぁ座って」
かなえはそう言って席に座るように促した。
日「奏君。帰ってきて早速だけど、事件について説明してもいいかな」
奏「はい。大丈夫です」
日「先ず、箱が届いた場所は君の大学で講師をしている時東聖陽さんの家。朝、大学が休みということで家でくつろいでいたところ、宅配が届いたそうだ。差出人はもちろん『山田鈴木』」
奏「……」
日「聞いたところによると、おもちゃ箱の詳細について先生に話したらしいね?」
奏「あ、はい。犯人の心理が知りたいと言われたので。……すいません」
日「いや、週刊誌のお陰で既に世間には知れ渡ってるからね。専門家の先生ならそういうことに対する情報管理は心得てるだろう。実際、先生は君に聞いた通りに、散弾銃のトラップを解除してる」
か「え? それじゃなんで被害者の方は亡くなったの?」
日「……今回のトラップは少し違ってたんだ。爆弾は付いてなかったけど、代わりに別の仕掛けが用意してあった」
奏「別の仕掛け?」
日「散弾銃にはもうひとつ釣糸が巻かれてたんだ。タイマー式で、時間が経つと釣糸が巻かれ、散弾銃の引き金が引かれるようになってた」
奏「……」
日「犯人も手を変えてきたんだ。しかも厄介な方法に」
奏「……それで、今先生は?」
日「ショックを受けてはいるが、怪我も無く、今は病院で安静にしてもらってるよ」
奏「そうですか……」
奏はホッと息をはいた。
か「それで、被害者は誰だったの?」
日「それが……」
奏「……」
日「被害者はあの齋川悠紀子だったんだ」
奏「……え?」
奏は頭が真っ白になった。
奏「齋川……悠紀子……」
か「まさか、あの子が……」
雪「……?」
深堂姉弟は深刻な顔をしていた。
美琴は不思議そうな顔をしていた。
彩「あの……」
彩月が不意に口を開いた。
彩「その齋川さんって方とお知り合いなんですか?」
絵「私も気になります。昔の友達とか」
か「あ……えっと……」
奏「……友達じゃない」
奏は手を強く握っていた。
その姿は怒りに震えているように見えた。
秀明はかなえを見た。
かなえは目が合うと、静かに頷いた。
日「……彼女、齋川悠紀子は、奏君の中学の時の同級生なんだ。そして、彼女は自分の友達と一緒になって彼を苛めていた」
彩「えっ……」
絵「……もしかして、先輩が女性恐怖症になったのって」
かなえはゆっくりと頷いた。
か「そのいじめが原因で奏は死にかけた。いや、殺されかけた」
日「……俺は、当時彼女に取り調べをしたことがある。彼女は『私はやっていない』そう言った。けど、彼女の仲間は『彼女に命令された』と供述してた。警察は彼女を殺人未遂の罪で捜査するつもりだった」
絵「だった?」
日「彼女の父親が弁護士を呼んだんだ。彼女は裁判にはかけられたものの、有罪にはならなかった。いじめの目撃者はいても、その殺人未遂をした日の目撃者はいなかったのも原因のひとつだ。未成年だったこともあって、顔も名前も晒されることはなかった」
奏「……」
日「高校2年になると、いじめグループの1人が首を吊って自殺した。それから彼女は誰にも告げずに高校を辞め、家を出ていった。その後の彼女の詳細は現在捜査中だ。ただ、現在はデリヘル嬢として働いていたらしい」
か「……」
日「彼女の家族に遺体の確認をお願いしたんだが、『そんな娘は知らない』『うちに娘はいない』と拒否された。あの事件から父親はギャンブルにハマり、母親は体を壊していた。彼女が失踪したときも、捜索願も出さなかったらしいからね」
絵「それじゃあ、彼女の遺体は……」
日「……こっちで火葬して、無縁仏として弔われることになるだろう」
絵「……」
日「……それと、彼女の自宅からこんなものが発見された」
秀明は内ポケットから紙を取り出した。
か「それは?」
日「齋川悠紀子が送ろうとしてた手紙だ。……奏君宛の」
奏「え?」
日「手紙には一言『ごめんなさい』……そう書かれていた」
秀明は奏に手紙を渡した。
手紙を開くと、そこには確かに『ごめんなさい』とだけ書かれていた。
奏「……今更だよ。苛めてたときも、入院してたときも、1度も謝らなかったのに。それから手紙ひとつも寄越さなかったくせに。……本当、今更だよ」
奏はそう言いながら涙を流していた。
美「……」
ギュッ。
奏「!!」
か「!!」
美琴は、ゆっくりと奏の手を握った。
そして、美琴は奏に笑顔を見せた。
か「美琴ちゃん……」
彩「美琴……」
奏「……」
手を握る美琴の手は、かすかに震えていた。
美琴は懸命に奏を元気付けようとしていた。
奏「……ありがとう」
奏は更に涙を流した。
かなえたちは、その光景を微笑ましく見つめていた。
