赤マント 第24話
再会
喫茶店を出た翼は何処にも寄らずに家に帰ってきた。
翼「(事件のことが大体分かってきた。けど、こっからどうする? 話を聞いたにしても俺に何とかできるのか?)」
翼は頭を悩ませた。
翼「ん?」
家に入ろうとした翼はあることに気付いた。
玄関横にあるポストに何も入っていないのだ。
翼「(朝来たときにはちゃんと中身があった筈……)」
最近忙しい翼は、ポストに入った手紙などをついそのまま放置してしまっていた。
それが無くなっている。
翼は不思議だった。
ガッ。
翼「!?」
翼の後ろから急に腕が伸びてきた。
その腕は翼の首に巻き付いた。
次に背中に何かが当たる感触があった。
?「静かに。大人しくしてくれ」
翼「その声は……拓実か?」
上「あぁ」
翼を羽交い締めにしたのは拓実だった。
上「お前を傷付けたくない。言う通りにしてくれ」
拓実は翼の背中に当てているものをぐっと握った。
翼「(なんだ? ナイフか何かか?)」
上「お前に頼みたいことがある」
翼「頼み?」
上「……須藤大樹の元に連れていってくれ」
翼「え?」
上「あいつにどうしても聞きたいことがあるんだ」
拓実の手に力が入る。
翼「……分かった。とりあえず手を離してくれるか?」
上「……」
拓実はすんなりと手を離してくれた。
翼は振り返った。
そこには拓実の顔があった。
髪は伸びていたが、髭はなく、服も汚れてはいなかった。
少なくとも野宿のような生活はしていないようだった。
翼「……久しぶり 」
上「…あぁ」
翼「あの、良かったら家の中で話さない?」
上「え?」
翼「別に変な意味で言ってるんじゃないんだ。ただ話がしたい。色々聞きたいことがあるんだ。黒瀬優太のこととか」
上「!!」
翼「ダメ、かな?」
上「……分かった」
翼は鍵を開けると、拓実に中に入るように促した。
拓実は家の中に入った。
翼も中に入り、キョロキョロと周りを見て周りに誰もいないのを確認すると、急いでドアを閉めた。
拓実を家に入れた翼は、鍵を閉めカーテンも全て閉めた。
拓実を椅子に座らせ、インスタントコーヒーを2人分用意した。
翼「さぁ、冷めないうちにどうぞ。って言っても入れたばかりだから火傷しないようにね」
上「……」
拓実はコーヒーを見つめたまま動かない。
翼「さて、色々と聞きたいことがあるんだけど……。先ず、何で須藤に会いたいんだ?」
上「……」
翼「……拓実?」
上「……週刊紙を見た。あの週刊紙の内容について聞きたいことがある」
翼「聞きたいことって?」
上「……それは言えない」
翼「……もしかして、弟さんのことか?」
上「…」
翼「お前には弟がいた。名前は黒瀬優太。須藤と、そして俺と同じ学校に通っていた。違うか?」
上「何でそれを……」
翼「俺も調べてるんだ。『赤マント』の事件。その中で10年前のことに辿り着いた」
上「……そうか。じゃあ隠す必要もない、か。その通り。俺は黒瀬優太の兄貴だ」
翼「……」
上「上坂っていうのは母親の姓なんだ。弟が亡くなって直ぐ離婚して、俺は母親と2人で暮らすことになった」
翼「そうだったんだ……」
上「弟が亡くなってから家はおかしくなった。母さんは精神を病んで手が付けられなくなった。父さんは離婚届を置いて姿を消した。それから1年もせずに母さんも亡くなって、俺は祖父母の家に引き取られた。家にはお金が無くて、俺は働きながら勉強して遅くに大学に入り、そして教師になった」
翼「……」
拓実は立ち上がった。
上「…俺は忘れるつもりだった」
翼「え?」
上「事件のことを忘れて、教師生活を満喫するつもりだった。優太もそれを望んでいたから」
翼「望んでいた?」
拓実は懐から封筒を取り出した。
翼「これは?」
上「優太が亡くなった後、机を整理してたら出てきたんだ。……あいつの遺書だ」
翼「遺書?」
翼は目の前の封筒を見て驚いた。
翼「遺書……」
上「……」
翼「黒瀬は最初から修学旅行の日に自殺するつもりだった…」
上「多分……。部屋を調べたら、貯めてたと言ってたお年玉が無くなってたし、パソコンにはバスの時刻表や自殺の方法を調べた履歴があった。それに自殺した場所までの行き方をノートにまとめてたんだ」
翼「だから最終日に居なくなったのか……」
上「遺書には俺や両親への感謝と謝罪の言葉が書かれてた。最後には『俺のことは忘れて幸せに生きてくれ』って。この遺書を見つけた俺は密かに事件のことを調べることにしたんだ。そこで俺は、優太が小久貫たちにいじめられてることを知った。けど、学校に言っても知らぬ存ぜぬばかり。小久貫には話すら聞けなかった。けど、1年前に記者の人が勤めてる学校に来たんだ」
翼「秋元茜……」
上「そこまで知ってるのか……。彼女は弟の自殺が殺人だって疑ってた」
翼「彼女には何を話したの?」
上「何も。彼女が優太の弟のクラスメイトだったことは知ってた。けど、彼女もいじめに加担していたかもしれないと思った。こっちから弟のことを聞いても『地味だった』『暗い人だった』ばかりしか言わなかったから。だから追い返したんだ」
翼「そうだったのか……。井上利樹とも揉めてたって聞いたけど」
上「彼の元には何回か訪れたことがある。弟のことを聞きに。あいつも小久貫のグループの1人だって聞いたから。けど何も教えてくれなかった」
翼「……」
上「記者の人に会って、俺なりにまた優太のことを調べようと思ったんだ。そこで彼に久しぶりに会いに行った。前よりもスゴい剣幕で怒鳴られたよ。そしたらこっちも熱くなって……」
翼「秋元は何で黒瀬のことを……」
上「分からない……。ただ、焦ってるようには見えたけど」
翼「そうか……」
翼「……なぁ、拓実」
上「ん?」
翼「俺が優太のクラスメイトだったことは、教育実習で会った時から気付いてたんだよな?」
上「……あぁ」
翼「なのに何で俺と仲良くなったんだ? あいつをいじめてたやつかもしれないのに。……情報を探るためか?」
上「……最初はそのつもりだった。けど、一緒に話してるうちに本当に仲良くなりたいと思った。お前はいつも生徒に寄り添おうとしてた。俺にも。けど、もし弟の件に関わってたらと思うと怖くて聞けなかった。だから連絡出来なかったんだ」
翼「拓実……」
翼は椅子から立ち上がった。
翼「……俺はいじめに気付いていながら黒瀬を、君の弟を助けることが出来なかった。自分のことで手一杯で黒瀬のことを見向きもしなかった。結果として彼に自殺という道を選ばせてしまった。……ごめん。……本当に、ごめんなさい」
翼は泣きながら拓実に土下座をした。
上「翼……」
拓実は翼に近付きしゃがみこんだ。
上「翼、顔上げてくれ」
翼は顔を上げた。
上「俺はお前を恨んじゃいない。今、優太や過去に向き合おうとしてくれてる。それだけで充分だよ。だから、もう謝らないでくれ、な?」
翼「拓実……グスッ。……ありがとう」
拓実は翼の肩に手を置いて優しく微笑んだ。
翼は胸に痞えていたものが、ほんの少しだけ下りたような気がした。
