赤マント 第14話

<過去 side>

5年前。

音「ただいま……」

玲穏は学校から帰ってきた。

その声に元気はなかった。

小学生の頃から余り陽気な子ではなかった。

学校でも友達は少なかった。

 学校にいるだけで、まるでマラソンをしたような疲れがあった。

越「ただいま」

 母の音無越子(おとなし えつこ)が玄関で出迎えてくれた。

その顔には力がなかった。

音「……」

 越子はそれ以上何も言わず、直ぐにリビングに行ってしまった。

玲穏は静かに靴を脱ぎ始めた。


 小さい頃から両親は仕事で家にいないことが多かった。

 そんな玲穏の面倒を見ていたのが、兄の音無晴人(おとなし はると)だった。

晴人はとても明るい子だった。

友達も多く、良く家に遊びに来た。

 そんな中でも晴人は玲穏から目を離さなかった。

玲穏はそんな晴人が大好きだった。

しかし、晴人はいなくなった。

末期の癌だった。

晴人は最後まで笑顔だった。

それから音無家は変わった。

 越子は笑わなくなり、玲穏に話しかけなくなった。

越子は前から晴人のことを自慢にしていた。

「我が家の宝物」だと近所に言い回っていた。

そんな晴人がいなくなった。

越子にとってそれは想像以上の喪失感だった。

やがて夫婦関係にも亀裂が入った。

 夫婦喧嘩が耐えなくなり、玲穏が中学に上がる前に離婚した。

玲穏は越子の元に居ることにした。

 玲穏は晴人の思い出のある家を離れたくなかった。

越子は余計に話をしなくなった。


中学に入って1ヶ月。

玲穏は初めてリストカットをした。

痛いという感覚は少なかった。

寧ろ少し気持ちが楽になった気がした。

それから玲穏はリストカットをし続けた。

そんな日々が1年経った頃。


その日、玲穏はいつも通りに家に帰ってきた。

音「あれ?」

家の扉が少し開いていた。

音「(今日お母さん休みのはず……)」

玲穏はゆっくりとドアを開けた。

音「お母さん?」

小さな声で母を呼ぶが返事はない。

家の中に入りゆっくりと靴を脱ぐ。

音「お母さん?」

再び母を呼ぶがやはり返事はない。

玲穏はリビングに向かう。


音「!?」

リビングの入り口から足が見えた。

玲穏はゆっくりと足を進める。

音「ん!?」

玲穏の後ろから手が伸びてきた。

次に首に冷たい感触が伝わった。

?「声出すな。声出したら殺すぞ」

玲穏は小さく頷く。

 目の前には肩から血を流し倒れている越子がいた。

越「れ、のん……」

男は玲穏の胸に手を触れた。

音「(いやっ……)」


ザクッ。

?「ウッ」

耳元で男の呻き声が聞こえた。

それから直ぐ、男は力なく倒れた。

玲穏はその場にへたり込んだ。

 後ろを振り向くと、仮面を付け赤いマントを羽織った人物が立っていた。

その手には大きな鎌が握られていた。

鎌からは血が滴り落ちていた。

玲穏は恐怖で声が出なかった。

越「晴……人?」

音「え?」

越子は小さい声で晴人の名を呼んだ。

バサッ。

 マントの人物は何も言わずにその場から去っていった。


それから数分後、警察がやってきた。

 殺された男は最近多発している連続強盗の犯人だった。

 警察は辺りを捜索したが、赤マントの痕跡すら見つからず、捜査は迷宮入りとなった。

玲穏は病室で母に聞いた。

「何故あの時兄の名前を呼んだのか」と。

 越子は「あの時は確かに晴人に見えた」と言った。

音「(あれが、お兄ちゃん?)」

玲穏には確信が持てなかった。

 しかし、そう思うとあの時の恐怖心が少し和らいだ。

いつからか、「あれは絶対にお兄ちゃんだ」と思うようになった。


 あの事件以来、越子は玲穏に愛想笑いをするようになった。

 越子なりに玲穏に近付こうとしたのかもしれない。

だが、玲穏にはそれが逆に心苦しかった。

「母に無理をさせている」

その気持ちが玲穏の心を埋めていった。

いつしか玲穏は笑わなくなった。

<過去side end>

翼「『赤マント』が助けてくれた、か」

音「……」

翼「今でも信じてるんだな。その時の『赤マント』がお兄さんだって」

音「……少なくても私はそう信じてる」

翼「でも、だったら何でお兄さんは今回こんなことしてるんだ? 理由が分からない」

音「あれはお兄ちゃんじゃない!!」

玲穏は少し声を荒らげた。

音「……お兄ちゃんはあんなことしない。絶対に」

翼「……確かめたいんだな。あれがお兄さんなのかって。だから俺にこんな提案を……」

音「先生のお陰でちょっとだけ「頑張ろう」って思えてきたから。先生がいなかったら、自分でこんなことしようなんて出来なかっただろうから」

翼「ハァ……」

翼はため息をついた。

翼「倉野にもそんくらいの接し方がしてやれればなぁ……」

音「……他の人より話してるつもりなんだけど」

翼「……案内してくれるか。その知り合いのところに」

音「一緒に行ってくれるの? 先生は関係ないかもしれないんだよ?」

翼「友達が殺されるかもしれないんだ。もう無関係じゃないよ」

音「でも先生に隠し事してるんでしょ? …あの2人は本当に先生のこと「友達」だと思ってるのかな」

翼「……それを確かめたい、って言うのが1番の理由かな」

翼はそう言って微笑んだ。

音「……」

玲穏には翼が無理に笑っているように見えた。

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