おもちゃ箱 第26話

新たな手がかり

 それから何も進展することなく、1週間が経った。

そんな中、奏はある家の前に来ていた。

 そこは周りに草が生い茂り、真ん中にポツンと家が建っていた。

見る限りに不気味だった。

絵「ここがその記者の方の家です」

奏「……」

 隣にいた絵里加は、携帯のマップを見ながら場所を確認していた。

絵「行きましょう」

奏「……あぁ」


ピンポーン。

絵里加は家のチャイムを鳴らした。

しばらくするとドアが開いた。

現れたのは、白い顎髭を生やした男性だった。

?「……」

絵「あ、初めまして。私……」

?「もしかして、先週電話で話した記者の人?」

絵「え? あ、はい。霜村絵里加です。こちらは私のアシスタントです」

奏「どうも。深堂奏です」

?「……とりあえず入って」

男性はそう言って2人を家に招き入れた。


男性の名前は尾野寺重雄(おのでら しげお)。

 40年以上記者として働き、数々の犯罪の現場を取材してきた人物だ。

 今は年金で生活しながら、新聞やニュースで殺人事件が報じられる度、独自に取材をして記事を書き、それを出版社やマスコミに送り続けているそうだ。

 マスコミ業界では「マスコミ泣かせおじさん」として、煙たがられているらしい。

尾「……それで、たしか電話じゃ『おもちゃ箱連続殺人事件について意見を聞かせてほしい』って言ってたけど」

絵「はい。長年犯罪記事を扱ってきた尾野寺さんなら、事件について良いお話が聞けるんじゃないかと思いまして」

尾「良い話か。じゃあその前に、俺からもひとつ質問させてくれ」

絵「質問?」

尾「その『おもちゃ箱連続殺人事件』の被害者である彼がなんで俺のところに来たのか教えてくれ」

絵「え!?」

重雄は奏の目を見てそう言った。

尾「あんだけニュースとかで取りあげられてたんだ。そう簡単に忘れるわけ無いだろ。俺はこれでも元記者だぞ」

奏「……」

尾「話せないと言うのなら、この取材の話は無しだ」

絵「あの、それは……」

奏「分かりました。お話しします」

絵「先輩!?」

尾「……」

奏「相手から情報を聞き出そうって言うのに、こっちは何も話さないなんて、フェアじゃないからね。それに、こっちは手詰まりな状況なんだ。形振り構ってられないさ」

絵「……」

奏は重雄に、事件に関わる内容を話した。

 もちろん、美琴や彩月のことは出来るだけ伏せて。


尾「……なるほど。大体の話は分かった。取材に応じよう」

絵「あ、ありがとうございます!!」

奏「……」

絵里加は重雄に頭を下げた。

尾「ただ、ひとつお願いといっちゃなんだが、頼みがある。事件について分かったことがあったら、俺に教えてほしい」

絵「え?」

尾「還暦迎えて記者は引退しちまったが、まだマスコミ魂は死んじゃいねぇ。この事件の記事を書いて全部の出版社に売り込んで、最後にでっかい花火を打ち上げてぇのさ」

絵「……分かりました。事件で情報が上がったら、直ぐにお知らせします」

尾「へへッ。話が早くて助かるぜ」

重雄は椅子から立ち上がった。

尾「ちょっと見せたいものがある。来てくれ」

重雄はそう言うと、どこかへ歩いていった。

奏、絵「……」

 2人は怪訝に思いながらも、重雄の後を付いて行った。


絵「うわぁ……」

奏「……スゴいな」

2人は驚いていた。

 2人が連れてこられた部屋は書斎のようだった。

そこは、部屋を埋め尽くすほどの犯罪記事が棚いっぱいに並べられていた。

尾「えぇ~と、どれだったかな。……あ、これだ。あとこれとこれ、と」

 重雄は数枚のスクラップブックを手に取ると、奏たちの前にそれを置いた。

絵「これは?」

尾「10年前、この箱と同じ作りの爆弾が、都内の学校に届けられる事件があった。その箱には爆薬の成分となるものが入ってなかったから、死人は出なかった」

絵「この事件の犯人が、今回の事件の犯人と一緒だと?」

尾「さぁな、この事件の犯人はすぐに逮捕され、2年の実刑判決が出た」

奏「2年ってことは、とっくに出所してますね」

