おもちゃ箱 第28話
過去~出会い~
15年前。
篠塚雅晴は自宅近くの機械工場でネジを作っていた。
経営はあまり芳しくなく、ほぼ休みは無かった。
妻も恋人もおらず、仕事が終わったら余り物の弁当を自宅に持ち帰り、1人で寂しく弁当を食べ、風呂に入ってそのまま眠り、朝になれば仕事に行く。
毎日それの繰り返しだった。
篠「(いつまでこんな生活が続くんだ……)」
雅晴は今の生活に嫌気が差していた。
雅晴には教師になりたいという夢があった。
しかし、父が病気で他界し、母が体を悪くし、1人では生活をすることが難しくなった。
そのため、雅晴は実家に戻るしかなくなった。
さらに、近くに学校がないため教師として働くのは難しく、工場で働くしかなかった。
そんな生活が10年近く続いていた。
そんなとき、雅晴に運命的な出会いがあった。
彼女の名前は嶋野亜依子(しまの あいこ)。
工場長の娘さんで、雅晴とは8歳下の可愛らしい女性だ。
彼女は教師を目指しており、日々勉強をしながら、父親のためにたまに弁当を持って来ていた。
雅晴はそんな亜依子を見続けてきた。
年を越す度に綺麗になっていく亜依子を見て、雅晴は亜依子に惹かれていった。
そして1年後、雅晴は思いきって亜依子に告白した。
篠「(年甲斐もなくこんな若い女性に告白するなんて…)」
雅晴はそう思っていた。
しかし、亜依子から予想外の答えが返ってきた。
嶋「はい。私で良ければ」
亜依子は雅晴の告白を了承したのだ。
実は、亜依子は雅晴のことを初めて見たときから惹かれていた。
つまり一目惚れだ。
しかし、年が離れていることもあり、中々話かけることができなかったらしい。
教員試験に合格した亜依子は、ここを離れて一人暮らしをすることが決まっていた。
引っ越す前に自分の気持ちを伝えなければと、ずっと悩んでいたのだ。
両思いだった2人は、こうして恋人同士となった。
2人の関係は周りには秘密だった。
工場長である父親に知れれば、反対され別れさせられてしまう。
2人は人前で会うことを避け、雅晴が亜依子を迎えに行き、亜依子が仕事場から家に帰る前まの間、話をする程度に留まっていた。
そうして、あっという間に亜依子が故郷を離れる日がやって来た。
出発の際、送り届けたのは工場長だけだったが、雅晴はメールで『離れていても愛している』と愛のこもった文章を送り続けた。
亜依子はそれを見て微笑んだ。
過去 ~決意~
遠距離恋愛を始めて2年、雅晴と亜依子の関係は上手くいっていた。
亜依子が休みの日は故郷に帰り、雅晴に必ず会いに行った。
デートをし写真もたくさん撮った。
周りに関係を秘密にしていたため目立った格好もできなかったが、2人は満足していた。
しかし、3年目に入って亜依子に変化が起きた。
返事を返す回数が減り、電話では声に覇気が無かった。
久しぶりに会っても、どこか暗い。
何かあったのか聞いても、「何でもない」と笑って誤魔化すばかりだった。
不安になった雅晴は、隙を見て亜依子が常に持ち歩いている日記を見た。
そこには、驚きの事実が書かれていた。
亜依子は、勤め先の学校で教頭からセクハラを受けていたのだ。
校長に相談しても「君の思い過ごしだ」「事態を大きくするな」「だったら君が辞めれば良い」等と言われ、全く相手にされないらしい。
「校長に逆らったらクビになるかもしれない」と、他の人たちも見て見ぬふりをしているようだ。
この日記を見た雅晴は酷い怒りを覚えた。
篠「こいつら……」
雅晴はある決心をした。
