赤マント 第21話
変化
浩一が調査をしている間、翼は学校の仕事に追われていた。
『赤マント』の事件により、保護者から通学時の安全に関して問い合わせが多く寄せられるようになった。
問い合わせというより苦情に近い。
「もっと見張りを増やせ」「毎日送り迎えをしろ」「授業時間を短くしろ」など。
学校に行かせない親もいる。
特に富裕層の親は質が悪い。
金で雇ったボディーガードが学校内を歩き回ったり、教師陣に金を渡し出席日数を減らさないように働きかけたりと暴挙に出ているらしい。
翼は保健医なので直接的な被害はないが、学校内は思った以上にピリピリしている。
姫愛は大変な思いをしていることだろう。
翼「……」
昼休み、翼は保健室の中を掃除していた。
最近は女子生徒たちも遊びに来ない。
担任からの圧力が強いようで、保健室にいるだけで怪訝な目をされるらしい。
翼「(音無たち、大丈夫だろうか……)」
翼は、教室内の空気感に敏感であろう玲穏や美南子のことを心配していた。
ガラッ。
保健室のドアが開いた。
美「先~生」
音「……」
入ってきたのは玲穏と美南子だった。
翼「お前ら……」
美「いや~。教室の空気に耐えられなくて抜け出して来ちゃった」
翼「そうか……」
翼は苦笑いを浮かべた。
翼「にしても珍しいな。2人が一緒に来るなんて(というより初めて見たな……。)」
玲穏と美南子はクラスが違う。
美南子は毎日のように玲穏に会いに行っているようだが、玲穏は軽くあしらってきた。
音「……たまたま会ったから一緒に来ただけ」
玲穏はそう言ってベッドに向かった。
美「……実は玲穏とアドレス交換したんだ」
翼「え?」
美「『ちょっとだけ前を向こうと思った』って。何か嬉しそうに言ってたよ」
翼「(お兄さんの気持ちが分かって、ちょっとは心が楽になったのかな……)」
玲穏を見ると、既に毛布を被って寝る体制に入っていた。
美「玲穏~。せっかくだからお話ししようよ~」
音「やだ。寝る」
美「えぇ~。そんなこと言わないでさ~」
美南子は玲穏に笑顔で駆け寄った。
玲穏は相変わらずのようだ。
翼「(あの2人には周りの空気なんてあんまり関係ない、か……)」
翼はそんな2人を見て優しく微笑んだ。
一方、大樹は家でのんびりと過ごしていた。
繁と会った翌日、大樹の中学時代に関する記事が世に出回った。
『カリスマ店員、いじめの過去』
『イケメン店員の裏の顔』
等、大樹が中学の頃にやっていた悪行が事細かに書かれていたのだ。
大樹は記事の内容を否定しなかった。
全てを包み隠さず話した。
『あの事』を除いて。
『あの事』を話せば、一真に何をされるか分からない。
それに、茜に話すと約束してしまった。
仮にも同級生なので、その約束は守ろうと思ったのだ。
記事の影響で、ネットやメディアでは大樹の誹謗中傷がたくさん出てきた。
かつての同級生もテレビに出て、インタビューで話をしていた。
中傷されたのは大樹だけではなかった。
亡くなった利樹や美沙希たち、さらには繁や一真の中傷記事が書かれていた。
誰かが大樹のことを調べあげ、そこから繁たちの存在にたどり着きネットで拡散したようだ。
一真の父、宗一郎は激昂し出版社などに即刻謝罪するように圧力をかけていた。
SNSへの書き込みについても全て削除するよう言っているらしい。
報道陣はこれを逆手に、宗一郎の裏金疑惑についても追求しようと考えているようだ。
須「……」
大樹は時計を見た。
大樹は簡単に身支度を終えると外に出た。
大樹がやって来たのは使われていない倉庫だった。
暫く待っていると、待ち合わせの人物が現れた。
秋「……」
やって来たのは茜だった。
彼女の顔は何やら怒っているように見えた。
茜は大樹の前にやって来ると、雑誌の記事を開いて大樹の顔に突き付けた。
そこには大樹の目元にモザイクがかけられた写真が載っていた。
秋「一体どういうことなの?」
須「どうって……。繁辺りが俺の情報を記者に売り付けたんじゃないのか?」
秋「そんなこと聞いてないわ!! 私は何故私以外の出版社にあんなバカ正直に全部話したのかって聞いてるの!! 私に話してくれるって言ったじゃない!!」
須「10年前のことについては話してないぞ」
秋「これだけ喋れば十分だわ。他の記者が絶対に10年前のことに辿り着く。そうなったら私が調べた意味がない」
須「……だから記事にされる前に俺に話を聞きたいってことか」
秋「えぇ」
須「……ハァ」
大樹はため息をついた。
須「…分かった、話すよ。ただ、一真のことに関しては俺にもどうしようも出来ないからな。今回のことで怪我しても俺にあーだこーだ言うなよ?」
秋「分かってるわよ」
大樹は茜に10年前のことについて詳しく話した。
俊介は捜査本部で週刊誌の記事を読んでいた。
卯「(今のところ俺の名前は出てないか)」
俊介は記事の隅から隅まで見返していた。
直接的な関わりがないとしても、もしもということがある。
面白ければどんな人物でも記事に載せる。
週刊誌とはそういうものだと俊介は分かっていた。
部「先輩」
聞き込みをしていた部下が帰ってきた。
部「須藤大樹に関する暴露記事ですが、どうやら複数の出版社に大量に怪文書が送られてきたそうです」
卯「怪文書?」
部「はい。そこには須藤大樹が中学時代に小久貫一真たちと行っていた悪事が事細かに書かれていたらしいです。差出人の書かれていない封筒が玄関に置かれていたそうで、誰が送ったかは分からないそうです。その後、裏取りをして記事にしたと……」
卯「……」
部「一体誰の仕業なんでしょうか?」
卯「……分からない。ただ、須藤大樹に近しい人物なのは確かだろうな。一応、須藤の身辺から探ってみよう」
部「はい」
俊介は週刊誌を机に置いて部屋を出た。
上「……」
拓実は売店で買った週刊誌を見ていた。
上「何だこれ……」
拓実は怒りに震えていた。
記事を持つ手に力が入った。
上「……会わないと。でも、どうやって」
拓実は考えた。
上「……そうだ。あいつなら」
拓実は記事をゴミ箱に捨てると急ぎ足である場所へ向かった。
開きかけの状態で捨てられた記事には、大樹のことが書かれていた。