尾「あぁ、今はどこで何をしているかも分からねぇ」

絵「それじゃあ、探しようがないじゃないですか」

尾「そうでもねぇさ」

絵「え?」

尾「この犯人、篠塚雅晴(しのづか まさはる)と同じ学校に通ってたんだ。俺は」

絵「え!?」

尾「もちろん、会ったことは一度もない。ただ、俺の同級生が長いこと教師をやってたことがあってな。伝を使って色々と調べてくれたんだ。こいつはコミュニケーション能力の高いやつで、友達がたくさんいたらしい。多分、出所後も会ってたやつがいるはずだ。篠塚の同級生を片っ端から当たれば、何か情報が掴めるかもしれない。あっちに俺の記者仲間がいる。頼めば直ぐに調べてくれるはずだ」

奏「時間はかかるけど、他に手がかりはなしか……」

尾「どうする? なんならこっちも何か分かり次第教えてやるが」

奏「……すいません。よろしくお願いします」

尾「分かった。そっちも何か分かったら頼むぜ」

絵「はい。ありがとうございます」


こうして、3人は協力することとなった。


 重雄の家を出たあと、奏と絵里加は帰り道を歩いていた。

奏「……良かったのか?」

絵「え?」

奏「情報教えるってやつ。バレたらヤバイんじゃないの?」

絵「大丈夫です。情報を流すのは私が記事を書いたあとにしますから。『情報を流す』っていう約束は守ってますよね?」

奏「……なるほど」

絵「先輩こそ良かったんですか? 事件の被害者だってばらしちゃって。記事書かれちゃうかもしれませんよ?」

奏「良いよ。週刊誌に書かれてたことしか言ってないから。それに、あの人の興味は事件の犯人の方みたいだから、俺のことにはあんまり興味ないと思うよ。後半時計チラチラ見てたし」

絵「そうですか……」


ヴゥー、ヴゥー……。

絵「ちょっとすいません」

絵里加は携帯を見た。

絵「まただ……」

奏「どうかした?」

絵「黒澤先輩ですよ。『なんか分かったか?』ってLINEや留守電がずっとです。後で教えますって伝えたのに……」

奏「……なぁ、絵里加」

絵「なんですか?」

奏「絵里加って秀平と付き合ってるのか?」

絵里加は驚いた顔で奏を見た。

絵「な、なんで急にそんなこと言い出すんですか?」

奏「いや、秀平と話すときと俺と話すときで随分顔が違うような気がするから」

絵「……私どんな顔してます?」

奏「俺と話すときはちょっと気を遣ってるけど、秀平と話すときはリラックスしてるっていうか、自然な感じがする」

絵「そうですか? そんなつもりはないんですけど……。なんかごめんなさい」

奏「ははっ。良いよ。絵里加なりの優しさだろ? それに、俺ちょっと嬉しいんだ」

絵「え?」

奏「俺、少しだけだけど絵里加の過去知ってるし、あのときは見てられないくらい暗い顔してたからさ。こうやって明るくなって、好きな人ができて。普通の女の子みたいな生活してくれてるのが、なんか嬉しいんだ」

絵「先輩……」

奏の笑顔を見て、絵里加は泣きそうになった。

絵「あのときは本当に辛かった。父親にレイプされて、母に見捨てられて、何度も死のうと思いました。けど、かなえさんと出会って、先輩と3人で一緒に生活して、『家族って暖かいなぁ』って……。今の私があるのは、かなえさんと先輩のお陰です」

奏「(……一緒に暮らしてることを学校の皆に知られないようにするのは、結構大変だったけど)」

 奏は微笑みながら、当時のことを少し思い出していた。


奏「それで、秀平には気持ち伝えなくて良いの?」

絵「……何て言うか、今の関係が壊れるのが怖いんですよね。もし、先輩に私の過去を話して、嫌われたらどうしようって」

奏「……そうか」

奏はそれ以上何も言えなかった。

『秀平なら大丈夫だよ』

 そんな軽はずみなことを言うことはできなかった。

 心に負った傷は、その人にしか分からないから。

奏「……見つかるといいね。篠塚さん」

絵「……はい」

 2人は重雄から良い報告が来ることを願い、帰路に着いた。

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