おもちゃ箱 第9話
一方その頃、秀明は事件について捜査をしていた。
日「う~ん……」
捜査一課は息詰まっていた。
深堂家に荷物を送った宅配業者は、男から荷物を預かったという。
その男は、監視カメラの映像などからすぐに見つけることができた。
しかし、その男は「別の男から、荷物を届けるように頼まれた」のだという。
その人物は100万の手切れ金を男に渡し、荷物を預けたあとはさらに100万円を貰ったという。
帽子を目深に被り、顔もマスクやサングラスで隠していたため、誰なのかは分からないという。
捜査一家ではその人物を「X」とし、身元の調査を行っている。
日「……やっぱり頼みの綱は、あの女の子だな」
奏によって助けられた女性、雪永美琴。
彼女の証言が取れれば、事件は一気に解決するのではないか。
秀明はそう考えていた。
だが、彼女は何も話してはくれない。
頭を悩ましていたとき、かなえから連絡があった。
『彼女を家で預かることにした』
それを聞いたとき、秀明はとても驚いた。
彼女は精神科医だ。
彼女の心のケアをするのも大事な仕事だ。
だが、あの家には奏もいる。
秀明は奏が女性が苦手と言うことを知っている。
そんな奏が美琴と一緒に生活することができるのか、秀明は心配だった。
日「……後で行ってみるか」
日「何故こんなことになってるんだ?」
仕事を終えた秀明は、深堂家を訪れた。
かなえに迎えられた秀明は、かなえに誘われるままリビングに向かった。
そこにいたのは、深堂奏、雪永美琴、そして見たことのない顔の女性だった。
3人は食事中だったようだ。
机にはカレーライスが人数分置かれていた。
か「秀明、こちら雪永美琴さんのお母さん、雪永彩月さん」
日「え!?」
か「彩月さん、こちら捜査一課の刑事、日下秀明」
彩「捜査一課の、刑事さん」
どちらも驚いた顔をしていた。
日「どうも、日下です」
彩「初めまして。美琴の母の彩月です」
か「秀明、ちょっと」
日「ん?」
かなえに呼ばれた秀明は、かなえと一緒にリビングを出た。
彩「あの、奏君」
奏「あ、はい」
彩「あのお2人って……」
奏「……はい、付き合ってます」
雪永親子は納得したような表情をしていた。
奏「(そんなに分かりやすいのかな)早く結婚してほしいんですけどね。立場上なかなか結婚に踏み切れないみたいで」
彩「立場上?」
奏「捜査一課の刑事と精神科医。仕事上一緒に仕事することも少なくはないんですけど。どっちもあんまり自由な時間が取れない職業ですから。結婚したらお互いに寂しい思いさせるんじゃないかって不安があるみたいで」
彩「……」
奏「その為に俺がいるんだけどなぁ……」
日「あの親子をここに住まわせる!?」
か「……声が大きいよ」
日「あ、ごめん」
秀明の声にかなえは耳を塞いだ。
か「美琴ちゃん。外に出るのが怖くて、家にも帰れない状態なの」
日「でも母親がいるなら大丈夫だろ?」
か「分かってないなぁ。1度体験した怖い記憶はそう簡単には治らないんだよ。いくら家族が一緒でも。それに、彼女は生まれつき声が出せない病気なの。多分、小さい頃から周りから色々言われて、人とコミュニケーションを取るのが怖くなってるんだと思う。……あのお母さんが1人でここに住むことを許してくれるとは思えないし。だったら普通に生活できるようになるまで2人にはここに居てもらおうかなぁって」
日「……」
か「大丈夫。奏もいるし。ああ見えて美琴ちゃんのこと心配してるんだ」
日「……2人が大丈夫なら良いけど」
か「それより、捜査の方はどうなってるの?」
日「それは……」
奏「(あの2人何話してんのかな)」
奏は2人が何を話しているのか気になり、様子を見に来ていた。
良くないことは分かっていた。
だが、2人の話をした後、どうしても今の現状を知りたくなってしまったのだ。
奏は2人のいる部屋の前に着いた。
日「……実は、今回が初めてじゃないんだ」
か「どういうこと?」
日「今回と同じ事件が今まで3件起きてる」
か「えっ!?」
ガチャ。
奏「一体どういうことですか!?」
か「奏!?」
日「奏君、 聞いてたのか?」
奏「たまたま聞こえたんですよ。それより、どういうことなんですか。これが初めてじゃないって」
日「いや、それは……」
か「秀明、一般人に捜査状況を話せないっていうのは分かってる。けど、奏は彼女を命懸けで守ったのよ。知る権利はあると思うの」
奏「……」
日「……分かった。ただ、ここで聞いたことは外部には一切漏らさないでくれ」
奏「分かりました」
そうして、秀明は事件について話し始めた。
日「最初の事件が起きたのは2ヶ月前、都内に住む20代の主婦だった。届け先は不倫相手のマンション。その女性は散弾銃で頭が吹っ飛んだ」
か「……」
日「2人目は女子高生。届け先は彼氏の家。その彼氏は散弾銃を見て怖くなってその場から逃げ出した。彼女を置いてな」
奏「……その子は?」
日「爆弾で亡くなった。彼氏のご両親は仕事でいなかったから、他に犠牲者はいなかった」
奏「……」
日「3人目は30代の水商売の女性。お店の常連客だった飲食店の従業員男性の元に箱が送られた。この女性も散弾銃で頭を撃たれ亡くなった。この2人は近いうちに結婚する予定だったそうだ」
か「被害に遭った人に共通点とかないの?」
日「…3人とも彼氏や不倫相手のことをSNSに細かく挙げている。仕事場や勤務時間、休みの日に何をしているのかなど、自分のプライベートについても同様に挙げてた。拉致するのも簡単だっただろう」
奏「共通点はそれだけですか?」
日「……あとひとつ。3人とも裏サイトに名前が書き込まれてた」
か「裏サイト?」
日「パソコン借りても良いか?」
か「何これ……」
奏「……」
日「『Muddy guy』。パスワードさえ知ってれば誰でも入れる書き込み裏サイトさ。ここには職場でムカつくやつや、殺したいやつの名前が実名で書き込まれてる。犯人は名前が書き込まれている中で、実名でSNSをやっている人間をターゲットにしているみたいだ」
奏「『Muddy guy』ムカつくやつか」
奏はそう言ってマウスホイールを動かし、書き込みに目を通していた。
か「美琴ちゃんは? 彼女もこのサイトに名前を書かれてたの?」
日「いや、彼女の名前は書かれていなかった」
か「え? じゃあどうして……」
奏「2人供。これ見て」
日「ん?」
秀明とかなえは画面に目を落とした。
そこには美琴ではなく、母親の彩月の名前が書かれていた。
か「彩月さんの名前が書かれてる」
奏「これも見て」
そう言って奏は携帯を見せた。
そこには彩月のSNSの画面が写っていた。
奏「これには彩月さんの趣味とか行動が細かく書かれてる」
日「でも、犯人が狙ったのは美琴ちゃんなんだろ?」
奏「多分だけど、その日彩月さんは家にいるはずだったんじゃないでしょうか? それが何らかの理由で出掛けることになってしまい、娘さんの方が拉致されてしまった」
日「……可能性はあるな。彼女たちから直接話を聞こう」
そう言って秀明は部屋を出ようとした。
か「ちょっと待って。私が聞く」
日「……そうだな。頼んだ」
かなえと秀明は部屋を出ていった。
奏は1人、パソコンの画面を見ていた。
奏「……なんで箱なんだろう」
奏の呟きは寂しく部屋に響いた。
